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6 後ろ足で砂をかける

 私の育てている梅の木に小さな実がなりました。とても可愛いです。でもよく見ると枝先にアブラムシが湧いています。ううー、気持ち悪い。消毒です。今から消毒に行ってきます。物語はその後です。

「どうだった?」

 おばあちゃんが心配顔で聞いています。

「大丈夫だ。大人しく寝ていたら1週間で治るらしい。太郎は中型犬だから助かるが、マルちゃんの様な小型犬だと助からないらしい。それから人間の年寄りも死ぬことがあるから気を付けろだとさ」

 おじいちゃんは前田さんから仕入れた情報をおばあちゃんに話している。

「私たちならヘビに噛まれなくても、近いうちにお迎えがくるよ。あははは」

「そりゃそうだ。あははは」

 おじいちゃんとおばあちゃんは、仲良く笑っています。

 冗談じゃありません。二人が死んでしまったら、私の仕事がなくなってしまします。即リストラです。路頭に迷う事になります。

 二人には後10年は元気にいてほしいと思います。勿論、私のためです。

 私はビジネスライクに徹しています。そうある事がクライアントにも良い事だと分っているからです。私はパトラッシュではないのです。私のネロ(おじいちゃんとおばあちゃん)は死なせません。


 決意を新たにしていると、また、お仕事の時間が来たようです。今後はおばあちゃんと散歩です。今日はこれが最後の仕事の予定です。

 太郎は、あぜ道でマムシに噛まれたと聞いています。私の散歩コースにはあぜ道はありません。全て舗装された道です。安心です。

 でも、夏は火傷しそうなくらいアスファルトが熱い時があります。冬は冬で霜焼けになりそうなくらい冷たい時があります。仕事に熱い寒いは付きもだとしても素足にはこたえます。

 今の季節は快適です。暑くもなく寒くもない。おばあちゃんがお喋りに夢中になっても大丈夫です。お昼寝するだけです。

 今回も近所の話し好きのおばさんとお喋りが始まりました。でも余裕です。直ぐに寝ます。

「あら、マルちゃん。また居眠り?最近私の顔を見るなり、寝てしまうのね」

 返事をする気も起りません。完全無視です。

よくもまあ、毎日毎日、喋る事があるものだ。喋り続けなければ死んでしまう病にでも掛かっているのだろう。早く病院に行って治してもらえ。

 勿論、口に出しては言いません。

私はプロですから。クライアントのご友人に対して失礼なことは言いません。

態度が失礼だろうと仰るかもしれませんが、この態度は静かに話を聞く姿勢です。

人間社会の国会でも、静かに目を閉じて答弁を熱心に聞いていらっしゃる議員さんは沢山います。

実際は寝ているかもしれませんが、姿勢としては相手の話を静かに聞く態度です。問題ありません。


「それで、前田さんのワンちゃんは、どうでした。お宅の旦那さんは友人でしょ。慌てて帰った所を見ると、様子を見に行かれたのでしょ」

 このおばさんは、この話しが聞きたくて、待ち構えていたらしい。

「興味深々なようね。でも大した話しは無かったわ。ワンちゃんの太郎君は心配なし。ご飯も食べているから大丈夫。あれ位大きな犬なら、マムシに噛まれても、寝ていれば治るそうよ」

「へーそうなの。でもマルちゃんは小さいから、ヘビに噛まれたら、死んじゃうから気を付けなさい。ふふ」

 このおばさん、何が言いたい?私は少し目を開けて、おばさんの顔を見上げると、ヘビの様な目で私を見下ろしていた。口元からは、先が二つに割れた細い舌が、一瞬ペロリ。

「キャンキャン」

 うわー!

 私は飛び起きて吠える。

「あらごめんなさい。脅かすつもりは無かったのよ」

「あはは、マルちゃん。驚きすぎ」

 おばさんとおばあちゃんは、笑っています。ひどい。

 もしかして、太郎を噛んだのは、このおばさんが化けたヘビなのでは?

 そう思いましたが、本当のところ、私が寝ぼけていただけのようです。

 でも、念のため、おばさんから離れて、おばあちゃんの後ろに隠れます。

「あら、もうこんな時間。私そろそろ買い物に行かなくっちゃ。それじゃバイバイ、マルちゃん」

 おばちゃんは、手を振りながら去って行きました。

 けっ!私は、おばさんが去って行った方向に対し、後ろ足で砂を掛けます。

「あれ、マルちゃん、怒っているの?そんなに怒らないで早く機嫌を直して帰りましょ。今日の晩御飯は何だろうね」

 おばあちゃんは、私の頭を優しく撫でます。

「キャンキャン」

 そうだ。晩御飯だ。

 私は尻尾を振って喜びます。

チョロい。私は自分でも分かる。チョロすぎる。

 

 おばあちゃんが、家に向けて歩き出そうとした時、遠くの方からピーコ、ピーコと救急車のサイレンが聞こえてきます。

 冬の間は、よく聞こえてきた救急車のサイレン。それはお年寄りがお餅を喉に詰まらせたのが原因だと聞いている。お餅も食べつくしたこの時期は、とんとサイレンも聞かなくなった。

 ならば、何を喉に詰まらせたのか?

 救急車イコール、年寄りが喉に何かを詰まらせるという発想は、高齢化が進んだ田舎特有のものだろう。まあ、どうでもいい事だ。

 散歩の帰り道、おばあちゃんと私は、テクテクとゆっくりと歩いて帰ります。


 書き終えて、椅子にもたれかかると、窓の外から雨の音が聞こえてきます。

 天気予報によると、今日はまとまった雨が降るそうです。いつもなら、畑に水をやりに行く時間ですが、今日はその必要がありません。もう少し書こうかと思います。

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