第32話:殿、禁忌のホールケーキを焼きます
宮廷のお菓子派閥合戦から数か月。
布武丸は次の野望を胸に秘めていた。
「……にゅうせいひん!」
牛乳、バター、チーズ――
この世界では「傷みやすい」「獣臭い」と敬遠され、ほとんど普及していない。
だが俺は知っている。
乳製品こそ、甘味の可能性を無限に広げる禁断の扉だ!
―――
異国商人に相談したところ、彼はにやりと笑った。
「乳、欲シイ? アブナイヨ。腹コワス人、多イ」
「でも……扱エレバ、奇跡ノ食材!」
布武丸の目はキラリと輝いた。
「……つかう!てんかふぶ!」
―――
牛を育てる農民に協力を仰ぎ、試行錯誤が始まった。
乳を煮て殺菌し、撹拌してバターを作り、さらに砂糖を混ぜて――クリーム!
村人「な、殿!白いふわふわが……!」
忍軍「これ……雲か? 呪術か?」
父上「……腹を壊すのでは……?」
俺「だいじょうぶ!これ……ケーキになる!」
―――
そして迎えた試作日。
卵、小麦粉、砂糖で焼き上げたふわふわ生地。
その上に白いクリームを塗り重ね、赤い果実を飾る。
完成――ホールケーキ。
村人「な、なんだこれは……!」
陶工「まるで祭壇の供物だ……」
陰陽師「これは……禁忌の菓子……聖なる儀式……!」
―――
宮廷に運び込まれたホールケーキは、ひと目で貴族たちを釘付けにした。
「白い……山のようだ……!」
「これは食べ物か、宝か!?」
国王がナイフを入れ、ひと口。
「……ッ!? ふわ……甘い……口の中で溶ける……! これが……ケーキか……!」
一同「「「ケーキーーーー!!!」」」
―――
瞬く間にホールケーキは宮廷を制圧。
「団子派」「カステラ派」「クッキー派」は解散し――
新たに「ケーキ派」が爆誕した。
父上は青ざめていた。
「布武丸……お前、とうとう宮廷の権力構造をお菓子で一新してしまったな……」
だが俺は誇らしげに叫んだ。
「ほーるけーき!にゅうせいひん!てんかふぶ!」
宮廷&村人「「「おおおおぉぉぉ!!!」」」
布武丸、10歳。
乳製品を解禁し、禁忌のホールケーキで宮廷を征服した春の出来事である。




