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魔族の騎士  作者: らつもふ
18/25

エンシェント・ドラゴン

 氷竜<アイスドラゴン>にとって、南国であるこの決戦の地は決して有利な場所とは言えなかったが、悪魔となって魔力は増大し、魔族のスキルも得ることが出来たため、地竜<アースドラゴン>に対して絶対的に不利という事も無いはずだとレヴィアタンは考えていた。

 本来のドラゴンの姿となったレヴィアタンは、悪魔の6枚の漆黒の翼から、本来の2枚の透き通るような青く巨大な翼をゆっくりと羽ばたいていた。

 アースドラゴンはサイの背中に翼をつけたような姿だったが、アイスドラゴンの見た目は、首と尻尾が長いが手足が短く、昔の恐竜に近い姿をしており、どちらかと言うとアイスドラゴンの方が『ドラゴンぽい』姿をしていたが、そのどちらも巨体を宙に浮かせるだけの大きな翼で羽ばたいていたため、地上では荒野となった大地に強風が吹き荒れ、砂塵で全く視界がきかない状態だった。

 その様な中で、最初に動いたのは氷竜だった。

 相性が悪い相手には先に動いて一気に押し切るのが戦いのセオリーなのだ。

 氷竜は甲高い咆哮と共に大きく裂けた口を開くと、地竜目がけて氷の息<アイスブレス>を吹いた。

 凍てつく息が地竜に直撃すると、瞬時にして地竜の全身を氷漬けにした。もちろん、羽ばたいていた翼も凍ってしまったので、地竜は重力によって落下を始めると、そのまま地面に激突した。

 爆発音のような音と共に、激しく土砂と砕けた氷を巻き上げる地竜。

 氷竜は更に地竜に対してブレス攻撃を仕掛けると、大地と共に全身を氷漬けにされる地竜は、あたかも巨大な氷像のごとく、凍てついた大地で氷に閉ざされた。

 全く身動きが取れなくなった地竜を見下ろしながら、魔法の詠唱に入る氷竜。

 おそらく次の魔法を直撃させることが出来れば、アイスブレスによって完全氷結した地竜は粉々に爆散するはずだった。

 しかし、そんな氷竜の思惑は逆に爆散することになった。

 突然大きな地鳴りと共に地面が激しく揺れ始めたのだ。

 地表と地竜を覆っていた氷には無数の亀裂が入り、地竜の体から氷が砕け落ちて行く。

 それを見て氷竜は驚きの表情を見せたが、魔法の詠唱はぎりぎり継続することができた。

 氷竜は地竜が体の芯まで完全に凍ったと考えていた。そのため後は上位魔法をぶつければ自ずと地竜は粉々になるはずであった。

 強力な魔法は詠唱に時間がかかるが、凍って動けない相手であれば時間はいくらでもあるはずだった………だが、眼下の地竜の姿はすでに氷の呪縛から解き放たれていた。これが意味する事は、すなわち、アイスブレスは地竜の体の表面を凍らせただけに過ぎなかったと言う事だった。

 現状、氷竜が出来る事は、詠唱中の魔法を地竜に直撃させるしか無かった。焦る気持ちを落ち着かせ、確実に詠唱を完了させ全てのパワーを地竜にぶつけるのだ。

 もしも詠唱中の魔法をキャンセルしても、魔力は魔法を行使した時と同等に消費し、更にはキャンセルによる硬直時間が発生してしまう。この硬直時間は詠唱する魔法レベルに比例するため、上位魔法であればあるほど、硬直時間も大きくなるのだ。であれば、この場合は一か八か魔法を最後まで唱えた方が良いと判断したのだ。

 地竜は大きな翼を広げて地上で2、3回羽ばたくと、体の氷は全て剥がれ落ち、大地の氷と共に吹き飛ばされた。そして巨大な顔を氷竜へ向けると大きく口を開いて炎の息<ファイアブレス>を吐いた。

