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9 土砂降りの雨

 雨の日の散歩は、それはそれで気持ちのいいものです。でも程度があります。土砂降りはダメです。

 最近の雨は、情緒が有りません。お天気の神様は何を考えているのでしょう。生まれて3年の私が、言うような事ではないと分かっています。でもおじいちゃんが好きな時代劇を横で見ているとそう感じます。

「春雨だ濡れて行こう」

 少しカッコいいちょん髷をしたお侍さんが、言っていました。おじいちゃんも真似している事が有ります。

 季節は春、そして今日は雨、でも、おじいちゃんは得意のセリフを言いません。なぜなら、外は土砂降りの雨です。滝のような雨です。少し根性のある鯉なら登って行けそうです。すみません少し盛りました。それでも、凄い雨である事は分ってもらえたかと思います。

「マルちゃんどうしようか、これではマルちゃんの好きな散歩にいけないね」

「キャンキャン」

 そうだね。今日の散歩は中止だね。残念だね。

 私は、散歩に行きたくないと今まで何度も言ったのに、分かってもらえない。それなら今更おじいちゃんの言葉を否定する必要はない。素直に散歩に行けない事を残念がることにした。結果は同じなのだから。この雨では散歩は無理です。

 私は大人の対応ができるのです。


 おじいちゃんは台所に行き、若奥さんと何やら相談している。

 若奥さんはタブレットを取り出して、おじいちゃんに説明し始めました。

 通信販売というものをおじいちゃんは教わっているようです。

 おじいちゃんは、そのタブレットを持って私の所に来ます。

「マルちゃんのカッパを買って上げる事にしたよ。どれがいいか選んであげるね」

 何それ、カッパを着て散歩に付き合えと言いたいの?

 勿論、さっきは、残念だと言ったよ。それに散歩は仕事だと理解している。でも、かと言って土砂降りの雨の中、散歩するのは何故。


 散歩の目的を忘れていないですか。散歩は、気晴らし運動等の精神的肉体的な健康のための手段です。

それとも、もしかして、本当の散歩の目的を知らないのは私の方?私の知らない、秘密の目的があるのですか。

 私が悩んでいるその隣で、別の意味で、おじいちゃんも悩んでいます。

「犬のカッパも色々あるのだな。色は黄色のベースの方が安全だろう」

「キャンキャン」

 安全を考えるなら、散歩に出かけない方がいいだろ。


「おじいさん、何をそんなに悩んでいるの」

 おばあちゃんの登場です。

「マルちゃんにカッパを買って上げようと思って、今、選んでいる最中だ」

「あら本当に、色々あるのね。これは迷う」

 おばあちゃんも私にカッパを着させるとことに反対はしないようだです。この職場はブラックです。

「これなんかどうですか」

 おばあちゃんが指さしているカッパは、とても可愛らしいデザインです。でも胴体の上だけをカバーできる簡単な物です。

「それは頭が濡れるだろう。頭が雨にぬれると気持ち悪からだめだろ。これなんかどうだ」

 おじいちゃんが推しているカッパはフル装備です。西洋の甲冑を思わせる物です。

「それでは、オシッコも出来ないじゃない」

 おばあちゃんは反対します。

 でも、私は散歩の途中でオシッコやウンチはしません。散歩は業務です。仕事に就く前に、やるべき事は済ませています。

 どこにと思いですか。勿論、トイレにです。新谷家では、私専用のトイレが完備されています。会社で言うところの役員専用のトイレです。また特殊な任務に就く職員には、それ専用のトイレがあると聞きます。もしかしたら、私はそちらなのかもしれません。

 だとすると、私の仕事である散歩の付き添いは、普通の散歩ではなく特別な何かかもしれません。土砂降りの雨の中でも、決行しなければいけない散歩、それは、・・・・。

 おじいちゃんとおばあちゃんは、普段とは別の顔を持っているのかもしれない。彼らは何者だ。


 私の推理は進みます。

 普段の散歩をふり返ってみます。毎日8回にわたる散歩、これだけ取っても異常です。更に、時には30分を越える情報交換。また夫婦でありながら一緒に散歩に行かない。

これらから導き出される答えは、

 間違いありません。彼らは某国のスパイです。それも夫婦別々の国のスパイです。

 流石です。彼らは一流のスパイです。今まで気が付きませんでした。土砂降りの雨でも伝えなければいけない情報が有るのでしょう。


 それでは、私の立ち位置を再考する必要があります。私はどう振る舞うべきか。おじいっちゃんとおばあちゃんは、もしかしたら、仮想敵国どうしかもしれません。そして本人たちはお互いがスパイだと思っていないのかもしれません

 そうすると、二人の正体を知っている私が有利です。どちらの味方にも成れるからです。

 しかし、危うい状況には変わり有りません。どちらかに味方して、それが原因で片方が消されるのは非常にまずい。今の状態が続くのが私にとって一番いいと思う。

 ならば、二人の正体がばれないようにフォローするのが、私の役目だ。

 そうなると、私はある意味、二重スパイとなるのか。 カッコイイ。


「キャンキャン」

 私のカッパはトレンチコートぽいのでお願いしたい。

「分った、分った。マルちゃんのカッパは、フリルの付いた可愛いのにしてあげるよ」

「そうね。それが良いわ」

 どこでどうなった。私が推理をしている間に、二人は話し合いを終えていた。


 数日後、私のカッパが届けられた。勿論、フリルの付いた可愛い物だ。

これは、何の罰ゲームだ。



 最近は通販で物を買う事が多くなりました。とても便利です。失敗もします。

 でも、選ぶ時間も、届いた瞬間も楽しいです。

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