第11話 会長が女狐に盗られちゃうよ~
「お嬢様。こちらが、現状の白玉会長を取り巻く状況をまとめたレポートになります」
「ご苦労様」
学校から帰り、習い事や来客との会食、学校の宿題等の雑事を片付けた後の、屋敷の私室にて、私は命じた調査報告書を受け取り、目を通していく。
「お尋ねしてもよろしいですか? 乃依お嬢様」
「なに? ヒナギク」
書類から目は離さずに、私はその場で待機する瀟洒なメイド姿の走水ヒナギクに、発言を許す返答をする。
「今までお嬢様は会長には正攻法で挑み、火華の家の力を使うことを禁忌としていました。それが、どういった風の吹き回しです? 私が所属する暗部の諜報力まで使って」
「状況が変わった。これは私の直感だけど、このまま座視していたら、確実に負けると判断した。だから、家の力でも何でも、なりふり構わず使う事にしたのよ」
この子は、自信なさげな口調なのに相変わらず痛いところを突いてくる。
自分が過去に吐いた決意をあっさりと覆すのはバツが悪いが、あえて正直に理由をヒナギクに話す。
「なるほど。たしかに賢明な判断ですね。このままだと乃依お嬢様は負けヒロイン一直線ですからね」
「負けヒロイン言うな」
「だから、私はとっとと告白してしまえば良いと、日頃からアドバイスしてましたのに」
大げさにため息をつくヒナギク。
走水の家は、何代にもわたり火華家に仕えてきた従者の家系だが、ヒナギクは白鳳学園の3年生で私より1つ年上だ。
物心ついた時から私と一緒なせいか、従者とは言え、ヒナギクとは実の姉妹のような気安い関係だ。
「だって……。会長に告白して断られるのが怖かったから……」
「乃依お嬢様は肝心なところでヘタレですからね。ボヤボヤ日和見をして決断を先送りするから、こうやって横から会長を搔っ攫われるんですよ」
「ぐふっ……」
指をツンツンして恥ずかしがっていたら、ヒナギクから抉り込むように核心を容赦なく突かれて、私の精神に100のダメージが入った。
「寝室で恋バナしてる時は勇ましいんですけどね。今日も、結局は白玉会長を怖がらせるだけで終わってたし」
「うぐ……。たしかに、あの時の私は、らしくなく感情的に動いてしまったけど」
なお、学内で起きた私の周囲の事を、ヒナギクはいつも完全に把握している。
ただの完全防音工事を施した生徒会室の中でのやり取りまで把握しているのは、流石は火華家の暗部だ。
「ああいう時は、ジワッと涙を目にためて、何か言いたげに壁際から相手を見つめればいいかと」
「え、そうなの? 言いたいことは、はっきりと伝えるのが火華家の流儀なのに」
「あれではただの嫉妬に狂った暴力系ヤンデレです。そして、小動物系の女が見せる病みや嫉妬は可愛いで済みますが、乃依お嬢様のような強い女がヤンヤンしていると、単なる恐怖でしかありません」
「小動物……。あの、オコナーさんみたいな女ね」
憎い女の事が思い出され、私は奥歯を噛みしめる。
ポッと出の女に会長を……。
「乃依お嬢様もオコナーさんも、清楚系美人で同じお嬢様タイプの容姿ですが、オコナーさんはその見た目に反して、か弱く抜けた所があるという隙があります。この意外性はかなりのアドバンテージです。男のみならず、女の子でも、そのギャップにはグッと来るでしょう」
「となると……」
「はい。留年している以外、これと言った強みを持たないただの量産型お嬢様キャラの乃依お嬢様では、ウソのようにボロ負けします」
「どうしようヒナギク~。これじゃあ、会長が女狐に盗られちゃうよ~」
そんな、ダイジェストで雑に処遇について語られてノルマ達成みたいなモブキャラに私はなりたくない!
だって、女の子は何時でもどこでも、自分が主人公のお姫様なんだから!
「まぁ、落ち着いてください乃依お嬢様。まず、乃依お嬢様は全然、白玉会長からそういう対象に見られてないですよね?」
「……ヒナギク。アンタ、主人をディスってクビになりたいの?」
私からのジト目とパワハラ発言をまるで意に介さず、ヒナギクは話を続ける。
「今までは生徒会室で2人きりというクソデカアドバンテージを持ちながら、のんびり愛を育むという名の日和った戦略を取っていた。でも、若い一つ屋根の下で同居する子が現れて大ピンチ」
「ふぐぅ……」
私の急所にヒット。
効果は抜群だ。
「でも、言うなれば白玉会長は、まだ大きな枷が外れていないとも言えます」
「枷……」
「女の子同士でという壁は、やはりとてつもなく高い」
「それは……」
ヒナギクの言っている事を感情論で否定したい自分と、現実を冷静に認識する自分とが相克を起こす。
「同居こそしていますが、今のところ白玉会長とオコナーさんには、そういった親密さは感じられません」
「だったら、これからも会長とは、じっくり愛を育んで……」
「その認識が甘いというのです。故意に留年して白玉会長と一緒に過ごせる3年間を、ただ負けヒロインとして、壁際からハンカチを噛みしめて眺めているだけの負け犬で終わらせる気ですか?」
「ふゆ……。そんなの絶対ヤダ……」
「だから、乃依お嬢様は今まで以上に攻めるしかなくなった訳です。守るだけでは何も得られません」
「よし……よぉ~~し! じゃあ、早速、明日の朝に行動を開始するわ。ヒナギクも手伝ってよね!」
「承知いたしました。しかし、乃依お嬢様がわざわざ留年までした時点で、流石に白玉会長も気づくべきだと思ったんですが……。あの方も相当にニブいですよね」
「そういうニブい子なのが会長の可愛い所なのよ。けど、ありがとうヒナギク。私の事を励ましてくれて」
「……いえ。お嬢様が元気になってくれて良かったです。まったく……どっちがニブくて可愛いんだか……」
「ん? 何か言った? ヒナギク」
「いえ、何も。そろそろ就寝する時間ですよ乃依お嬢様。おやすみなさい」
今後の方針が決まった所で就寝時間となったので、私はベッドにもぐりこみ、ヒナギクが部屋の照明を落とす。
「あ、待ってヒナギク。もうちょっとお喋りしましょ。このままじゃ私、寝つけないから」
「お喋りって……。お嬢様がどうせ話す事と言ったら……」
「あれは中等部時代の頃。私が中等部生徒会長で、会長が副会長として一緒にお仕事をしてた時に~」
その後、寝落ちしたヒナギクの横でベッドに入った私だったが、その日は興奮で全然寝られなかった。
待っていてくださいね会長。私が必ずや、あのドブ狐女とのしがらみを断ち切ってみせます。
そう決意を新たにした私は、ベッドの中で中々寝付けなかったのであった。
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