11 前田さん家の太郎
今朝、この物語を読んで褒めてくれた女性がいました。何が良いのかと聞いたら、亡くなった主人の名前が、ヘビに噛まれた犬と同じだと言う。文面で、その犬の事を「その犬、頭は悪いようだが、体は丈夫なようだ」などと書いていた。申し訳ないので、その犬、太郎君に活躍の場を書きますと約束しました。でも、約束はしたが、何も思い付きません。そもそも、ヘビに噛まれるような、間抜けの犬に活躍などできるのでしょうか。
「ねえ、おじいさん、知ってる?」
「何の事だ」
「昨日、スーパーで前田さんの奥さんと会ったのよ。太郎ちゃん、とても元気になったようよ」
「そうか。またあいつの顔を見に行くか」
前田家の太郎がヘビに噛まれてから半月、すっかり元気を取り戻したようです。
おじいちゃんは、久しぶりに前田さんに会いに行くようです。私も漏れなく連れて行かれるのだと覚悟しています。
散歩が通常業務なら、これは残業です。何らかの残業手当を請求したいと思います。
「マルちゃん、今から前田の所に行くからついておいで」
予想した通りです。私は素直にしたがいます。私も太朗に会ってみたい気持ちがあります。
2週間前に歩いた道を、てくてくと歩きます。前に来たときは、心配な気持ちもあり、落ち着かない足取りでしたが、今回は気持ちよく歩きます。15分ほどで前田家に到着です。
「おーい、俺だ。上がるぞ」
相変わらず、今回もおじいちゃんは、相手の返事も聞かず、ガラガラと引き戸を開け、入ります。
前来た時は、奥から前田さんの返事がこのタイミングであったのですが、今回はありません。
「ワンワン」
代わりに太郎が、吠えています。
おじいちゃんは、上がり框からズカズカと入って行きます。私もついていきます。
太郎は台所で吠えている。
中を覗くと、前田さんが倒れていた。
そして、前田さんの足元には、1メートルを超える大きなマムシが頭を食いちぎられ死んでいます。
おじいちゃんは、慌てて駆け寄ります。
「前田!しっかりしろ。マムシに噛まれたくらいで死ぬな」
「あいたた」
前田さんは頭をさすりながら起き上がります。
「なんだ、新ちゃんか、来ていたのか。そうだマムシだ」
前田さんは慌てて周りを見渡します。
「それは、これのことか」
おじいちゃんは、前田さんの足元で死んでいるマムシを指さす。
「わっ!」
前田さんは驚いて尻もちをつく。
「そうだ、こいつに驚き、こけて頭を打ったのだった。また頭を打つところだった」
「大丈夫か、噛まれたりはしていないのか」
前田さんは自分の手足を確認しているが、見た感じ異状はないようだ。
「大丈夫なようだ。でもこのマムシ、頭を食いちぎられているぞ。新ちゃんがやったのか?」
「わしは、野獣ではない。ここに来たときには、既にこうなっていた」
「なるほど」
前田さんとおじいちゃん、そして私の目が、太郎に注がれる。
「ハッハッハ」
太郎は、息を荒くして尻尾を振っている。口元に赤い血が付着している。
状況証拠はそろっている。マムシを猟奇的に殺した犯人は、こいつだ。動機も十分ある。太郎は2週間前、マムシに鼻を噛まれている。復讐に違いない。10倍返しだ。
「ワンワンワン」
俺の鼻を噛むなど、100年早いわ。思い知ったか。
自供も取れた。
「太郎、良くやった。俺を毒ヘビから守ってくれたのだな」
「ワン?・・・ワンワン」
うん?・・・その通りだ。
「・・・・」
私は何も言わなかった。結果的には前田さんの言う通りなのだから、余計な事はいらない。
しかし、私は改めて思う。太郎は、勇敢で強く、ほんの少しだけ残念なワンちゃんだ。
これではお詫びにならない。彼女には、畑で採れた玉ねぎを持っていきます。




