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24 登録証

 マルちゃんのお勤め、第23話まで書き、ネタが尽きてきました。おじいちゃんとおばあちゃんの日常を描いて来ましたが、そうそうお年寄りの日常に変化など起こりません。どうせなら、おじいちゃんを異世界召喚してしまおうかと考えましたが、流石にそれでは、まずいと考え思いとどまりました。


 おじいちゃんは、シルバー人材センターへ赴き、登録を済ませてきました。

 家族全員の反対を押し切っての凶行だと思います。

 しかし、本人はご機嫌です。その登録証を片手に、ニタニタしています。

 この状況、見たことがあります。おじいちゃんが時々見ているテレビアニメ、異世界物に出てくるシーンです。

 そして、その登録証は、たしか冒険者ギルドに主人公が初めて冒険者として登録し、手にしたギルドカード、ランクがFからSSSまであるやつだ。

 多分、いや間違いなく、おじいちゃんは、シルバー人材センターの登録証を見て自分が新人冒険者にでもなったつもりだ。


 アニメの異世界では、80歳の新人冒険者はいないだろう。

 でも、現実世界には、存在する。考えてみれば、シルバーさんは、60歳から90歳くらいまでの人材だ。登録するのが早い人もいれば、おじいちゃんのように80歳から始める人も一定の割合で存在する。

 そして、ランクだが、シルバー人材センターでは、今までの経験を考慮してランク付けされる。

 例えば、庭師の経験がある人は、剪定作業において時給がその他の人と違い高い。

 では、おじいちゃんのランクは、どの程度なのか気になる。

「キャンキャン」

 おじいちゃん、私にも、その登録証見せてよ。

「マルちゃん、見たいかい、見たいだろ」

 おじいちゃんは、登録証を見せたくて仕方がないようです。

「キャン!」

 早く見せろ!

「仕方がないな。見せてあげよう。これが冒険者、いやシルバーの登録証だ」

「キャンキャン」

 今、冒険者と言った。

 想像した以上に、はまっているようです。去年は時代劇にはまっていたが、今は、ファンタジー系のアニメだ。おじいちゃんは、外からの影響を受けやすいと、おばあちゃんが話していたことがある。本当だと思う。


 そして、見せてもらった登録証には、会員番号、登録シルバーセンター名、氏名、年齢に写真、期待したジョブ名や、ランクなどの記載は無かった。

 当然です。この登録証は、作業現場に行き、依頼主に本人と確認してもらう物だから、そのために必要な情報以外は、記載されていません。ランクなど本人確認に必要ありません。

 でも、私はおじいちゃんが持っている登録証にFの文字があったら、おじいちゃんはもっと喜んだと思います。

 登録する時も、アニメにあるように、「最初は誰でもFです」と受付嬢が話すところを、おじいちゃんは聞きたかったと思います。

 なぜ、そこまで私が詳しいかと、疑問に思われていますね。そうです。その通りです。私もはまっています。テレビアニメ異世界物です。

 梅雨の間、外に出れず、おじいちゃんと見ていたテレビアニメ、面白かったです。


「マルちゃん、これ良いだろう。この前みたアニメのギルドカードだ。これがあるとクエストや依頼を受ける事ができる」

「キャンキャン?」

 それで、どんな依頼を受けるの?

「仕事の内容は、登録の時に聞いた話だと、草刈りに清掃作業、農作物の収穫の手伝いだな」

「キャンキャン」

 やっぱり、おじいちゃんはFランクだね。


「朝から騒がしいね。あら、またおじいちゃんは登録証を眺めているのかい」

 おばあちゃんが、奥から出てきました。

「おう、わしは今から冒険者ギルドに行ってくる。マルちゃんの散歩は頼んだよ」

 おじいちゃんは、完全にはまっています。シルバー人材センターを冒険者ギルドと言って、訂正もしません。

「ああ、シルバー人材センターだね。無理はしないようにね」

 流石です。おばあちゃん、おじいちゃんと長年連れ添っただけの事はあります。普通なら、おじいちゃんの認知症を疑うところです。

 おじいちゃんは意気揚々と出かけて行きました。後ろ姿は、Fランク冒険者の少年のようです。


「それでは、私たちも散歩に出かけようかね」

「キャンキャン」

 行こう、行こう。

 おじいちゃんが出かけて行ったので、今日の散歩はおばあちゃんの4回だけだ。仕事が半分になった。私としては、非常に嬉しいです。


「智子いるかい」

 最近、おばあちゃんは、散歩の途中、智子さんの家に寄ります。

「京子、おはよう。さあ上がって」

 おばあちゃんと智子さんは、お茶を飲みながらのお喋りを始めました。アフタヌーンティならぬモーニングティです。

年を取ると午後まで体力が持たないので全てを午前に行います。

 私も家に上げてもらい、おばあちゃんたちのお喋りをウトウトしながら聞いています。


「うちの爺さん、とうとうシルバーに登録して、今日は仕事を貰いにシルバー人材センターへ行ったよ」

「80歳でしょ、元気だね。稼いだら、何か買ってもらいなよ」

「だめだめ、この前にも言ったように、そのお金は直ぐに必要になる医療費に置いておくよ」

「そうだった。でも、それでは何のために働いているのか解らないね」

「それでも、本人は、喜んでいるのは間違いない。今日もシルバーの登録証を見てニタニタしているし、シルバーへ出かける様子はまるで子供の様だった」

「何がそんなに、嬉しいのかね」

「大体、予想はできている。あれは最近見始めたテレビアニメの影響だね。冒険者ギルドがどうの、クエストがどうのと言っていたから」

「京子の旦那は、若いなあ。それって、中二病とか言うのじゃない」

「あははは、受ける。80歳になって中二病なんて、いくらなんでも若すぎる」

「京子だって、化粧してカツラを被れば、30代に化けられるよ」

「じゃあ、智子も一緒に化けてみる」

 ネコは50年生きると、猫又と言う化け猫になると、聞いたことがあります。おばあちゃんたちも化けると言っています。

 おばあちゃんたちは、76歳です。人間も80年近く生きると、化ける事ができるのかもしれない。

 でも、おばあちゃんたちは、カツラと化粧で化けると言っています。特殊能力ではないようです。

 私は、おばあちゃんと智子さんが厚化粧をして、30代の女性に化けた姿を想像します。

 やはり、無理があると思います。

 その姿は、30代の女性ではなく、間違いなく化け物です。化け物に年齢があるとすれば、30才代のメスの化け物であり、言っている事に嘘はないのかもしれません。


 私は、薄目をあけて、お喋りを楽しむ二人を下から盗み見ます。

 大きく口を開けて笑う、二人の姿が目に入ります。

 既に、人をやめた2匹の魔物のように見えます。


 近い未来に、シルバー人材センター(冒険者ギルト)から討伐依頼が出るかもしれないと思いました。



 24話、ギリギリ、現代社会の枠に収めたつもりです。


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