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魔族の騎士  作者: らつもふ
11/25

天才vs天才

 悪魔バルベリスは、5色騎士団に対して公路に沿ってしばらく南進するよう指示を出すと、自らは一度『天地の塔』に戻ってサタンに現状を報告すると言い残し、夜空を急いで飛び去って行った。

 バルベリスが焦るのも無理はない。

 討つべき敵が忽然と姿を消し、その原因はバルベリスが白馬に乗ってモタモタしていたからであり、しかも5色騎士団のザライドマセルが戦闘不能となる事態となったのだ。事と次第によっては、バルベリスの責任問題に発展するだろう。

 そうならないよう、一刻も早くサタンと面会して言い訳をする必要があったのだ。

 バルベリスはお気に入りの白馬を残したまま、自らの6枚の翼で空を羽ばたいて『天地の塔』に戻って行った。

 残された赤の騎士ボッシュ、黒の騎士マールシェ、青の騎士コスメールの3名は、バルベリスの指示に従って公路に沿って上空から消えた東方人の捜索を行ったが、少人数の難民があてもなく彷徨う姿しか発見できなかった。そもそも東方人たちが目立つ公路上を移動するとはあまり考えられなかった。

 こうして無意味に時間だけを消費し続けたボッシュは、このままでは東方人を探し出すことなど出来ないと考え、差し出がましいのを承知で、マールシェをサタンへの使いとして『天地の塔』に差し向けた。

 サタンに対しては、いかなる場合であってもメッセージの使用は禁じられており、連絡や報告等があれば『天地の塔』へ赴き、実際に面会した上で行う必要があるのだ。

 ボッシュはマールシェに大陸全土に東方人包囲網を敷くことを提案させるために『天地の塔』へ遣わせたのだ。

 その間、ボッシュとコスメールは西のシャフローネ山の方へ捜索範囲を変更した。

 「こんな砂漠地帯の公路よりも、緑が豊かで食料も確保できる山林地帯を捜索すべきだ」

 ボッシュのこの意見は、悪魔バルベリスの指示に逆らっているように感じるが、バルベリスの命令は『公路に沿ってしばらく南進せよ』であり、ボッシュらにとっては十分南進したので、捜索場所の変更は命令に背いた訳では無いのだ。

 また、東方人達は日中に活動する性質があることから、捜索時間も日中に行う事にした。

 コスメールは、初めてボッシュと二人きりで作戦行動を取る事になったので嬉しくて仕方なく、彼女にとっては作戦期間が出来るだけ長引いた方が都合が良かった。むしろ、マールシェはもう戻って来なくても良いくらいだ。

 しかし、折角二人きりになったというのに、この数日間はボッシュと一緒に行動することはほとんど無く、基本的には単独飛行で敵の捜索を行っていたため、コスメールは若干フラストレーションが溜まっていた。

 「ふぁ~あ……いつもだったらもう寝てる時間だから、日中からこうして一人で緑を眺めていると……だんだん……眠たくなってくるなぁ……」

 アクビをして目尻に涙を溜めながら地上に目を凝らすコスメール。

 その時、マールシェからメッセージが入ってきた。

 『シャフローネ山で巫女と思われる一行を発見した……』

 コスメールはこれにすぐに反応し、メッセージの続きを無視して、シャフローネ山に向けてヒポグリフを飛ばした。

 「やっと……やっと仲間の仇討ができる……!」

 ボッシュはコスメールの異変に気付き、すぐにメッセージで注意を呼びかけた。

 「コスメール!先ずはマールシェと合流して、サタン様の言葉を聞くのが先だ!勝手な行動はするなよ!?」

 「ああ、ボッシュさまぁ!あたしの心配をしてくれるのですね!?とても嬉しいのですが、ちょっと巫女とやらに挨拶してくるだけなので、ご心配には及びません!」

 どこをどう解釈したらコスメールを心配する文章になったのかわからなかったが、敵の戦力も不明な状況で単独行動するのは危険だ。ボッシュは更に待つようにメッセージを送ったが、コスメールからは何の反応もない。

 「ちっ!」

 ボッシュは舌打ちをすると、自らもシャフローネ山に向かった。

 確かにコスメールは天才だ。騎士団に入ってからは更に腕が上がっている。だが、相手の巫女はマールシェからの追加報告から察するに、卯月の巫女に間違いない。あの少女は巫女の中で一番能力が高い天才と聞く。慢心は命取りとなるぞ!?