 業火は渦巻きながら進み詠唱中の氷竜に直撃すると、水属性の特性により水蒸気爆発が発生し、凄まじい爆風により地表には巨大なクレーターが形成されキノコ雲が立ち昇った。

 当然地竜も爆風と衝撃波に巻き込まれ、岩肌は裂傷によって鮮血が噴き上がったが何とかその場に踏み止まった。

 地竜は頭を振って正気を取り戻すと、翼を大きく羽ばたかせ、爆心地へ飛んで行くと、空中でホバリングするように羽ばたいて煙を吹き飛ばす。

 すると、地上のクレーターの中心に黒ずんだ氷竜が横たわっているのが見えた。

 地竜は降下しながら氷竜を見ると、体中が裂けて血が流れており、大きな翼もボロボロとなり飛行は不可能に見えた。もはやあの美しく透き通るような青色の体はどこにも見る事が出来ない状態だった。

 実際、氷竜は瀕死の状態であり、もはや呼吸をするのも面倒なほど疲弊していたが、何とか目を開けると霞む視界の中、地竜がゆっくりとクレーターの外縁部に降下して行くのが見えた。

 ───地竜は私にとどめを刺さんと渾身の一撃を見舞ってくるだろう。

 氷竜はそれをわかっていた…………だが、動けなかった。

 「………」

 ────動く必要などない!!!

 地竜が土煙を巻き上げて地面に着陸すると同時に、そこを中心として赤く光り輝く魔法陣が展開された。

 「こ、この魔法陣は!?まさか!!!」

 地竜はすぐに察したが、完全に着陸時の隙を突かれすぐに行動する事が出来なかった。

 『メテオ・ストライク!!!』

 何と、氷竜はあれほどの攻撃を受けながらも集中力を切らさず、魔法の詠唱を完成させたのだった。

 地竜の頭上に突然大きくて真っ黒な隕石が出現すると、落下による大気摩擦で爆発し巨大な炎の塊となって降って来た。

 『マジックウォール!!』

 咄嗟に地竜は魔法の壁を展開したが、所詮は下位の防御魔法。最上位の攻撃魔法を防ぐことは出来ないが、詠唱時間がほとんど無い中ではベストを尽くしたと言えるだろう。

 巨大な火の玉は激しく大気を揺るがしながら地面に激突すると大爆発し、周囲300キロ以上に渡って激突の衝撃波と熱波が襲い、全ての生命は一瞬にして奪われた。

 この大爆発は、サタンの居城である『天地の塔』からも確認出来たほどであり、天空を真っ赤に染めた後、暗黒の雲が夜空を覆った。爆発による粉塵で作られた分厚い雲は至る所で雷による閃光が走り雷鳴が轟いた。

 爆心地のすぐ近くにいた氷竜はクレーター内から吹き飛ばされ、その巨体は崖から海へ転げ落ちた。

 地上は最初に出来たクレーターは跡形もなくなり、その上から更に巨大なクレーターが形成されていた。

 そのすり鉢状のクレーターの中心には、岩山のような地竜の姿があった。

 その岩のような肌は焼けただれ、至る所から流血し、全身が真っ黒になっていたが何とか無事だった。

 メテオストライクは炎+地属性の魔法であり、両方の魔法レベルが高くなければ唱えることが出来ない攻撃魔法だが、古の最上位種族であるエンシェント・ドラゴンは全ての魔法を唱える事ができるので、自分の属性とは関係なく魔法を行使する事ができるのだ。

 氷竜は地竜が完全凍結したと考えていたため、メテオストライクの高威力にプラスして氷が一瞬にして蒸発して発生する水蒸気爆発も狙ったと考えられるが、運よくその前に氷の除去に成功しマジックウォールを展開できたため、地竜はギリギリのところで生還する事ができたのだが、地竜にとっては同属性の魔法だったも幸いした。

