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第10話 お誘い

「よう、しゅう


 ホームルームが終わると、俺は秋の席へと向かった。

 秋は机の横に掛けてあるカバンをガサゴソと漁って、一限目の教材を取り出そうとしていた。


「あぁ、おはよう拓翔たくと


 秋は、手に教材を持ちながら体制を直し、俺の方を振り向いた。


「お前すごいよな。もうクラスの一軍じゃねぇか。俺を置いていくなよ?」

「そんなに凄いか? 別に、みんなに話しかけて回っただけだが……結構簡単だぞ?」


 秋のその言葉は、皮肉や見下すようなものではなく、純粋に心の底からの意見であった。

 秋よ、その言葉はこの世界の数億人を敵に回しかねない言葉だぞ……

  

「そうだ。この後クラスのみんなとカラオケ行くんだけど、拓翔も来るか?瑞稀みずきも来るぞ。あかねさんには断られちゃったけど」

「いや、遠慮する」


 即答だ。行くはずがない、というか行けるはずがない。ほとんどが仲良くもない奴らのカラオケなんて行くだけ地獄だ。

 それに、中学時代なんて、みんなと曲のセンスが合わなくてとんでもなく微妙な空気になったことがある。あんな思いをするのは二度とごめんだ。


「そうか~まぁまた今度な」


 秋は残念そうにそう言った。

 それにしてもこいつ、知り合って一週間くらいの奴とよく遊びに行けるよな。

 

 すると、秋の取り巻き兼隣の席のクラスメイトが秋に話し掛けてきた。

 

「よう、秋! 舞妓まいこさんも誘ったぞ……って確か……間宮まみやさんだっけ?」


 そのクラスメイト、相坂誠司あいさかせいじは、秋に話しかけると俺の方を向いてそう言ってきた。

 だから間宮じゃない、雨宮だ。存在感のある茜と名前が似てるせいでもあると思うのだが……やっぱり俺自身の影が薄いのだろうか。


雨宮あまみやだ」

「あ、ごめんごめん」


 相坂は、悪びれるわけでもなく、ヘラヘラと笑いながら平謝りした。

 その様子に若干イラっと来たが、怒りを鎮めて何事もなかったかのように微笑む。


「じゃあさ、雨宮もか? 折角ならさ」

「いや、遠慮する」


 即答する。


 大抵、ここで「ノリ悪い」とか、「俺のこと嫌い?」などと面倒な返しが飛んでくるだろう。

 だが、それを考慮しても行きたくないのだ、絶対に。

 そもそも、相坂のことを見ているとどう考えても自分が場違いな感じがする。

 陽キャノリなんてものはできないし、自ら話題を提示することもできない。それなのに、行きたいと思うわけがなかろう。


「そっかー。じゃあまた今度な」


 意外にも、相坂はすんなりと引き下がった。

 いや、よくよく考えれば意外などではなかったかもしれない。

 そもそもの話、俺と相坂はこれが初の会話であり、相坂目線、俺はただただ秋と一緒にいたよくわからない奴というものだろう。


 いくら誰にでもグイグイ行くとはいえ、関わる人や遊ぶ相手くらい選ぶだろう。

 それに、相坂も俺を誘うメリットが見いだせなかったのだと思う。


 その時、一限目の予鈴が鳴った。


 俺と相坂は秋の席から自席へと戻り、一限目の用意を始めた。

 

 * * *


 そして放課後、すぐさま秋と瑞稀の席には人だかりができ、二人は取り巻きに囲まれながら教室を出ていった。

 俺はというと、特に誰にも話しかけられるわけもなく、ただ一人であった。


 カバンに荷物を詰め込み終わり、ふと顔を上げると一人の女の子が目に入った。言うまでもないが、茜である。


 カバンを持って茜の方に近づく。


 茜はまだ帰りの支度をしているようだった。プリントを綺麗に整えて机に置き、教科書類をカバンへと詰め込んでいた。


 その時、換気用に開けられていた窓から、春の暖かな風が教室の中へと吹き込んできた。


 そしてその風は、茜の机に置かれていたプリントの束を吹き飛ばした。


「あ──」


 茜は、空中で舞い上がるプリントをなすすべなく見送る。

 俺も、茜のように目の前で空を舞うプリントを呆然と眺める。残念だが、俺には複数の宙に舞うプリントをつかみ取るなんていう高等テクニック、生憎持ち合わせていないのだ。

 だから、こうして眺めるしかない。


 少しすると風は止み、空を舞っていたプリントはひらりと地面に落ちた。


 すると茜が、あわあわと焦りながら、しゃがんでプリントを拾って行く。


 ここで何もしないわけにはいかないので、俺も落ちているプリントを一枚一枚、ついてしまった塵などのごみを払いのけてから拾って行く。


「あ!ありがとうございます。雨宮さん」


 俺に気が付いた茜が驚いて、手に持っていたプリントをもう一度落としてしまう。


「大丈夫だ……これで全部かな」


 すべてのプリントの回収が終わり、茜の机にプリントの束ををどさっと置いた。


「ほんと、ありがとうございます!」

「大丈夫だって。気にしないで頭上げてくれ」


 茜は恐る恐る、俺の方をちらっと見ながら顔を上げた。


「折角ですし……お礼にその……何かご馳走しましょうか?」


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