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第11話 寄り道

 靴を履き替え校門を出ると、外は春らしく暖かい気温であった。

 一度、軽く伸びをしてから茜の方を向いた。


「茜、別に奢ったりなんてしなくていいよ」

「いいんです……それに……雨宮さんは他の肩と違ってあんまり積極的じゃないので……関わりやすいんです」


 茜は、少しだけ頬を赤く染めながら、俺に微笑みかけてきた。

 茜の言葉に、少しばかり舞い上がってしまった。


 その後、駅までは両者黙ったまま歩き続けていた。


 一列になって騒ぎながら歩いていく小学生を微笑みながら見送り、少しずつ散り始めた桜を眺めながら春の終わりを実感する。

 学校を出て三分、茜と無言で歩いているが、なぜか気まずさはなかった。


 時々、話題を振ろうとするが、話しかけて良いのか分からず引っ込める。

 俺にとって茜は昔からの幼馴染で、運命的再会を果たした相手なのだが、茜からすれば俺は道案内をしてもらったら突然知り合いですと泣き叫んできたただの変質者であろう。


 けれど、茜は俺の言うことを信じてくれ、今もこうして隣で一緒にいてくれている。

 記憶喪失で俺を忘れてしまった故の罪悪感でなのか、単純に先ほど言っていた通り俺とは関わりやすいのか、本心はわからないが俺からしたら隣で歩いてくれているだけで嬉しいのだ。


「あの、雨宮さん」


 学校を出て五分後、茜が意を結したように話しかけてきた。

 流石に自分から誘っておいて無言で、一切話題を振らないというのはどうかと思ったのだろうか。

 俺からすればこのまま無言で、二人で歩き続けるのも悪くないと思っているが。


「どうした?茜」


 優しく、微笑みながら茜に返答を返す。


「あの……どこに行きますか?」

「……どこがいいかな」


 そういえば、行く場所を決めていなかった。

 俺達は、学校を出てからずっとただただ駅に向かって歩き続けていたのであった。


 ……女の子と二人きりで放課後に遊ぶだなんて、今までそんなことなかったから、どこに行けばいいかなど全くわからない。

 俺にあるそういう知識は、恋愛小説で培ったフィクションでの知識のみだ。


「……とりあえず……喫茶店でも行くか?」


 悩んだ末に俺から出たのは、無難だが安定のある喫茶店であった。

 茜も二つ返事で了承し、スマホで調べて出てきた駅前にある個人経営の喫茶店に行くことにした。

 

「もう入学してから一週間ですね……時の流れってとても早いですね」

「そうか? 俺は結構遅く感じているが……」

「そ、そうですか……」


 ここで否定してしまったのは間違いだったかもしれない……

 茜に空気の読めないやつとかそんなふうに思われないといいのだが…………


 その後は、一言一句口に出す前に確認してから話すように心がけた。まるでSNSの心得みたいだな。「送る前に相手を傷つけないか確認してから送信しましょう」って。


 その甲斐あってか、話はかなり盛り上がり、俺だけでなく茜までもが、優しく微笑んで笑ってくれるようになった。


「そういえば茜……記憶喪失のことなんだけど……昔のこと思い出せそうにないか?」


 この盛り上がっている状況でなら聞いても場が白けないと思い、茜にそう問いかける。

 

 すると、俺の考えていたこととは裏腹に、茜は少しくらい顔になってしまった。


「……すみません……やっぱり雨宮さんに写真を見せてもらったりしても……思い出せそうにないです……」


 あれから、ちょくちょく雪見沢、俺たちの故郷の写真を見せたり、俺が手帳にしまってある昔の、天道茜時代の写真を見せたりしたが、茜は思い出しそうになかった。


 その度に胸が締め付けられるが、茜の優し家顔を見るたびに少し心が軽くなていった。


 何度見せて、何度話をしても、茜は断片的にとかでもなく、本当に全く思い出せていなかった。


「あやまらなくていいさ。逆に俺こそしつこくて悪かったな」

「い、いえ! 雨宮さんこそ謝らないでください! それに、私も昔のこと、両親や昔の雨宮さんのことも思い出したいですし……」


 茜は、少し焦った様子で俺にそう言う。

 

 茜が嘘でも「思い出したい」って言ってくれるのは、とっても救いになっている。

 正直、茜の記憶を思いださせるだなんて、俺の現実逃避の末に行き着いた答えである。ちょっとやそっとのことで傾き、諦めてしまう。


 けれど、茜がそう言ってくれるだけで、少し、俺の心が軽くなっているような気がする。


 数分後、住宅街を抜けてビルの立ち並ぶ駅前に出てきた。

 スマホのナビを参考に、目的地の喫茶店を茜とともに探した。こうして一緒に何かしていると言うだけで、なぜだかわからないが、少し良い気分になる。


「あ! ここじゃないですか?」


 茜があるビルを指さしながらそういう。

 その喫茶店は雑居ビルの一階に入っていた。高校生がはいるような感じではないオシャレで大人っぽい喫茶店である。

 人はそこまで入っておらず、静かな感じで、俺たちの求めていた喫茶店そのものであった。


「入ろうか」

「は、はい!」


 茜にそう言って、喫茶店の扉を開けた。

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