 分厚く垂れる黒雲は今なお雷が光っており、場所によっては黒い雹が降り注いでいた。

 地竜は自身の体を確かめるようにボロボロとなった翼を広げると、その場で数回ほど羽ばたく。

 どうやら何とか飛行は可能のようだった。

 地竜は力を振り絞りそのままゆっくりと飛び立つと、巨大なクレーターを上空から見下ろしてから周囲を見渡した。

 粉塵による黒雲で視界は遮られてはいるが、確認した限りでは氷竜の姿は発見できなかった。だが、恐らく死んではいないだろう………これは同じ種族同士だからこそわかる直感とも言えるものだった。

 「………勝負は意外に短時間で終わった………だが、本当の勝負とはこのようなものだ………」

 地竜はそんな事を嘯きながら北に針路を取った。

 

 「全く………エンシェント・ドラゴン同士の戦いは恐ろしいものです………」

 悪魔バルベリスは遥か遠方で行われているはずのドラゴン同士の戦いを興味を持って観察していたのだが、まさか自分にまでその影響が来るとは思ってもいなかった。

 バルベリスの貴族服は至る所が裂け血が滲んでいた。

 「エンシェント・ドラゴン同士が戦うのですから、どちらも只では済まないと思い、あわよくばどちらも殺してしまおうと考えていましたが………いやはや、そんな余裕すらありませんでした」

 そう言いながら被っていた大きな帽子を左手で取ると、右手で頭をかくバルベリス。

 「この先は延々と荒野と暗黒の世界が続きそうですね………どうせ東方人はおろか草一本も生えていないでしょうから捜索の必要もないでしょう………早く部隊に戻ってさっさとこんな所通り抜けるとしましょうか………」

 バルベリスは6枚の漆黒の翼を羽ばたかせ闇夜に消えて行った。

 

 ◆

 

 

 東の館に戻った悪魔アスタロトと黒の騎士マールシェは、大広間に並んで寝かされ、事前に待機させていた下級悪魔らによって治癒の魔法を行使されていたが、巫女の術で傷ついた箇所だけは全く効果が見られなかった。

 「………アスモデウスの状況から、あの光で焼かれた箇所は治癒出来ない事は想定していました」

 アスタロトはそう言うと、裸体のまま立ち上がり、下級悪魔たちの輪からゆっくりと歩いて出た。

 「少しお下がりなさい」

 下級悪魔たちに注意を促すと、軽く息を吸ってから魔法の詠唱を開始する。

 それを見た悪魔たちは慌ててアスタロトから距離を取る。

 次の瞬間、アスタロトの頭上に青白く輝く氷で出来た大きな鎌が出現すると、すぐにアスタロト目がけて振り下ろされた。

 キィン───。

 高い音色が一瞬だけ広間に鳴り響き、青白い鎌はその場でパッと四散した。

 アスタロトを見ると、左側の肩甲骨から左腕にかけてスパッと肉ごと削ぎ落とされ、大量の鮮血が大広間の床に流れ落ちていた。

 「………これで巫女によって焼かれた部分は綺麗さっぱりそぎ落としました。この状態から治癒を行えばおそらく問題無いでしょう」

 アスタロトはそう言いながら再び下級悪魔らの輪の中へ自らの足で歩いて行くとうつ伏せとなった。

 悪魔らは急いでアスタロトに対して治癒魔法を行使する。

 すると、氷の鎌による傷口は見る見る塞がって行き、体に傷跡が残る事になったが傷口の治癒には成功した。

 「ご苦労でした」

 アスタロトはそう言うと自分の黒ローブを身に纏う。

 「私は体の表面を少し焼かれただけだったのでこの方法が使う事が出来た………しかし………」

 そう言ってまだ横になっているマールシェを見る。

 「………その左足はかなり焼かれており、私のようにはいかないでしょう………」

 アスタロトは憐みの目でマールシェを見る。

 「わかっております」

 マールシェは仰向けで寝た状態でアスタロトを見上げながら更に続けた。

 「私の左足は脛から切り落とすか、もしくはこの激痛と共に生きるしかないのでしょう………」

 治癒の魔法は欠損箇所の再生まではできないため、もしもマールシェが左足を切断する事を選んだ場合、生涯義足となる事を意味する。

 「マールシェ。あなたはどちらを選びますか?」

 アスタロトの問いかけに、マールシェは迷うことなく答えた。

 「私は………」

 

