第15話 教育とはそういう物
「って、違~~~う!」
「なに? どうしたの?」
タマモの髪も乾かし終わり、私がお風呂もブローも終えてリビングに戻った所でタマモが叫び出した。
「あれ? 湯上りのルイボスティーはイヤだった? ホットミルクのが良かった?」
「だから、それ! さっき気付いたんだけど、私、この家で何もしてない! 全部、桃萌がやっちゃってるから」
地団太でも踏みそうな勢いで、タマモが不平を訴えてくる。
さては、私がお風呂に入って一人になる時間で、ふと我に返ったな。
「まぁ、私の家なんだから家の事するのは、私がやるのが自然でしょ」
「でも、私、この家に来てやったのって、ここに来た初日の朝に鮭さばいただけだし!」
──ちっ、気付かれたか。
最近の私は、どうやら自分に流れる玉藻としての血が騒いでいるのか、『誰かを甘やかしてダメにしたい』という欲求を、タマモを甘やかすことを、代替行動と捉えているのだ。
失礼ながら、タマモはそんな社会に影響を及ぼしそうな有能な人材には見えないし、いっかな~って思って、欲望のままに甘やかしていた。
あ、ちなみに鮭は当然、丸々一匹なんてすぐに食べ切れる訳も無いので、切り身に分けて冷凍してます。
おかげで、我が家の冷凍庫がパンパンもパンパンで限界ギリなのである。
「桃萌の買ってくれた服着て、桃萌の作ってくれたご飯食べて……。これじゃあ私がダメ女になっちゃうんだよ! こういうのをミイラ取りがミイラになるって言うんだから!」
おお、難しいことわざ知ってるじゃんタマモ。
でも、私の方にも、己の甘やかしたい欲望の解消以外にも考えがあって、あまりタマモを目立たせると、本物の玉藻界隈に話が届く可能性があるのを懸念しているのだ。
その点、玉藻様とは真逆なダメっ子だったら、そのリスクは随分と低減できる。
だからこそ、タマモにはこのままダメっ子で居てもらいたいんだけど。
「まぁまぁタマモ、落ち着きなよ。こういう時には、まずはゴールから逆算して、物事を単純化して捉えるの」
怪しい情報商材を売りつけてくるネット記事の冒頭みたいなことを言いながら、私はタマモを落ち着かせる。
「それで、タマモの最終目標は?」
「立派な玉藻様になること!」
「その通り。じゃあ、立派な玉藻様になるために必要な能力は?」
「殿方をダメ男にする家事能力と、仕事に行かせないためにお金を稼ぐ能力と、可愛いこと!」
「そうだね。で、その中で一番、今のタマモに無いのってどれかな?」
「……お金を稼ぐ能力?」
「その通り。家事についてはタマモは既にある程度は出来るし、可愛さは……まぁ、そこはターゲットの殿方に好かれれば問題なし。そうなると、今のタマモに不足しているのは経済力だよね?」
「う、うん……。でも、今の私じゃ……」
そうなのだ。
16歳の女子高生に経済力を求めるのが、土台無理なのである。
そもそも、学生の期間というのは、未来へ向けた投資の種を蒔く時期。
勉強なりスポーツなり学術・芸術活動なり、色んな事に挑戦し育むために、たっぷりと水と肥料と日光を浴びる時期なのだ。
教育とはそういう物なのだ。
「そう。だからこそ、焦らないで」
「うん……そうだね! 分かった桃萌」
ふぅ、何とか納得してくれた。
これで安心してタマモの事を甘やかせると内心ほくそ笑んだ私は眠りについたのだったが、後に全然タマモには伝わってない事が判明するのであった。




