3 同業者
私たちは競争社会に生きています。地球上の生物は植物も動物も人間も同じだと思います。それは、良いも悪いもありません。そういうものです。競争は勝たねばなりません。
本当かな?私は負け続けているけど、結構楽しい。
でもマルちゃんは違います。他家の犬との待遇の違いが気になるようです。向上心です。
顧客のニーズに応えるのはプロとして当然です。誰が吐いた言葉かは知りませんが、そんな事は戯言です。
独占企業であれば他業者に顧客を奪われる心配などないため、ニーズへの対応は当然ではないのです。ニーズとは報酬アップへの条件です。
新谷家では散歩の付き添いは私しかいません。変わる者がいないのです。それで苦労もありますが、営業努力の必要がありません。
おじいちゃんやおばあちゃんの戯言に付き合う必要はない。また私も言いたいことを言えるのです。聞いてくれたことはありませんが。
今も私はおじいちゃんの散歩の付き添いをしています。
前方に見えるのは南原家の2匹のチワワです。同業者です。玄関から出てきたところを見るに、今から散歩のようです。
「「キャンキャン」」
先方も私に気付いたようです。うるさく吠えています。私も吠えます。
「キャンキャン」
やあ、ご機嫌よう。久しぶりだね。
「キャンキャン」
ご機嫌よう。本当に久しぶりだね。元気でしたか。
「キャンキャン」
ああ、何とかやっているよ。そちらはどうだい。
「キャンキャン」
私たちも、ボチボチやっているよ。
「こらこら、喧嘩しない。すみませんね、南原さん」
「私の方こそ、うるさくして、ごめんなさい」
もう少し近状について話していたかったが、無理やり引き離された。
南原さんは70歳、おじいちゃんより10歳年下の女性、若いころはとても綺麗だったと聞いています。今もその面影が残る、品の良いおばあちゃんだ。
南原さんは、おじいちゃんに軽く頭を下げると行ってしまった。
おじいちゃんは、名残惜しそうに見送っている。
まさかとは思うが、おじいちゃんは南原さんのことを好きなのでは?
まあ、人間たちの痴話事情など、どうでもいい事です。それよりも、南原家のチワワ2匹の事です。
彼女たちは2匹で一人のクライアントを受け持っています。
比べて私は1匹で二人のクライアントを受け持っています。
その上、彼女たちの散歩の回数は1日2回で、私は8回です。
さぞや薄い報酬で頑張っているのかと思いきや、そうではないらしい。
今見た限りでは、毛並みも良く、良い香りが漂っていた。定期的に美容院に通っているのは明白です。
私の場合は、おじいちゃんに体を洗ってもらっています。
解せぬ。
色々と考えながらも散歩は進みます。
おじいちゃんは、何が嬉しいのか、鼻歌を歌っています。
私は、考え事を中断して、鼻歌を歌っているおじいちゃんを見上げる。
本当に楽しそうだ。多分、南原さんと少しだけでも話ができたことが嬉しいのだ。
こういう人が勝ち組なのだろう。
おじいちゃんの嬉しそうな顔を見ていると、こちらまで楽しくなってきました。
私も勝ち組の仲間入りです。
「ただいま」
「おかえりなさい。あらお父さん、ご機嫌ですね。何か良い事があったのですか」
「いや、大した事ではないよ。冷えた麦茶をお願いする」
若奥さんは、台所へ行き、直ぐに戻ってきた。お盆の上には冷えた麦茶の他にワンチュールが乗っていた。
「はい、マルちゃんも、お待たせしました」
「キャンキャン」
私は千切れるほど、尻尾を振りました。
笑う門には福来る。
おじいちゃんの笑顔は福の神を連れて来たようです。
書き終えたので、今から好きな小説を読むことにしました。椅子に座り、足を机に投げ出すと、ネコが腹に乗ってきた。苦しい。