 

 ボッシュは東の館に到着するなり、そのまま玄関から大広間に向かった。その後を慌てて追いかけるコスメール。

 本来であれば大広間の襖の前でアスタロトに対して到着の報告をすべき所だったが、急いでいた事もあり、ついそのまま襖を開けて大広間に足を踏み入れた。

 大広間の檀上にはアスタロトが黒ローブ姿で椅子に座ってくつろいでいるのが見え、慌てて跪いて口を開くボッシュ。

 「た、只今戻りました!アスタロトさ……ま………?」

 話しながら広間の中央に視線を向けると、数名の下級悪魔がベッドに全裸のまま腰掛けたマールシェの左足に何か魔法をかけている所だった。

 「良く戻りました。ボッシュ、コスメール。まずは別室でゆっくり休んでください」

 アスタロトは黒ローブのフードを深く被った状態でボッシュとコスメールに声を掛けた。

 「はい、ありがとうございます………しかし………これは………!?」

 ボッシュの視線はアスタロトではなく、マールシェに向けられていた。

 「ど、どうしたの!?その左足は!?」

 コスメールも跪きながらマールシェを見て驚きの声を上げた。

 マールシェの左足は脛から下が鉄で出来た骨のようになっており、魔法によって体の一部となるように処置しているのだった。

 「………おい。ボッシュ」

 マールシェはジロリとボッシュを睨みつける。

 だが、ボッシュはほとんど聞いていないようで逆にマールシェに対して質問する。

 「マールシェ、その左足はどうしたのだ!?大丈夫なのか!?」

 「………おい。ボッシュ」

 マールシェはもう一度言った。

 「な、なんだ!?」

 「貴様、私がこのように肌を晒しているというのに、少しは気遣うことはしないのか!?」

 マールシェはボッシュを睨みながらも少し頬を赤くして両腕で自らの豊満な胸を隠すと、長く艶やかな黒髪がさらりと胸元に流れてきた。

 「!!!!!」

 ボッシュはここでようやくマールシェが裸である事を認識した。

 「わわわ!す、すまない!!」

 顔を赤くながら絵に描いたような慌て方で後ろを向く。

 「ボッシュさま!みちゃダメです!あれは目の毒です!」

 何故かコスメールは膨れっ面でボッシュの腕を引っ張って大広間の外に連れて行くと、ピシャリと襖を閉めた。

 その様子を檀上で見ていたアスタロトは独り呟いた。

 「………全く、人間とは興味深い種族ですこと」

 外はすでに日が昇っており、アスタロトらにとっては長かった一日がようやく終わったのだった。

 

 その日の夕刻。

 束の間の休息を終えて、ボッシュとコスメールは改めて大広間に通された。

 マールシェはすでにいつもの黒色の鎧姿で檀上のアスタロトに対して跪いて頭を下げていた。

 その左足は義足の上にいつものブーツを装備していたため様子はわからなかったが、見た目は普段と変わらないように見える。

 ボッシュとコスメールも中央に進むと、マールシェの隣に並んで跪き頭を下げる。

 それを見てアスタロトは口を開いた。

 「集まりましたね。それでは戦後報告と今後の予定について話したいと思います。では、ボッシュ、戦後報告を」

 「はっ!」

 ボッシュは返事をすると顔を上げてアスタロトを見ながら口を開いた。

 「我々はケット・シーの裏切りと東方人の奸計によってガゼ地区から退却を余儀なくされました。しかし、コスメールの活躍により敵の巫女二名を討つことに成功し、さらに多数の敵兵士らを討ち果たしております。尚、ガゼ地区はアスタロト様が残したアンデッドによって現在も監視中です」

