第16話 誰が夫だ!
「おはよ、モモちゃん。珍しいね、今日の昼休みは一人なんだ」
「あ、紗江。うん、今日は朝から仕事で公欠取ってて、午前授業は公欠だったから、朝の登校も一緒じゃなかったんだよね」
思ったより仕事が早く終わって、午後の授業開始ギリギリではなく昼休みが始まった直後の時間に間に合ったのだ
「公欠した仕事って、例のドラマ化の打合せ?」
「うん、そう。原作者の私の同意や確認抜きで進める訳にいかないからって先方に言われちゃってるから」
そう苦笑しながら、私は学校のカバンを机の横に引っかけ、手に持ったビニール袋を片手にキョロキョロと辺りを見回す。
「あれ? タマモは?」
「タマちゃんなら、昼休みが始まったら、すぐにイケちゃん先生の居る職員室に行ったよ。ちょうどモモちゃんとは入れ違いだったね」
「そうなんだ……。折角、スポンサーさんにもらったパン、お昼に一緒に食べようと思ったのに」
まぁ、すぐ腐る物じゃないから明日の朝食とかにでも回そうかな。
でも、朝は油揚げ料理がないと、あの子怒るんだよな。
「モモちゃん、随分とタマちゃんに御執心だね」
「は?」
「モモちゃんがそんな風に、他人に積極的に関わって行こうとしてるの珍しい」
「い、いや……。ほら! 一応、親に頼まれて居候……ホームステイさせてる子だし、色々と気に掛けないといけないいんですよ~」
急に、芯を食うような物言いの紗江に対し、思わず対外的についているウソの設定を盾にして飄々とした回答で逃げる私。
玉藻でキツネだから私はウソをつくのが上手なはずなんだけど、何故か紗江からの指摘に内心動揺してしまい、それが声音に影響してしまっている事が自分でも分かった。
「そうかな~。私や、火華副会長とは違う感じがするんだけど~」
ジトっとした湿度高目な目と、尖らせた口元で私への疑念を口にする紗江。
「違うって、どこが?」
「モモちゃんって完璧超人で、皆がワイワイしている時にも楽しそうだけど、どこか一線は引いてる感じするじゃん」
「…………そう?」
よく見てるな紗江は。
「普段つるんでるのが、お嬢様の火華副会長や、アーティスト肌の桜山さんだからレベル高い人としか付き合わないなんてモモちゃんの事を誤解してる人も居るけど、その2人と私の対応は一緒だし。でも、タマちゃんは……」
「紗江も大切な友達だよ。私みたいな面倒くさい奴に、面倒くさがらずに付き合ってくれてるんだから」
「……モモちゃんって、男に生まれなくて良かったよね」
机の上で頬杖をつきながら紗江が溜息をつく。
「アハハッ! おかげさまで男が怖気づいて寄ってこない気楽な御身分です」
「そういう所だよモモちゃん……」
呆れた顔をする紗江。
あれ?
何かスベッた私?
おっかしいな……。
午前中のドラマ化会議では、ドッカンドッカン笑い取って来たんだけどな~。
やっぱ、みんな仕事だからお世辞笑いとかしてたのかな……。
やばい、今度ギャグパートの辺りのセリフや構成を美琴とブラシュアップしないと。
そんな事を仕事モード脳で考えていると。
「あ、タマちゃん帰って来た」
「桃萌! なんで今朝は家に居なかったの?」
職員室に行っていたというタマモが教室に戻って来たら、開口一番に苦情が飛んでくる。
居ないとちょっと寂しかったけど、戻ってきたら戻ってきたで騒がしい子だなぁ。
「ちゃんとダイニングテーブルにメモ置いといたでしょ? 今日は午前中は仕事あるから先に出るって」
「学校サボって桃萌悪い子! 生徒会長なのに!」
「だから、仕事だっての。この学校は、ちゃんと事前に申請して許可が出れば公欠が認められるの」
白鳳学園では、各分野の才能ある子たちが集まってきていて、その活躍は学園の中だけに留まらない。
スポーツでの海外遠征や音楽の国際コンクール、数学オリンピックなどへの出場はもちろんの事、芸能活動や文化芸術活動をしている生徒が多いために、こういった公欠制度が充実しているのだ。
「え~。じゃあ、私のこれも公欠認められるかな?」
「これって?」
「じゃじゃ~~ん! バイト申請書!」
そう言いながら、タマモが見せて来たのは、バイト申請用の書類様式だった。
こういう許可申請物については、ICT化された学校ながら未だに紙書類なんだよな。
「ああ、これを貰うために、昼休みなのにエッちゃん先生の所に行ってたのか」
昨晩言ってた玉藻様のために一番大切なのは、お金を稼ぐ能力だって言った件に関連しての行動か。
いや……。
私的には、将来稼げるように、今は勉強とかを頑張ろうねって意味で言ったんだけどな……。
真意が伝わってなくて内心苦々しく思う私。
教育って難しい。
「タマちゃんバイトするんだ。何か欲しい物でもあるの?」
「ううん。将来、立派な玉も……あ、いや。ちょっとは桃萌にもお金渡さないとだし」
──いやいやいやいや。色々と言葉足らずだよタマモ!?
恐らく、『立派な玉藻様になるため』という真の理由を隠すために、咄嗟に誤魔化してのことだろうけど、それだと……。
「え、モモちゃん。タマちゃんから家賃をむしり取ってるの?」
ほらぁ! これじゃあ、私がいたいけな留学生から金銭搾取してる悪人みたいじゃんか!
「いや、紗江。それはその……。ちょっ! 何言ってんのタマモ!?」
ドン引きしている紗江を前に焦る私。
その焦りっぷりが余計に、話に真実味や『ひょっとしたら……』と思わせるそぶりになってしまっている。
「私ね、桃萌に昨夜言われて気付いたんだ。私、甘えてたって。これも将来の夢に向けた試練。だから、私の稼ぎでたまには遊んで来たっていいんだよ? 桃萌」
そう慈愛顔で返すタマモ。
アカン……。
これじゃあ、完全に私は妻が稼いだ金を、飲む打つ買うに使うサイテー夫じゃない!
って、誰が夫だ!
こうして、またしても私の好感度は微妙に下がるのであった。
何か私、タマモと絡むようになってから、損しかしてなくない?




