26 強 敵
JRでの通勤中、書くのは、快適です。空調が利いていて、自宅とは全然違います。身体が揺れるのも愛嬌です。
今、私がいる所は、白石家の茶の間です。おばあちゃんは、2杯目のお茶を飲んでいます。私は、水とワンチュールを頂き、半畳程の小さなカーペットの上で耳だけ立てて、お昼寝です。
「ああ、生き返った。外は凄い暑さだよ」
「私んちを散歩中の休憩場所にしていない。まあいいけど」
「ごめん、ごめん、でも今回は、うちの旦那の仕事関係で、たまらず逃げて来たのよ」
「何それ、もしかして、シルバーの仕事、もう始めたの?」
おばあちゃんは、智子さんに今日有ったことを詳しく話しています。
私も今日の事をふり返りながら聞いています。
「それで、私は智子に用事があるからと言って、今ここにいる訳よ」
「疲れたから、先に帰ると言えばいいのに、そんな嘘付いて、旦那と競ってどうするのよ」
「ついね。それに嘘じゃないよ。智子とお茶をする用があるのは本当じゃない」
「それで、マルちゃんと、ゴン太は仲良しになったのだろ。明日も連れて行ってやらないと可哀そうじゃない」
智子さん、良い事を言う。
私は、おばあちゃんが何と答えるか気になり、体を起こして見つめます。
ジー
「もー、分ったよ。連れて行ってあげるよ。でも朝だけだからね。午後は無理だよ」
「キャンキャン」
ありがとう、おばあちゃん。ありがとう、智子さん。
その後、おばあちゃんたちは、茶菓子をバリバリ、笑いはゲラゲラ、1時間ほど過ごし帰宅した。
「ただいま」
「キャンキャン」
ただいま。
「おかえり、白山さん所の用は済んだのかい」
「実は、散歩が辛くなって、智子の所に逃げたのさ、お茶して帰ってきた」
おばあちゃんは正直に話した。智子に言われて、少し素直になったのかな?
「そうか、別れた時、顔色が優れなかったから、重要な要件があったのかと思った。それで、体の方は大丈夫か」
「このとおりさ。1時間ほど喋って笑ったら元気ハツラツだよ。明日も朝だけ、ゴン太の散歩に付き合うよ。マルちゃんと約束したからね」
「マルちゃん、それは良かったな」
おじいちゃんは、優しく私の頭をなでます。
「それで、あんたの方はどうなんだい。この仕事、上手く行きそうかい?」
「ああ、ゴン太は賢いし優しい。わしのペースを考えて歩いてくれる。この分なら、一月でも二月でもやれるよ」
えっ!それは、散歩のプロだ。私以上のスキルを持っている。
ゴン太君、やりますね。この近辺では、私を越える散歩のプロはいないと思っていましたが、私の思い上がりだったようです。ライバルの出現です。
強敵と書いて友と読む。これは最近見たアニメの受け売りです。
何はともあれ、明日会えるのが楽しみです。ふふふ・・。
日が変わって、早朝
おじいちゃんとおばあちゃんと私、井筒屋さんのお屋敷に着きました。門を潜ると玄関前にご主人とゴン太が立っているのが見えます。
ゴン太の巨躯が昨日より更に大きく見えます。彼の体から燃え上がるようなオーラが見えます。
「待っていたぞ、ケンシロウ」
幻聴まで聞こえてきそうです。
彼をライバルと認めたからでしょう。
いいえ、アニメの見過ぎです。人はこれを中二病と言うそうです。おじいちゃんと同じです。
「おはようございます。井筒屋さん、お待たせしたようです」
「いいえ、時間通りです。それではよろしくお願いします」
「はい。ゴン太君をお預かりします」
おじいちゃんはリードを受け取ります。
「キャンキャン」
おはようゴン太君、昨日、おじいちゃんが君の事を褒めていたよ。
「バウバウ」
おはようマルちゃん、褒められるような事していないのに、何だろう。
そうだった。相手に合わせて歩くスピードを調整する事など、プロなら当たり前の事だ。
挨拶が終わり、私の思いを乗せた散歩の開始です。勝負です。
今年初めて、蝉の抜け殻と口を開けているカラスを、職場で見かけました。夏の到来を感じました。




