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34 お墓参り

 お盆の行事用にキュウリで馬を試作しました。畑で採れた曲がったキュウリに爪楊枝を4本刺しただけの簡単な馬です。3日経つとキュウリの馬はふにゃふにゃになり倒れてしましました。本番はお盆直前に作らなければならないようです。

 今年もお盆がやってきました。おじいちゃんは私を連れて、お墓の清掃へ行きます。

「マルちゃん、今日の散歩はお墓参りもするからね」

 新谷家のお墓は、海の近くの墓地にあります。いつもの散歩より少しだけ足を延ばした所です。

この町に住む殆どの人がこの墓地にお墓があります。そのため、お盆の時期は町中の人がここへ訪れます。


「キャンキャン」

 知ってるよ。もう直ぐおじいちゃんが入る所だね。

 智子さんとおばあちゃんがその事について話をしていたので知っています。

 おばあちゃんは、反対にそこから出てきたような気もします。


「そうだね、ご先祖様がお休みになっている所だよ。お盆にはご先祖様が家に帰って来るからその準備もするんだよ」

「キャンキャン」

 えっ!スケルトン、まさかゾンビじゃないよね。


 これは大変だ。魔物が出るのは、アニメの世界だけだと思っていた。まさか現実にあるなど思ってもみなかった。

 おじいちゃんは、Fランク冒険者(それも自称)、アンデットを撃退できるとは思えない。

 だから、そのための準備をするのか。


 墓地に着くと大勢の人が来ていた。

 お堂の水道から水を運んで、各家の墓石を清めている。そうか、あれは俗にいう聖水というものだ。なるほど、少しでも墓から這い出るアンデットを抑えるためだ。

 そして人々は、手を合わせて祈りを捧げている。それがどのような効果を生むのかは知らないが、これから始まる戦闘の勝利を祈願しているのだろう。

 新谷家のお墓を清めていたおじいちゃんも最後にはお墓に向かって手を合わせている。

 私もそのお墓に頭を垂れておじいちゃんたちの無事を祈る。

「よし、綺麗になった。家に帰ろう」

 おじいちゃんは、晴れ晴れとした笑顔で腰を上げた。周りを見るとみんな落ち着いた表情だ。なるほど、準備万端整ったようだ。


 家に戻ると、仏壇の前に棚が設けられており、その上には桃が数個置かれていた。

 私はこれを知っている。これは邪気を払う桃だ。

古事記にある話だ。イザナギと言う人が黄泉の国から逃げ帰る時、桃を鬼に投げて難を逃れた。鬼とはゾンビの事だろう。

この知識もおじいちゃんと一緒に見たアニメから得たものだ。日頃からの勉強が役に立つ。

 

「これは美味そうな桃じゃ、早く食べたいのう」

「キャンキャン」

 だめだよ、おじいちゃん。これはゾンビを撃退する最終兵器だよ。お盆が過ぎるまで食べてはいけないよ。

 おじいちゃんは仏壇に手を合わせると、自分の部屋に入ります。桃は諦めた様です。

「あら、美味しそうな桃だね」

 次はおばあちゃんの登場です。

「キャンキャン」

 おばあちゃん、まだ食べてはだめだよ。

「マルちゃんが、桃の見張りをしているのかい。偉いねえ。ご褒美にワンチュールを上げようかな。早苗さんを呼んで来てくれるかい。ワンチュールを上げるよう頼んであげよう」

「キャンキャン」

 やった!直ぐに呼んで来るよ。

 私は、台所に居るだろう若奥さんを呼びに行った。


「キャンキャン」

 おばあちゃんが、呼んでいるよ。

「マルちゃん、どうしたの?」

 洗い物をしていた若奥さんは、手を布きんで拭いながら、私を見つめます。

「キャンキャン」

 こっちだよ。

 私は、仏壇の部屋に向かって尻尾を振ります。

「分ったわ、ついて行けばいいのね」

 私は若奥さんを連れて仏壇の部屋に戻ります。

 先ほどまでいた、おばあちゃんの姿が見えません。

 それから、桃の数も減っているような。

 まさか、おばあちゃんは、私を騙して桃を盗った?

「マルちゃん、まだ桃は食べてはいけないのよ。ご先祖様がお帰りになってから頂きましょうね」

「キャンキャン」

 違うよ、おばあちゃんが、若奥さんにワンチュールを・・・・。

 私は、必死に若奥さんに、状況を伝えようとしますが、上手く言えません。その間にもおばあちゃんは、桃を食べているのに違いありません。

 やられた!私は愚かだ。

「キャンキャン」

 ごめん、早苗さん!


 私は部屋を飛び出し、廊下を走ります。こんな時、名探偵コナンならスケボーに乗って犯人を追う。そんな光景が頭に過ります。少しだけ自分が名探偵になった気分です。

 バタン!

 おばあちゃんの部屋にたどりつた私は、襖を勢いよく開けます。

「キャンキャン」

 そこまでだ。おばあちゃん。諦めてお縄につけ!

 興奮した私の頭の中は、銭形平次と名探偵コナンが混ざり合っていました。


「おや、早かったね」

 おばあちゃんは、桃をムシャムシャ食べていました。

 見つかったのに、食べるのを止めようともしません。何とふてぶてしい犯人だ。

「キャンキャン」

 窃盗の現行犯だ。ワンチュール詐欺もある。この際余罪も追及してやる。覚悟しろ!


「そう朝からキャンキャン言うものではないよ。一緒に食べよう。美味しいよ。ほらワンチュールもある」

 おばあちゃんは落ち着いて引き出しからワンチュールを取り出した。

 私は、生唾を飲み込みます。

「キャンキャン」

 こんなことでは、懐柔されないぞ!

「まだあるよ」

 おばあちゃんは、引き出しから、3本のワンチュールを取り出した。

 ・・・

「キャンキャン」

 今回だけは、大目に見てあげよう。

「ご寛容なお裁き、恐れ入ります」

「キャンキャン」

 そちも、悪じゃのう。

「いえいえ、お代官様ほどでは」

「「あはは」」


 一連の騒動は、名探偵コナンから始まり、銭形平治を経て、最後は水戸黄門で締めくくられた。


 おばあちゃんから貰った桃は、少しだけ酸っぱかった。これが大人の味と言うものだろうか?

 これで私は、甘いも酸いも噛分ける大人になったと思います。



 連日、猛暑が続きます。熊本では大きな地震が発生したとニュースで知りました。猛暑の中、被災された人たちが心配です。


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