5 ヘビ
これからの季節、あぜ道を歩いているとヘビに遭遇することが有ります。ドッキとします。
昨日、ヘビの赤ちゃんに会いました。やはり、ドッキとしました。でも、よく見ると可愛い気もします。
「ねえ、聞いた?この前、前田さんのワンちゃんヘビに噛まれたのよ」
私は、おばあちゃんの散歩に付き添っています。仕事中です。
例によって、話し好きのおばさんに遭遇しました。長い話になりそうです。でも今の話を聞くと、私にも関係のありそうな内容です。寝ずに聞くことにします。
話によると、ヘビに噛まれたワンちゃんは、中型犬のミックスらしい。3日前、散歩の途中、茂みに潜むヘビをそのワンちゃんが見つけ、臭いを嗅ごうと近づいたところをガブリ。 ヘビはマムシという毒蛇でした。
「キャンキャン」
そのワンちゃんはアホですか?
私は話の途中で思わず叫んでしまいました。
「マルちゃんどうしたの。怖かったの。ヘビは怖いね。それでどうなったの?」
おばあちゃんは、突然の私の声に驚いたようだが、話の続きが気になる様だ。私も聞きたい。
「前田さんは直ぐにワンちゃんを病院に連れて行ったのよ。そしたら先生が大丈夫でしょうと言って、噛まれたところを消毒して終わり」
「血清とか打たないで大丈夫なの?」
「そうみたい。今は家で寝ているようよ」
その犬、頭は悪いようだが、体は丈夫なようだ。
話を聞き終わるなり、おばあちゃんは、散歩を切り上げ帰宅する事にしました。
「おじいさん、知ってる?」
帰宅するなり、おばあちゃんは、おじいちゃんを捕まえ、話しかけます。
「何を慌てている。何の事だ」
「あなたのお友達、前田さんとこのワンちゃん、マムシに噛まれて、今家で臥せっているそうよ」
「前田のところの犬と言えば、太郎だな。様子を見てくる」
おじいちゃんはお見舞いに行くようだ。それならおじいちゃんとの散歩は中止だな。少しはゆっくりできそうだ。
しかし、私の希望的予想はよく外れる。今回もそのパターンだ。
おじいちゃんは、おばあちゃんから私のリードを受け取り、そのまま外へ出る。私はお見舞いの付き添いをしなければならないらしい。
まあ、他人とは言え、ご近所の同業者だ、お見舞いはするべきだろう。私は素直について行きました。
前田さんの家には10分程で着いた。
「前田、俺だ。入るぞ」
おじいちゃんは、相手の返事を待たずに玄関の引き戸をガラガラと開けた。
「おう、新ちゃんか。上がってこい」
奥の方から声が帰ってきました。おじいちゃんは私を玄関に残したまま上がって行きます。私は上がり框に前足をかけ、中の様子を伺います。少し離れた所に絨毯が敷かれ、そこには中型の柴犬らしき犬が伏せています。確か名前は太郎だったか。
「キャン キャン」
太郎さん、私はマルと言います。そちらに行っても良いですか?
小声で話しかけましたが、返事はありません。寝ているのでしょうか。
「キャン」
失礼しまーす。
私は小さくお断りを入れてから、太郎の近くまで行きました。
「キャ」
きゃ。
まあ、何と言う事でしょう。太郎の顔は2倍程に腫れ上がって、いいえ膨れ上がっています。言うなれば、北斗神拳の伝承者ケンに秘孔を突かれたザコの様です。今にも破裂しそうです。
マムシ、恐るべし。
私の悲鳴がうるさかったのでしょう。太郎は目を開き私を見つめます。とても不安そうな目です。
馬鹿な子ほど可愛いとは、良く言った物です。私の3倍はあろう太郎の事が愛しく思えます。
私は太郎の乾いた鼻をペロペロと舐めてあげます。「痛いの痛いの飛んで行け」と願いを込めて。
太郎は安心したのか、静かに目を閉じます。
暫く傍で様子を見ます。
ピクリともしません。
まさか、フランダースの犬、パトラッシュじゃないよね。
「キャンキャン、キャンキャン」
逝くな。戻ってこい。ネロ(前田さん)を一人にするな。
太郎は再び目を開けます。良かった。
でも、太郎の眉間にしわが寄っています。
・・・ごめんなさい。うるさかったですね。
何はともあれ、太郎は心配ないようです。
おじいちゃんと私は、お見舞いを終えて家路につきました。
フランダースの犬、あれは何度見ても涙腺崩壊です。




