第4話 思ってたエリート学校と違う
「妾はアイリス・玉藻・オコナーじゃ。皆の衆、よろしく頼む」
「「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉおおおお!」」」」」
朝一のホームルーム。
高校生ともなると勉強やスマホゲーで夜更かししがちで、どうしてもどこか気だるげな空気が校内に漂う朝の時間だが、1年1組の教室だけは熱狂が渦巻いていた。
「転校してきた美人留学生!」
「まさしく天からの贈り物だ!」
「ちょっと日本語が変だけど、時代劇とかで日本語の勉強したのかな?」
「俺の青春勝ち確だぜぇぇぇええ!」
朝のホームルーム冒頭でタマモが挨拶をすると、クラスメイトのみんなは大いに興奮していた。
──っていうか、当たり前のようにタマモは私と同じクラスなんだ……。
名だたる進学校である白鳳学園に留学の形とは言え編入した事といい、何かしらの妖力を使っていると思われる。
タマモのお母さんの力かな?
荒い術式とは言え、国をまたぐ転移を一応は成功させてるしね。
「おら、お前ら。分かりやすく転校生にテンションをぶち上げるな暑苦しい」
我らが1年1組の担任教諭の池子凪子先生が、朝からテンションの高い生徒を前に面倒くさそうにする。
「あ~、玉藻はお家の都合で急遽日本への留学が決まって」
「イケちゃん先生~。初対面でミドルネームで呼ぶのは失礼ですよ~」
「あ? そうなんか? 私は古典教師だから、そんな外国の文化とか知らんし」
池子先生は頭をぼりぼりかきながら、クラスの生徒からのツッコミを華麗にかわして開き直る。
金持で優秀な生徒が多い白鳳学園では、生徒になめられないように教諭もハイスペックな人が担っている。
だが、池子先生だけは例外で、常にダウナーでやる気がなく、その抜けた感じが他の教諭と違ってピリピリした所がなく、案外にも生徒から人気がある
「本当、なんで英語教師のクラスじゃなくて、古典担当の私のクラスに留学生なんか入れるんだよ……あの、ハゲ校長許せんな」
ブツブツと池子先生のボヤキが新学期から止まらない。
しかし、ハゲ校長は流石にまずいんじゃないの?
「い、いや……。妾も玉藻の名は気に入っておる。故に玉藻と呼ぶのじゃ」
タマモは、担任の池子先生に気を使ってではなく、本当に玉藻と呼ばれて嬉しいのだろう。
タマモは玉藻の一族であることを誇りにしている感じだしね。
まぁ、それはウソの家系図なんだけど……。
「玉藻がいいって言ってるからオーケーだな。んじゃ、玉藻。席はそこの空いてる白玉の隣の席な」
「うむ」
──で、当たり前に席も私の隣と……。
もう、半ば諦めている自分がいる。
そして、しずしずとこちらに向かってくるタマモだが。
「んべっ!」
──あ、何も無いところで転んだ……。
「う……うぇ……痛いよぉ桃萌ぉ。誰かが、転校生が席に向かう時に足引っかける奴やったぁ……」
ベソベソと泣くタマモ。
おい、妾口調どこ行った。
「いや、そんな性格の悪い子、この学校にいないから」
「ウソだぁ。私、アイスランドに居る時に日本の学園物アニメ観てて知ってるもん! 優秀な子弟が集まる日本の学校では、定期的にクラス間で学内の待遇改善を賭けて対抗戦を催したり、マウントを取り合ったりするんでしょ?」
何その偏った日本観!?
あと、転んで泣いてたくせに、なんでちょっと嬉しそうなの?
「それ、フィクションだから。この学校に入学してる子の大半は、地頭の良い何かしらの分野に秀でた子ばかりだから、一々他の人に意地悪なんてしないの」
「ええ~。生徒たちを次々と退学に追い込む生徒会長は?」
「するか! っつーか、私がその生徒会長なんだけど」
同じ立場の生徒に生殺与奪権を握らせるなんて、あきらかに学校自治の範囲外でしょ。
仮にそんな権限があったとしても、退学させた相手にめちゃくちゃ恨まれそうだから、そんな強権振るいたくないっての。
「桃萌って会長さんなんだ。あれ? でも桃萌って私と一緒の1年生なんじゃないの?」
「そこは、モモちゃんの人徳に寄る所なのだよ~」
「え……誰?」
前の席に座る女子から突然話しかけられて戸惑うタマモ。
「紗江。別に説明いいから」
「初めまして~。芦名紗江って言います。桃ちゃんの親友だよ。玉藻さんの事、タマちゃんって呼んでいい?」
屈託のない笑顔に、小動物的なちんまい女の子な紗江が人懐っこくタマモの胸襟に飛び込んでいく。
この馴れ馴れしさは、紗江なりの気遣いみたいなものだ。
「わ……妾は玉藻前ぞ。そんなタマちゃんなどと気安く呼ぶような者では」
「はいはい。そのキャラはもう止めな~タマモ。既にバレてるから」
何も無いところでスッ転んだ時点で、タマモの厳かな大妖怪キャラづくりは失敗している。
「ううぅ……。私の高校デビューが……」
「アハハッ! やっぱりタマちゃんって感じだね」
紗江も、別に正体を暴きに来たわけじゃなくて、編入性だからと言って肩肘張らずに『そのままの自分でいいんだよ~』という事を伝えたかったのだ。
「さ~て。ちょうど今日の1限は私の古文の授業だけど、折角転入生が来たんだ。つまんねぇ古文の授業を受けたい奴なんて、このクラスにいねぇよなぁ?」
「「「「おおおおぉぉぉぉぉっ!?」」」」
おお! この激熱な流れは?
と私も期待しちゃう。
「よっしゃ茶話会を開くぞ。おい、男子何人かで購買でジュースとお菓子買ってこい。金は私のポケットマネーだ」
「「「「いえっふぅぅぅぅうう! イケちゃん太っ腹ぁぁあ!」」」」
イケちゃん先生の音頭に対し、クラスの皆が歓喜の声を上げる。
「そうだろ、そうだろ」
「流石はイケちゃん。そこに痺れる憧れるぅ!」
「まぁな~」
「流石は、名門校独身女教師! お金持ってる御大尽!」
「うんうん……ん? 今、言った奴誰や!? ぶん殴るぞ!」
ワチャワチャするクラス内。
やっぱり、このクラスは楽しいな~。
「なんか、私が思ってたエリート学校のイメージと大分違うんだけど……」
そして、この空気にまだ馴染めていないタマモは、まだちょっと不満そうだった。
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