29 サミット
今日も元気に、畑に出かけます。途中カラスに出会いました。私の畑を荒らす奴です。暑さのため、口を開けています。真っ黒の羽は熱を吸収するため、大変暑いのだろうと推察します。ざまあです。
午後3時、外は蝉が合唱しています。
ジーンジンジン、ジー。ジーンジンジン、ジー。
蝉の鳴き声が、太陽光線が降り注ぐ音の様に聞こえます。
今、外に出たら焼き殺されそうです。
聖なる光に、焼き殺されるのは、死霊やアンデットの悪者たちです。決して私たちは死霊やアンデットではありませんが、(おばあちゃんは怪しい)・・・と思いますが、浄化される予感がします。
「マルちゃん、行くよ」
意を決した、おばあちゃんからのお誘いです。
「キャンキャン」
おう!いざ参らん。
私も、決死の覚悟をして応じます。
おばあちゃんは、大きめの日傘をさし、玄関を出ます。私もその陰から出ないように、おばあちゃんの半歩後ろを就き従います。
目的地は、白山さん家です。
「こんにちは、」
「もうそろそろ来るかなと思って、冷たいカルピスを用意してまっていたよ。マルちゃんは例のものでいい?」
「キャンキャン」
ありがとう、智子さん。
私が、おばあちゃんの誘いに素直に従っているのは、このためです。
今日は、おばあちゃんたちの定例会の日です。彼女らはこの定例会をサミットと呼んでいます。週に1度開かれる重要な会議です。
この会には、おばあちゃんと智子さんの他にも南原さんが来ています。なので、犬は南原さんのチワワ2匹も一緒です。
このサミットの議題は、世界情勢(ご近所の噂話)についてです。
「この前の救急車、遠藤さんよ」
「知っている。でも次の日ピンピンしていたね」
「年を取ると、心臓が止まる事があっても、また自然と動き出すことがあるらしいよ」
「それは、一度死んで生き返るの?脳に障害が残るのでないの?」
「それは、アンデッド化しているのかも」
「三途の川を見たか聞いてみようか」
「それは、ちょっと聞きづらいでしょ」
「そうよ、噛まれたら、私たちもアンデットになるかもよ」
「見た感じ、ミイラみたいだから、酸素や栄養を必要としない体になっているのじゃない」
「私の旦那も同じような感じ」
「障害といっても、どこからが障害で、どこからが老化なのか解らないよね」
「病院行っても、悪くなった原因は老化の一言で説明されてしまう」
「うちの旦那は、ゼンマイで動いている感じ。シャキシャキ動いていたと思ったら、突然止まってしまう」
「そうそう、うちのも同じかな」
「この町全体が、同じ状態かも」
「外から見たら、私たち3人もゾンビと変わらないよね」
「「「あはは」」」
誰が何を喋っているのか、重要ではありません。中身のない会話です。
しかし、会議は白熱する。侃々諤々、喧喧囂囂。
そして、彼女らの直ぐ近くで開かれている別のサミットでも同じです。
私たち犬の議題は、労働と対価(散歩とワンチュール)についてです。
「キャンキャン」
最近のワンチュール、種類が多くなったね。
「キャンキャン」
そうそう、ベースのとりささみは変わらないけど、緑黄色野菜とかチーズが入っているのがあるよね。
「キャンキャン」
もともと美味しいのに、どんどん美味しいのが増えるね。
「キャンキャン」
私たちの労働は、変わらないのに、全体的に報酬が上がっているのはなぜかしら。
「キャンキャン」
それ聞いた事がある。ベースアップと言うらしいよ。経済成長に伴う全体の賃上げなのさ。
「キャンキャン?」
何のため?
「キャンキャン」
人材確保のためだよ。
「キャンキャン」
私たち優秀な犬を雇い続けるための報酬アップか、なるほど、納得だ。
「キャンキャン」
そうだ。井筒屋のゴン太君は、ステーキを貰っているよ。
「キャンキャン?」
何それ、食べれるの?
「キャンキャン」
うちのおばあちゃんと同じことを言っている。勿論食べ物さ。最高に美味しいらしいよ。
「キャンキャン」
私も食べたい。どうすれば食べるるの」
「キャンキャン」
我々では無理だ。ゴン太君は元盲導犬だ。我々のような一般労働者では口にできない。
「キャンキャン」
でも、ワンチュールも最初は、王侯貴族の食べ物だったじゃない。それが今では私たちも口にしている。可能性はあるわ。
「キャンキャン」
そうだな。ステーキより美味し物が、開発される可能性だってある。
「キャンキャン」
そうだよ。人間は、私たちペットがいないと生きていけないのだから、必死で商品開発するよ。
「キャンキャン」
そのとおりだ。今は、彼らの努力に期待しよう。
会議は白熱する。侃々諤々、喧喧囂囂。ただ、五月蠅いだけです。
今は暑いです。私の部屋はエアコンがありません。扇風機だけ。辛いです。カラスの気持ちが解ります。




