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第13話 優雅なお喋りタイム

 晴美さんはトコトコとこちらへと向かってきて、俺と茜を見てニヤッと笑みを浮かべた。

 嫌な予感がしたので、俺は無理矢理にでも話題を提示する。


「晴美さん、こんにちは。ここの常連なんですか?」


 さっきの店員さんの接し方から考えて、晴美さんが常連なのは一目瞭然であろう。

 すると、晴美さんはうんうんと頷き、俺の手を取った。自然な動作であった。


「そうそう! ここ私のお気に入りの喫茶店でね!」


 晴美さんは、満面の笑みでそう言う。


 この顔と仕草、自然と手を取る動作で、一体何人の男子を勘違いさせてきたのだろうか。


 こう言う女の子はモテない男子達の癒しや、数少ない女の子と触れられる機会を作ってくれる味方でもある。

 けれど同時に、簡単に女の子に触れられて、優しくされたら「え?この子俺に気があるんじゃないの?」などと簡単に勘違いしてしまうモテない男子の敵にもなる。


 結局どっちなんだよ……


 そんなことを考えながら、水を飲み干す。

 気がつけば晴美さんは自然と茜の隣を確保し、席に座っていた。


「で、茜は拓翔君とデート?」


 晴美さんは、茜に優しい笑顔を浮かべながら話しかける。

 それと同時に、茜が飲んでいた水をむせ返した。


「は、晴美お姉ちゃん⁉︎ そんな訳ないでしょ⁉︎」


 茜はえらく動揺しているようであった。

 右手に持つ水の入ったグラスは手の震えと共にガタガタと揺れ、危うく水が溢れそうであった。顔も真っ赤である。


 何このラブコメ的展開。よくある遊びに行く時に、お姉ちゃんとか友達に揶揄われてヒロインが赤面するとか、どこのラブコメだよ。


「ま、まぁそうですかね……」


 反論に出ようとした。別にデートなんかじゃないと。


 でも、できなかった。

 だってデートじゃん、これ。「放課後に男女二人きりでカフェに行って愉快に談笑」とか、デートじゃん。

 たとえそこに恋愛感情がなかったとしても、このシチュエーションはデートなのだ。


「へぇ〜」


 晴美さんの顔がニヤける。

 多分勘違いしてるな。晴美さん。この人、俺と茜が恋仲とか、カップルとか、そんなふうに思っているのだろう。


 正直、茜の方はわからないが、俺は少なくとも……俺は……

 「茜のことを別に好きでもない」そう思いたかった。確かに、今の茜は俺の好きだった天道茜とは、全く違う。性格も見た目も、何から何まで違う。


 だから、別に恋愛感情的な意味で好きではない。もちろん、友達として、間宮茜は好きである。


 けれど、その天道茜と今目の前にいる間宮茜は性格が変わってしまい、俺のことを覚えてはいないとはいえ、同一人物なのだ。


 だから、俺は茜を好きであって、茜に恋愛感情を持っていない、というとてつもなく奇妙な状況にある。


「まぁ……デートではありますよね……」


 茜も、一瞬否定しようとしたが、今の状況を思い返して見たのかこれがデートであると思ったみたいだ。

 

 けれど、このデートに恋愛感情は発生していない。

 そもそも、墓地に行くときに知り合ってからなのだから、まだ俺と茜の交友関係など二週間程度なのだ。

 そんな短い期間で恋愛感情なんてそうそう生まれるわけもない。


「まぁ別に、付き合ってるとかじゃないけどな……」


 俺が独り言のようにそう言うと、茜も首を上下に振って反応した。

 恐らく、茜が顔を真っ赤にして動揺しているのは、ただ単純に晴美さんに揶揄われて動揺してしまっているだけだろう。


「本当に?」

「本当ですよ、晴美さん。俺と茜は別にそう言う関係じゃないですよ」

「そ、そうだよ晴美お姉ちゃん!」


 茜は、まるで赤子かのような軽い力で、隣に座る晴美さんをポンポンと叩く。

 その姿がなんだか愛らしかった。……まるで小動物みたいだ……

 ハムスターとかモルモットとか、そこらへんが頑張ってるみたいな感じだ。


「晴美さんは何か頼まないんですか?」


 これ以上この会話を続けていると、茜が恥ずか死にそうなので、無理矢理にでも話題を転換する。


「うーんどうしようかな……いつものやつ飽きたしなー」


 晴美さんは簡単に諦め、机に置いてったメニューを開いて目を落とす。

 なんだろう。すごい自由奔放な人だな…………


「ま、いいや! 私お金持ってないし!」

「……は?」


 驚いてしまった……なんなら驚いて「は?」とか言っちまった……

 いやいや、この人何しに来たの?お金ないのに?


「晴美お姉ちゃん?何しにきたの……」

「ん? ただただこのお店の雰囲気が好きだから、いつもこうやって来てるの。ねー?お姉さん」


 晴美さんは、先ほど接客してくれた女性店員さんに微笑みかけた。

 いやいや、ただの迷惑客だろ。一銭も店に落とさないのに居座るだけ居座るとか。

 すると、先ほどまで二つ隣のテーブルを布巾で拭いていた女性店員さんが、こちらを振り向いて優しく微笑む。


「間宮さんはいつも来てくれてるので、少し居座るくらいいいですよ。それに……別に人が入るわけでもないですし……」


 それから、俺たちはあれこれと喋った。

 晴美さんが本当に付き合ってないの?などと茜を揶揄い、茜がそれに対して顔を真っ赤にしながら反応すると言う、なんとも微笑ましい構図が出来上がっていた。


 途中から俺と茜の注文していたコーヒーが到着した。

 なんとか頑張って苦いブラックコーヒーを飲み干し、案外俺って苦いもの飲めるんじゃないか、などと自惚れていた。

 茜と晴美さんが見てないところで、こっそり角砂糖を四つほど追加していたのは秘密である。


 コーヒーを飲み干すと、そのままレジへと伝票を持って向かい、支払いをしてから店を後にした。

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