第九話
エルと訓練を開始してから3ヶ月以上が経過した。
3ヶ月以上経ち光征も少しは、昔の感覚を取り戻したが相変わらずその身に宿す魔力の輝きに力は感じられない。
それでも3ヶ月前までに比べればマシになったほうで、身体強化についてはエルから及第点をもらっていた。
一方で凛たちと言えば、もう既に帝国の騎士団たちと共に帝国領周辺の安全維持のための巡回任務くらいには同行し、中位の魔物くらいなら難なく倒せるほどになっていた。魔物とは、魔力を使う獣の事でこの世界では、沢山の種類の魔物が存在する。
基本的に魔物は凶暴でその力は、恐ろしく、伝説に出てくるような竜種などは、魔族よりも強く一晩で国を滅ぼしたとさえ言われている。
リサーナの話によると魔族の活動も今は、落ちついてきており大規模な戦闘は、しばらく起こらないだろうと言われていた。その為、凛達は、実戦訓練も踏まえ魔物の討伐をおこなっていた。
さらにその間に凛をより勇者として相応しく鍛える為に新たに他国から人を招くという噂も城内では流れている。
そんな凛達と光征とを比較し、エルは、悩んだ末提案した。
「なあ、コウセイ。そろそろお前も実践訓練をしてみないか?」
「あまり気が進まないです。」
光征の素っ気ない答えにエルは、深く溜息をついた。
訓練を開始した当初こそ何度も光征のこの態度には、腹を立てたものだが、それが変わらずここまでくるとある程度慣れてしまった。
「いやな、いくらお前が魔族討伐に参加しないといっても、今は戦時中だ。何が起こるか分からないんだから、実戦に慣れておくのも必要だと思う。」
それに、とエルは、心の中で言葉を付け足した。
そうしないとお前の立場は、ますます無くなるんじゃないか?っと。
めざましい成長を続ける凛達に比べ光征は、どうしても周囲から見て劣って見えてしまっているのが現状だ。
城内の心無い者の中には、光征の事を役立たずだと噂するものも出て来てしまっている。
当初こそ1人だけ劣って見えた光征にリサーナは、同情的であったが、今では凛達の方ばかりに目を向け光征の城内での噂を気にすることも無くなってしまった。
状況が状況だけにあまり期待の出来ない光征を気にしている余裕がないのだ。
エルとしては、リサーナの立場も分かるし、城の者のそういった感情もある程度は仕方ないとも思うが、やはりどこか納得のいかないものである。
実際、光征が全くの役立たずかというとそうでもなくきちんと訓練はしているし、そもそもこちらの都合で呼び出したのだからしっかりと面倒をみてあげるべきなのだ。
「丁度、次の週に凛殿達がミッドガルドから南西に行った所にあるクルエス森林の魔物の討伐に行くらしい。あの辺りにいる魔物は、数は多いがそこまで強い個体は存在していないからちゃんとした部隊を率いて遠征する今回の任務は、比較的簡単だ。」
「いや、だから行きたくないです。いきなり実戦なんて無理ですよ。」
「それもそうだな。そうと決まれば、今日からは実戦形式の訓練だな。」
「いや、だから嫌なんですけど。」
心底嫌がっている光征に対してエルは、強引に話を詰めて言った。
そして前から気になっていた疑問を光征に投げつけた。
「コウセイ。お前今のままでいいのか?」
「はい?質問の意味が分からないけど。別にいいですよ。」
「違うそうじゃない。出会った時から私には、君が何かから顔を背け逃げている気しているんだ。それが何かは、分からないが逃げ続けたままでいいのかと聞いている。」
「・・・・・・っ。」
思わぬ所で図星を突かれ光征は、口ごもって下を向いた。
「・・・・・・自分の事だ。良く考えるといい。別に私も任務だと言うだけで君にここまで言っている訳じゃない。ここ3ヶ月ほど君を見てきたが、一応何かをしようと君なりに悩んでいるように思えた。君は、きっと不器用なんだろう。ただ、このままの状態は好ましくないのも確かだ。今でこそ帝都は、安全だが敵は魔族だ。何が起こるか分からない。」
エルなりに光征を心配しての言葉だった。
その言葉に対して光征は、拳を強く握りしめぞっとするほど冷たい声を発した。
「・・・・・・あんたに何が分かるんだ。」
エルに対して怒りを孕んだ視線を光征は、ぶつけた。その視線を彼女は、真っ向から受け止め見つめ返した。
「何も分からない。ただ、このままでは良くないと思った。」
「・・・・・・そうですか。でもそもそも僕がこんなことをしないといけないのは、誰の所為なんですか?」
「それは、すまないと思っている。ただ、私は」
「貴方たちの力不足でこんな状況になっているんだ。貴方たちがもっと強ければこんなことにならなかった。」
「そうだな。その通りだ。」
「何で貴方達は、自分達の問題を自分達で解決しない?貴方達の方こそただの役立たずだ。」
そこまで言って光征は、エルの怒りと悲しみがないまぜになった視線に気が付いた。
「君の言葉分かった。しかし、それ以上の侮辱は、許さない。」
エルは、その身に濃密な魔力を宿し光征に対して、剣の切っ先を突き付けた。
その剣幕に光征は、押し黙って彼女を睨み返した。
「私の言うことが聞けないのであれば、実力で証明しろ。」
「・・・・・・分かった。」
「ハンデをやる。私に一撃でも入れれば、君の勝ちだ。私に勝てば君の好きにすればいい、ただし、君が負けたら私の言うことを素直に聞いてもらう。あれだけ吠えたんだいいだろう?」
「・・・・・・。」
無言でうなづいた光征に対し、エルは正眼に剣を構えた。
瞬間、土煙を上げエルが光征の前から掻き消え真上から剣を叩き付けた。
金属と金属がぶつかり合う音が練兵場に響いた。
エルの強力な魔力を纏った一撃を光征は、苦悶の表情を浮かべ何とか防いでいた。
「ほう、少しは訓練の成果が出たな。」
今のエルの一撃を受け止めるのは、決して簡単なものでない。
意外な結果にエルは、少しの間怒りを忘れ驚きの表情を見せた。
しかし、すぐさま流れるような動作で最初の一撃で体制を崩し、膝をついていた光征に向けて第二撃を放つ。
一応、光征はその攻撃を受け止めたが、体制が崩れていたこともあり、そのまま吹き飛ばされ鈍い音を立てて壁に激突した。
「っがっは。」
肺から絞り出すかのように声をあげ光征は、そのまま気絶した。
勝負は、一瞬でついた。エルの完全な勝利である。




