第十話
女の人の怒り声で、光征は目を覚ました。
どうやら気絶してしまい、自分の部屋のベッドに運び込まれたようだった。
先ほどのエルの一撃による後遺症で、身体を起こそうとすると背中に鈍い痛みが走り、顔を顰める。
それでも痛みを我慢して身体を起こすとそこには、怒った顔の凛に詰め寄られているエルとそれを押しとどめている、流、綾、健一、リサーナの姿があった。
「いくら訓練だからって限度があるんじゃないですか⁈こんなのただの弱い者のいじめと同じです!」
凛は、怒りも露わに光征を気絶させるほど追い込んだエルを責めていた。
自分達の同郷の仲間を傷つけられたのだ彼女の怒りももっともであった。
エルもそれを理解し、言い返すことも無くただ言われるがまま頭を下げていた。
周囲の人間は、そんな2人をまあまあと宥めて何とか凛を落ち着かせようとしていた。
「ま、まあリンさん。彼女、エルは若くして騎士団の分隊長でして、大変責任感のある人物なのです。今回のことだって何か考えがあっての事でしょう。」
「凛もさ別に山守君も凄い大怪我したって訳じゃないんだし。そんなに熱くならないで、ね?リサーナ様もこう言ってるし、それにエルさんだってさっきまで謝っていたじゃない。」
「そうは、言っても、確かにそんなに酷い怪我をしたわけでも無いけど・・・・・・あ、山守君!気が付いたの⁈」
目が覚めて何事かと身体を起こした光征に凛は、気がつくとそれまで詰め寄っていたエルから離れ光征のベッドに駆け寄った。
「大丈夫?気分悪くなったりしてない?」
「う、うん。別に平気。それよりもみんな揃ってどうしたの?」
「っち。どうしたの、じゃねーよ。お前がヘタレでエルさんの訓練中に倒れたせいで凛が心配して大変だったんだよ。あんまり俺たちやエルさんに迷惑かけるんじゃねえ。」
いまいち状況が把握出来ていない光征に向かって健一が、乱暴に口を開いた。
それを聞き、自分がエルにのされた事を知り何とも言えない情け無い気分になる。
凛は、視線を下げた光征に気遣い健一に文句を言った。
「あんなの訓練じゃないってさっきから言ってるじゃん。宮里は、もっと言い方考えた方がいいよ。」
「何だよそれ。だいたい前から思ってたんだけどこいつだけ足手まといにもほどがあんだろ。そんな奴別に気にすることねえじゃんか。」
「は、何言ってるの?」
「ちょ、ちょっと2人とも落ち着いて!別に喧嘩するこないよ。山守君だって目覚ましたしさ、元気そうだよ?ね?」
雲行きが怪しくなってきた2人の間を取り持つように綾は、割って入り光征に同意を求めた。
何となく自分の所為でこんな雰囲気になった事を察した光征は、綾にうなづいて見せ言葉を選び喋りかけた。
「ごめん。僕は、大丈夫だから。エルさんも悪くないよ。ただ、ちょっと今日の訓練は、いつもより少しハードなだけだったから。」
「ほら、山守君もこう言ってる事だしさ、凛。」
「っち。」
「健一も。あんまりそういう態度するなよ、な。」
「ああ、分かってるよ。」
少しずつ凛達が落ち着いて来たのをみて、リサーナがパンっと乾いた音を立てて手を鳴らした。
何事かと彼女の方をみんなで見るとリサーナは、少し笑みを浮かべながら言った。
「じゃあ、コウセイも何事も無かったようですので一件落着ですね。皆様、夕食にしましょう。今日は、久しぶりに私もご一緒させて下さい。エルもどうですか?」
リサーナの有無を言わせない雰囲気にエルは、冷や汗を流しながら承諾した。
「そ、そうですね。せっかくのお誘いですので是非。」
「では、参りましょう。コウセイももう大丈夫ですよね?もう暫くしたら夕食にしましょう。では、そろそろ皆様行きましょうか。」
「は、はい。そうですね。」
まだ、凛は不満そうであったが当の本人が大丈夫だと言うのであれば仕方がない。
「あんまり無理しないでね?」
「ありがとう。本当に大丈夫だから。」
「うん。じゃあ、また後で。」
凛は、光征に声を掛けて踵を返し、ポニーテールを揺らし部屋から出て行った。
他の人間も光征をちらりと見て凛の後について行く。
エルが最後になり、光征に一言声を掛けた。
「約束は、覚えているな?」
「分かってる。」
まだ、少し背中が痛むが動けないほどでは無い。
光征は、立ち上がりエルを見つめた。
「なら良いんだ。少し、心配した。悪かったな。」
「え、いや。」
「じゃあ、後でな。」
エルは、ほんの少し目を伏せ光征に謝った。そして部屋のドアをゆっくりとくぐり出て行った。
まさか、エルから小言を言われる事は、あっても謝られるとは思ってなかったから少し動揺してしまった。
ほんと何やってるんだろう。僕。
1人になった部屋で今の自分の状態を振り返り深くため息を吐いた。




