第17話 今のタマモには言わないでおこう
「タ~マ~モ~。昼休みは、よくもやってくれたわねぇ~」
「な……なんで怒ってるの桃萌?」
学校が終わって家に帰りタマモと2人きりになった事で
今日の昼休みでは、私に要らぬ嫌疑が掛けられた。
異国からはるばる単身でやってきた……(という設定の)いたいけな留学生に、留学してきて早々、異国の地でバイトをさせようという鬼畜女というレッテルだ。
慌てて否定したけど、
『有能で、人の気持ちなんて分からない白玉会長ならやりかねないかも……』
みたいな空気がぬぐい切れず残り、何か微妙な空気で終わった。
あれ? 私って選挙で選ばれた生徒会長だよね?
なんか、自信無くなってきたぞ……。
「そもそもバイトって留学生はしていいんだっけ?」
「うん。資格外活動許可申請を出入国在留管理庁に出せばオーケーだって。イケちゃん先生が『面倒くせぇな』ってブツブツ言いながら調べてくれて。書類様式もホームページから印刷してくれたの」
「へぇ。流石はイケちゃん先生」
ダウナーでヤル気ないように見せかけて、ちゃんと生徒想いなんだよね。
出入国在留管理庁なんて、教員じゃまず関りなさそうな行政機関の事まで調べて……。
──って、ん? 行政機関?
「タマモ……。タマモって、お母さんの転移の妖術で日本に来たんだよね?」
「そうだよ。一瞬でアイスランドから日本まで来れたんだよ。凄いでしょ」
エッヘンと胸を張るタマモ。
たしかに妖術は、大半の人間は知らない夢の魔法のような物だ。
だが、それ故に表の社会においては、その存在自体が考慮されていないため……。
「その書類を行政に出したら、不法入国がバレて、タマモ捕まっちゃうよ」
「ふぁ⁉」
「いや、だって正規の入国手続踏んでないし」
本当は、私の妖術でちゃちゃっとその辺の行政の公式データは書き換えるのは可能なんだけどね。
当局に見つかって、強制送還エンドなんて私は認めないから、後でちゃんとやっとこう。
でも、今のタマモには言わないでおこう。
「ええ……そんなぁ~」
「どちらにせよ、学校への書類には保護者の同意署名の欄もあるし、タマモには無理なんじゃない?」
ここぞとばかりに、可能性の芽を摘む私。
まるで毒親にでもなった気分だけど、タマモを護るためだから仕方ない。
仕方ないったらない。
◇◇◇◆◇◇◇
「あ~あ……。バイトしたかったな~」
「ま~だ言ってるの?」
翌朝の朝食でも、タマモはまだバイトの事が心残りなようだ。
「だって、桃萌に少しはお金入れたかったし……。この朝ごはんだって……」
「別に女の子一人分増えたからって、食費なんて大して変わんないし」
「そういう桃萌は昨日お仕事してたんだよね? どういう仕事してるの? 時給はいくらもらえるの?」
「え? ああ……。昨日はただの打合せだけだったからね。何もお金なんてもらってないよ」
「ふーん」
──ふぅ……危ない。
私の仕事はちょっと特殊だから、あんまり他の人には言わないようにしてるんだよね。
手伝うって言いだされても困るし、一緒に仕事してる相棒の美琴は、対人関係にかなり難があるからなぁ……。
「おはようございます会長」
「うげっ。火華さんが来た」
ちょうど朝食を食べ終わった所で、乃依姉ぇがお迎えに来た。
まるで、家の中を見ていたかのようなタイミングの良さだ。
「乃依姉ぇおはよう」
「おはようございます会長。はい、どうぞ」
「ん、これなに?」
朝の開口一番で、乃依姉ぇが何やら封筒を私に渡してきた。
受け取った封筒は、ずっしり重いので中をあらためると。
「ふぇ⁉ 札束!」
横から見ていたタマモが素っ頓狂な声を上げる。
「……乃依姉ぇ。なにこのお金?」
「会長、何も仰らなくていいんですよね。そちら、私からほんのわずかばかりな金額ですがどうぞお納めください。実は会長のクラスで盗ちょ……ゲフンゲフンッ! 会長がお金に困っているとの事を小耳に挟みまして」
ニコニコとしつつ、でも何かを期待するような笑み。
私の頭の中に、ある光景がフラッシュバックする。
「……だったら、タマモに乃依姉ぇが直接渡せばいいよね」
自分でもビックリするくらい冷たい言葉が出た。
「あ、あの……会……長?」
「私を介する意味が分からない」
私の態度に、困惑する乃依姉ぇ。
だが、何か自分がマズい事を言ったんだという事は分かったのだろう。
「あ……。こ、これは冗談! 冗談ですから。アハハハッ……」
そう言って乃依姉ぇが、慌てて札束の入った風呂敷包みを引っ込める。
けど、その背骨や芯のない態度は余計に私の精神を逆なでした。
「…………行こ。タマモ」
「え。ちょっと桃萌」
乃依姉ぇを残し、私はタマモの腕を引いて家を後にした。




