16 ニャンチュール
港で野良ネコを最近みません。釣りに行くと寄ってくる茶トラちゃんも、いなくなりました。もしかして、保険所の方に連れて行かれたのでしょうか。この世界は野良ネコがいてはいけない世界なのでしょうか。糞や死骸など問題は多いと思う。でも野良猫のいない世界は寂しい。
白山のおじいちゃんが大けがをして1週間が経ちます。退院は、もう少し後の予定です。
巡回警備も継続して実施しています。
今日が、いつもと違うのは、畑に白山智子さんも一緒に来ている事です。そうです。最高級スイーツ、ニャンチュールを持ってきています。
「黒ニャンコさんは、居るかしら」
「最近は良く見かけるから、多分居るだろう」
おばあちゃんが言った通り、黒ネコ先生は、いつもの塀の上でお休みしていました。
私は塀の直ぐ下まで駆け寄り、先生に挨拶します。
「キャンキャン」
先生、おはようございます。
黒ネコ先生は、瞼を持ち上げます。尻尾を2回振り、瞼を閉じます。いつも通りです。
「キャンキャン」
今日はお礼の品を持って来たよ。私と一緒に食べようよ。
先生は半分だけ目を開きます。少しは興味がありそうです。
「おはよう。黒ニャンコさん。畑を守ってくれているお礼に、ワンチュールを持って来たよ。召し上がってね」
智子は籠から、お皿を二枚取り出して、ワンチュールとニャンチュールをそれぞれに入れます。先生は、それを塀の上から眺めています。
「キャンキャン」
早く降りてきて食べよう。
先生は、塀から飛び降りると、ゆっくり近づいてきます。お皿の前で立ち止まり、智子を見ます。
「どうぞ召し上がれ」
智子がそういうと、先生はペロペロと食べ始めました。私も一緒に頂きます。
「キャンキャン」
美味しいね。先生のお陰で私まで御相伴に与りました。感謝だよ。
私と先生のお皿は、あっという間に綺麗になる。
「ニャゴ」
美味しいかった。
先生はそう呟くと、小屋に入って行きました。
そして、待つ間もなく、直ぐに先生は出てきました。その口には例のカラスの死体を咥えています。
先生はそれを智子の前で落とします。
「ニャー」
美味しかった。お礼だ。
智子はそれを見て、微笑みます。
「ありがとう。黒ニャンコさん。喜んで頂くね」
智子さん、流石です。私とおばあちゃんの時は、小さく悲鳴を上げた上、後ずさりしたものです。
智子はカラスの死体を受け取ると、スコップを持って、畑の隅に移動する。そこで穴を掘りだしました。
深さ50㎝ほど掘り下げると、そこにカラスを丁寧に入れ、土を被せて行きます。
「ニャゴニャ?」
あれは何をしているのだ?
先生が聞いて来るので、私は直ぐに答える。
「キャンキャン」
あれは別名、犬の冷蔵庫だと思う。
「ニャゴ?」
何それ?
「キャンキャンキャンキャン」
私たち犬は食べきれない物をああして埋めておくのさ、後で食べるために。でも、人間がするのは、珍しいな。
「ニャー」
なるほど。
「ニャーニャーニャー」
それはそうと、先ほどのニャンチュールをまた食べたいのだが。
「キャンキャンキャンキャン」
それは、大変難しい事だよ。私も滅多に口にできない。でも先生ならまた貰えると思う。この畑を守っているから」
「ニャー」
そうか、それは楽しみだ。
私たちが話している間に、カラスは綺麗に埋められて、その上にこぶし程の丸い石が置かれていた。次に掘り返す時の目印かな?
「マルちゃん、そろそろ戻るよ」
おばあちゃんから声を掛けられたので、私は先生にお別れの挨拶をする。
「キャンキャン」
先生、またね。
「ニャー」
ああ、またな。
いつもは、尻尾を2回振るだけなのに、今回は声で返事してくれた。
「黒ニャンコさん、またね」
智子も手を振って、先生に声を掛けている。先生はどうしているかと見ると。
「ニャー」
ご苦労。
何か偉そうな事を言っている。
ニャンチュールが食べたくても、媚びは売らないようです。
先生、流石です。
武士は食わねど高楊枝。黒ニャンコ先生には、そうあってほしい。私の押し付けです。