 「報告ご苦労さま………」

 アスタロトはそう言うと続けて口を開いた。

 「コスメール。巫女を討ったと報告がありましたが、それは確実に葬ったと考えて良いですか?」

 「いいえ、戦いの最中でしたので生死の確認まではできておりません」

 コスメールがそう言うと、ボッシュが割って入った。

 「たとえ確実に殺していたとしても、巫女には蘇生の術がありますので、恐らくは討ち果たしてはいないと思われます。しかし、巫女は術を使うと一定時間動くことが出来ないため、しばらくの間ガゼ地区の動きは無いと考えます」

 「なるほど………ではその間に途中となっていたシャフローネ山の残党狩りを行えそうですね?」

 「はい。ただし、ガゼ地区の監視として残しているアンデッド部隊は、その数が減っている可能性がありますので増強しておくべきでしょう」

 「それは私の方で把握しているので心配無用です」

 「アスタロト様が召喚したアンデッド。現状を把握されているのは当然のこと………申し訳ありません。出しゃばり過ぎました」

 ボッシュはそう言って頭を下げた。

 「構いません。では、今後の計画について話したいと思います」

 アスタロトはそう言うと更に続けた。

 「これより公路沿いにガゼ地区に向かいます。騎士3名は到着後、アンデッドと共にガゼ地区を包囲して外界との接触を断ち敵を孤立させてください」

 「「承知しました」」

 「私は損失分のアンデッドを召喚後直ちにシャフローネ山へ向かい、全ての命ある者を根絶やしにして戻ってきます。それまでのガゼ地区の指揮はボッシュに任せます」

 「お任せを」

 ボッシュの返答を聞くとアスタロトは椅子から立ち上がり、震えるほど強く左手を握りしめた。

 「私にこれほどの恥辱を与えたガゼの者達は絶対に許さない………!!」

 深く被ったフードの奥で、アスタロトの瞳はギラギラと復讐の炎が燃えていた。

 「行動を開始せよ!」

 アスタロトの声が大広間に響くと、騎士団は一斉に立ち上がり、踵を返して甲冑の音を響かせながら大広間を出て行く。

 屋敷の前にはすでにヒポグリフ2体とワイバーン1体が並んでいた。

 コスメールのヒポグリフは昨晩の戦闘で失っていたため、ボッシュよりも先に赤色のヒポグリフに跨ると、手招きしながらボッシュを呼んだ。

 「ボッシュさまぁ!さあ、行きましょう!」

 「………うーむ。仕方ないか………」

 ボッシュは小脇に抱えていたヘルムを被ると、背中の大剣を鞘ごと鞍に括り付けてからコスメールの前に騎乗した。

 コスメールは待っていましたとばかりにボッシュにしがみつく。

 「マールシェ、足の方は大丈夫なのか!?」

 ボッシュは隣に並ぶ漆黒のヒポグリフに騎乗するマールシェを見ながら声を掛けた。

 「誰の心配をしている!?私の心配など不要だ!」

 何故か怒っているような素振りのマールシェに肩をすぼめるボッシュ。

 そして夕焼けに染まる空へ視線を移すと大きな声で叫んだ。

 「5色騎士団、出撃!」

 2体のヒポグリフは甲高い咆哮を上げて一気に上昇すると、公路に沿って飛行を開始した。

 黄金色に染まる2体のヒポグリフを見送ったアスタロトも、これを追うようにワイバーンを上昇させる。


 状況を考えると、東方人とそれに与し種族らは、ほぼ間違いなくガゼ地区に集合するはずだ。

 西からはベルゼブブ指揮下のネビロスとバルベリスの部隊が迫っているが、到着には今しばらく時間が必要だろう。

 そのための時間稼ぎをしなければならないのだが、悪魔序列第3位であるアスタロトは、時間稼ぎなどと言う考えは毛頭なかった。

 西の討伐部隊が到着すれば、最大功績はベルゼブブに持って行かれる。これではアスタロトにとっては、先の戦いで退却という失態を犯した汚名を晴らすことが出来ず、力関係では完全にベルゼブブの後塵を拝することになってしまう。

 ───それだけは断じて受け入れる事は出来ない。

 アスタロトは決死の覚悟で沈みゆく夕日を背に飛び立つのであった。




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