10 カエルの合唱
5月の初めごろから、カエルが鳴きはじめ、次第に数を増やし、今や大合唱です。演目は第九でしょうか。
田んぼに水が引き入れられ、小さな苗が規則正しく並んでいます。
今年も夕方になると、カエルたちが歌い始めます。恋の歌だそうです。ロマンチックですね。
新谷家は郊外の中でも、更にその外れにあるため、カエルや虫たちの歌がよく聞こえます。
私は、夕食をすませ、自分のベッドで丸くなります。目を閉じると聞こえてくるカエルの歌声。
「ゲコゲコ、ゲコゲコ」
僕のお嫁さんになってくれないか。
「ゲコゲコ、ゲコゲコ」
今夜はとても月が青いね。
などと、恋人に愛を告げているのだろう。勿論、私にカエルの言葉は解らない。セリフは私の妄想です。
でも、静かな夜空に聞こえる歌は、例えカエルの声でもいいものです。
次の日の夜。
「ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ」
君が好きだ。僕は君を離さない。
少し増えたようだ。
そしてまた次の日の夜。
「ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ」
僕が一番君を愛している。君を幸せにするのは僕だけだ。誰にも君を渡さない。
合同お見合い?
そして、最初の日から10日がたつ頃。
「ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ、ゲコゲコ」
君を一生見つめていたい。僕は幸せだ。君は星だ、月だ、いいえ太陽だ。ああケロ子、君はどうしてケロ子なの。愛は勝つ。来世でもきっと僕は君を見つける。僕は絶対死にません。
「キャンキャン、キャンキャン」
やかましい!お前らブチ殺すぞ!
たまらず、私は窓を開け吠えてしまいました。
静粛が訪れました。
私の怒気に当てられたのか、カエルたちの歌声は消えました。
「マルちゃん。夜中に吠えてはいけませんよ。ご近所に迷惑でしょ」
私は、おばあちゃんに叱られました。
「キャン」
はい。ごめんなさい。
遠くから、犬の鳴き声が聞こえてきます。
「キャンキャン、キャンキャン」
五月蠅い。てめえら皆殺しだ。
その声は、たしか南原さんところのチワワです。
私は少し嬉しくなりました。分かり合える友を得た気分です。
日が昇り、散歩の時間が来ました。おばあちゃんとの散歩です。
最近では、おばあちゃんは、南原さんと仲良く話すことが多くなりました。今日も南原家に差し掛かったタイミングで、南原さんが、2匹のチワワを連れて、玄関から出て行きました。
自然と私も南原さんのチワワと話すようになりました。今日も私から声を掛けます。
「キャンキャン、キャンキャン」
やあ、お早う。昨日はカエルたちが特に五月蠅かったね。
「キャンキャン、キャンキャン」「キャンキャン、キャンキャン」
お早う。そうなのよ。五月蠅いッたらありゃしない。そう、それで少し注意したら、主人から叱られたのよ。
少し?「てめえら皆殺しだ」が少しの注意だとは思えないが、気持ちは理解できる。
「キャンキャン」
私も同じだよ。少し吠えたら、おばあちゃんに叱られた。
「キャンキャン」
ふふ、「やかましい!お前らブチ殺すぞ」が少しかしら。
「キャンキャン」
何だ、聞こえていたのか。でも、それを君が言う?
「「「キャンキャン」」」
あはは。
私たちは、尻尾を盛んに振って笑いました。
「あら、あなたたち随分と仲良くなったのね」
「あら、本当に」
おばあちゃんは、私の顔を覗き込んで、微笑んでいます。
時には辛い散歩の付き添いですが、私は、友達と楽しみを見つけました。
私は、南原さんやおばあちゃんのお陰で、仲良くなったなどと、嫌味な事は言いません。心が豊かになると、少しだけ優しくなれるのです。
カエルさんたちの事ですか? 勿論、見つけたら、一発殴っときます。
夏を目前に、カエルたちの他にも色々な動物や虫たちが、恋の季節を迎えていると思います。私の畑でも蝶たちが恋の真っ最中です。私は無慈悲に農薬を散布します。決して、羨ましいからではありません。




