31 カラスが口をあけ、蝉が鳴き止む時
30話を書いた後、引き続き、電車の中で書いています。お腹がすいて物語が出てきません。ご飯を食べてから書こうかと思います。でもお腹がいっぱいになると、何も考えたくなくなるのも事実です。
今日は、久しぶりに白山さんの畑に寄ることにしました。黒ネコ先生に会えるかもしれない。そう思うと楽しみです。
近くまで来ると、麦わら帽子をかぶった白山のおじいちゃんの背中が見えます。夏野菜の収穫をしているようです。
「白山、暑い中、精が出るの」
おじいちゃんが、声を掛けます。私は、黒ネコ先生を探します。
畑の隅々から小屋の中も見ましたが、先生はいないようです。
「おう、久しぶりだな、新谷。聞いたぞ、シルバー人材に登録したそうだな。どんな仕事をもらえた」
おじいちゃんは、私を指さしながら言います。
「これだよ」
「何、散歩か。犬の散歩をして、金が貰えるのか」
「おうよ。わしほどの散歩のスペシャリストとなると、金になるのよ」
「キャンキャン」
嘘だ。おじいちゃんの方が、散歩されているのだ。
「何やら、マルちゃんは、嘘だと、言っているようだぞ」
「まあ、半分は嘘だな。元盲導犬の散歩だから、目の不自由な人でも散歩ができる。楽な仕事だよ。それよりも黒ネコ先生がいないようだな」
おじいちゃんも先生の事を気にしていたようです。
「ああ、あの先生は、ここ暫く見かけないな。この暑さだ、どこかに避難しているのだろう」
「そうなると、カラスに野菜を荒らされるのではないのか」
「まあ、わしがおるから大丈夫だろう。それに、そのカラスならあの状態だ」
白山のおじいちゃんは、電信柱を指さしている。
電子柱にはカラスが1羽、口をだらしなく開けてとまっている。放心状態とまでは行かないが、その一歩手前の状態だ。
気が付くつと、午前、あんなに五月蠅く鳴いていた蝉の声もしない。この暑さは、蝉も黙らせるようだ。
しかし、何故、1羽のカラスが暑いのを我慢して、そこにいるのだろう。
「・・・マルちゃん、帰ろう。ここは危険だ。白山、お前も早く帰った方がいいぞ」
「そうしよう」
白山のおじいちゃんは、そう言うと、自転車の籠に収穫した野菜を乗せた。
そして、自転車をこぎ出そうとした瞬間。
「カー」
先ほどのカラスが鳴いた。
私には最後の力を振り絞り鳴いたように聞こえた。
白山のおじいちゃんも同じように聞こえたのでしょう。
白山さんは、籠から一つのトマトを取り出し、カラスの方向へ投げてやった。
「新谷、それじゃまたな」
「おう。またな」
白山さんは自転車をこいで立ち去った。私とおじいちゃんも、畑を後にする。
少し歩いたところで、振り向くと、あのカラスが、トマトを口に咥え飛び立つのが見えた。
白山のおじいちゃんは、たまにカラスにトマトを上げているのでしょう。
カラスが、その場でトマトを食べないのは、家に子供が待っているのだと思いました。
「キャンキャン」
ねえ、おじいちゃん。白山さんが、カラスにトマトを上げたのはどうしてかな?」
おじいちゃんも先ほどから何か考えている様子です。
「白山は何故、カラスにトマトを上げたのだろう。わしにくれたらいいのに」
おじいちゃんはトマトが食べたかったようです。
「キャンキャン」
ねえ、何故、白山さんはカラスにトマトをカラスに上げたの?やっぱり、カラスが可哀そうだからかな」
「何故かな」
おじいちゃんにも分からないようです。
「キャンキャン」
白山のおじいちゃんが優しいから。
「もしかしたら、太らせて食べるつもりか」
「キャンキャン」
流石にそれは無いだろう。黒ネコ先生なら食べるけど。
「そうか、解かった!やはり太らせて黒ネコ先生に上げるつもりだ」
いや、違うと思う。
そうこうしているうちに、私たちは、家に帰り着いた。
「ただいま。ああー、家の中は涼しくて生き返る」
ここで、少し説明しておく。
新谷家は、午後からエアコンが稼働している。それは、外の気温が高すぎるため、設定温度まで室温が下がらない。そのため、エアコンはついたり切れたりせずに常に稼働し続けている。寒くなったり暑くなったりしないのだ。
おじいちゃんが、熱中症になりかけた事を反省しての対処ではない。
若奥様から冷えた麦茶を受け取り、それをゴクゴクと飲んだおじいちゃんは、ふーと息を吐くと、居間でごろりと横になる。
「キャンキャン」
ねえ、白山のおじいちゃんは、決してカラスを太らせるつもりは無いと思うよ。
おじいちゃんは、むくりと上体を起こし、考え込む。
「カラスに忠告してやるべきかもしれない。トマトを食べ過ぎて飛べなくなったら白山に捕らえられる」
おじいちゃんは基本、優しいと思う。でも、その心配だけはしなくていいと思う。
蝉は、気温が35℃を超えると鳴かなくなるそうです。蝉の声が聞こえなくなったら非常に危険な状況です。速やかに命を守る行動をとりましょう。レベル4です。




