表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/11

第五章 お出かけ

 街へ出かけようと、シモンがクリスティアーナを誘った。


「君の家と僕の家の往復ばかりじゃ、つまらないだろう。たまには、にぎやかなところを二人で歩かないか」

 クリスティアーナも承諾した。街へ出かけるのはほぼ初めてだ。どこにどんな店があるのか、よく知らない。


「いろんな店があるよ。花屋も、宝石店も、カフェテリアだって。どこに行ってみたい? 食べたいものなどはあるかい?」

食べたいもの、と聞かれ、クリスティアーナは頬を染めて答えた。

「アイスクリームが食べたいです」

マエストロが一度お土産に買ってきたのだ。

「ああ、いいね」

 二人は、土曜日の午前九時と約束をした。


 当日、クリスティアーナは時間よりも少し早く、自宅の前でシモンを待った。今日の仕立ては、以前のドレスよりもカジュアルな、緑のワンピースだ。婚約が決まって以来、使用人がきちんと彼女に似合う衣服を揃えてくれるようになった。


 シモンと婚約して以来、クリスティアーナの生活は見違えるように自由になった。彼と一緒ならこうして外出さえ許してもらえるし、ピアノは心ゆくまで弾くことができるし、外見を整えるための道具を買っても咎められることはない。


「お待たせ」

 ドラゴンから飛び降りたシモンに、クリスティアーナは笑顔を向けた。

「ずいぶん待ってた? ごめんね」

「いえ、今出たばかりですわ」

 クリスティアーナの姿を眺め、シモンが嬉しそうに言う。

「きれいだよ」

 クリスティアーナは赤くなった。シモンは右手でクリスティアーナの髪をそっとなで、虹のような魔法の髪飾りをふんわりととめた。

「行こうか」

 二人が歩き出した時、後ろから呼び止める声がした。クリスティアーナの顔が強張る。


「お姉様!」


声をかけてきたのは、妹のコーデリアだった。ふわふわとカールした髪に大きなリボンをつけ、とても可愛らしい。口を大きく弧にゆがめた笑顔で、彼女は姉に問いかける。

「今からお出かけですの?」

「……ええ……」

「どちらまで?」

「市街に行くよ」

 そう答えたのは、シモンだった。コーデリアはにっこり微笑む。

「私も、街に用事があるんですの。途中までご一緒してもよろしいでしょうか? 義兄様、お姉様」

 クリスティアーナは固まったままだったが、シモンが先に「いいよ」と答えた。


 真ん中をシモンにして、右手にクリスティアーナ、左手にコーデリアの三人で並び歩いた。明るくしゃべりかけるコーデリアとシモンの話が弾み、クリスティアーナはそれを静かに聞いた。会話に口をつっこむのははしたないと、幼少期から躾けられている。


「そう、コーデリアは学園で魔法の成績がトップクラスなのか」

「ええ、そうなんです。レイクス家の名誉の為、努力しましたわ。なにしろ私一人の肩にかかっているんですもの」

「立派だね」

「義兄様は、学校には通われないのですか?」

「家庭教師をつけてもらっているんだ」

「どうしてですの? まさか、魔法無(アンマジカル)し……」

クリスティアーナは大きく息を吸い、勇気を出して言った。

「シモン様は、魔法無(アンマジカル)しではありません。歴とした魔法使いです」

コーデリアがぱっと振り向いた。いつのまにかクリスティアーナは、二人から少し遅れて歩いていた。


 コーデリアが目を細める。

「そうでしたの。失礼しました」

 シモンは首を振った。

「少し前までは、魔法無(アンマジカル)し同然だった。だけど魔力が回復して、元通り魔法を使えるようになったんだよ」

「ふうん……そう……」

おもむろにコーデリアは、人差し指の先に白い光を灯し、シモンの額をちょんとつついた。


「おかえりなさい、魔法の世界へ!」


シモンに向けられたコーデリアの笑顔はきらきらと輝かしく見えて、とっさにクリスティアーナは顔を背けた。


 今彼女が何の魔法を使ったのか、クリスティアーナには分からない。ただ、これだけは分かる。コーデリアは、魔法無(アンマジカル)しの姉と、自分は違うとシモンに見せつけるために魔法を使ったのだ。


 彼らの顔を見る勇気はなかった。もしも魔法使い同士、通じ合っていたら。もしシモンが妹を、うっとりした顔で見つめていたら。またあの惨めな暮らしに逆戻りだ。その仮定は現実かもしれないと、勘が告げていた。


「……では、私はこれで失礼します」

 コーデリアが静かに言った。顔を上げると、彼女はどこか悲しそうな顔でクリスティアーナを見ている。

「義兄様、お姉様。どうかデートを楽しんでくださいませ」

スカートの裾をつまんでお辞儀をし、立ち去ろうとするコーデリアを、シモンが呼び止める。


「君はどこに行くの?」

「裏通りへ、薬の材料を買いに行きますの」

「あそこの一人歩きは危ないよ。僕が送っていく」

 シモンは辺りを見渡し、目についた適当なカフェのテラス席にクリスティアーナを座らせた。

「ここで、アイスクリームでも食べて、待ってて」

「……はい」

 クリスティアーナを置き去りにして、シモンはコーデリアと歩いて行った。


 それからシモンが、だいぶ後になって戻ってくるまで、クリスティアーナはひたすら待った。


 彼女はまだ知らない__シモンが結局コーデリアの買い物の最後まで付き合ったこと。コーデリアにねだられ、アイスクリームを買ってやったこと。別れ際、コーデリアが彼の頬に、キスをしていったことも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