 ボッシュはメッセージを送り続けたが、相変わらずコスメールからの応答はなかった……。

 

 ◆

 

 

 マールシェはサタンとの面会を終え、その結果を持ち帰る途中、眼下のシャフローネ山の火口付近で人影を発見した。

 「こんな所で何をしているんだ?」

 よくよく見ると、小さい子供が大人に背負われており、その子こそ、ボッシュが言っていた『巫女』という術者の服にそっくりだった。

 攻撃して様子を見るか?───。だがすぐに思い留まる。

 「一応、ボッシュとコスメールにはメッセージで状況を伝えておくが、今はサタン様の話を持ち帰るのが先だ」

 マールシェは自分の立場を良く理解しており、メッセージで巫女の存在を伝えると、眼下の東方人らを無視して上空を通過する。

 この時、冷や汗を流していたのは卯月を背負っていた義光だった。

 卯月を背負ったままでは剣が抜けない………義光は祈る気持ちで空を見上げる事しか出来なかった。

 「見つかったか」

 卯月はそう言うと、義光の背中から飛び降り、神器を持つ御付き衆を自分の傍に集めた。

 「心を無にしてそのまま持っておれ」

 卯月は御付き衆にそう告げると、自分を囲むように指示を出す。

 「敵は単独……であれば、一撃で仕留めることで助かる目もあろう」

 卯月は上空に七芒星を描こうとする。

 「待ってください、巫女様……」

 御付き衆の長である桜が、卯月の儀式を遮る。

 本来、何人たりとも巫女の儀式を遮る事は許されないが、今回ばかりは早めに進言したのは正解であった。儀式がある程度進行すると、もう後戻りはできない状況にもなりかねない。

 「……敵が去って行きます」

 桜の言葉に全員が上空を見上げると、黒いヒポグリフの姿が何事も無かったように小さくなっていく。

 「あのスピードでは、術式が完成した頃にはもう届かない距離となっているか……」

 卯月は術の行使を止めると、尚も周囲を警戒しながら義光に話しかけた。

 「見た所、あの火口は長きに渡って活動を停止しているようだ。見てみぃ、これまでの火口と違って、すり鉢の中に草木が生えておる」

 そう言いながら卯月は火口を指さした。

 火口は直径1キロほどのすり鉢状となっており、火口の底までの深さは2百メートルほどあって、そこには草木が生い茂っていた。それは、ハゲ山の火口の中に緑があるという、何とも不思議な光景であった。

 「あの小高くなった場所に行ってみよう」

 火口の中央付近に草木は生えておらず、数十メートルほど岩が隆起した場所があり、卯月はそこを指さしていた。

 「こ、この高さを火口の下まで降りるというのですか?」

 「そうだ」

 そう言うと同時に、卯月はひょいと火口へ飛び降りると、火山灰で出来た坂を滑り落ちて言った。

 「巫女様!」

 義光はすぐにその後を追って飛び降りると、続いて御付き衆も神器を抱えたまま飛び降りた。

 かなり切り立った火口は、中腹を過ぎるとなだらかとなり、滑り降りる事は出来ないので自分の足で歩くしかなかったが、砂の粒子が細かいため、踏ん張りが利かなく、非常にに歩きにくいため、底に辿りついた時には全員の足がパンパンに張った状態となっていた。

 卯月は改めて見上げると、円形に切り立った崖に囲まれ、青い空だけが見えるという、何とも言えない不思議な光景であった。

 「これは……帰れないな……」

 見上げながら卯月がぽつりと絶望的な独り言を発すると、気を取り直して森の中に入って行った。

 他の者もこうなった以上、覚悟を決めるしかなく、誰も言葉を発することなく、巫女の後を追うように森の中に分け入った。

 人間の背の高さ以上もあるシダ植物のような草を掻き分けながら、とにかく奥へ進むしかない一行だったが、突然卯月が立ち止まって空を見上げた。

 それにつられて義光も上に視線を移すが、背が高い草木にに阻まれ、空はあまり見えず日差しも届かないため周囲も薄暗かった。

 「何か……強い気が近づいているのを感じる……」

 卯月はそう言うと走り出した。

 義光らも卯月の後を追って走るが、小さい体で植物を縫うように走る卯月に大人がついて行くのは至難の業だった。

 それでも息を切らせて走る義光は、突然森を抜けた事に気付いた。

 目の前には幅が30メートルほどに渡って岩山があり、一番高い所で15メートルほどはあろうか……卯月はその岩山の周囲に沿って歩いていた。

 「上から見た感じでは単なる丘のように見えたが、これは……一体なんだ?」

 巨大な黒い岩石の塊とも言えるその山は、明らかに周囲とは異質のものに感じた。

 「ここでいいだろう……短刀をこれへ!」

 卯月の言葉に、御付き衆の一人が急いで神器の一つである短刀を両手で卯月に差し出した。卯月はそれを受け取ると、すぐに抜刀し近くの木の幹や地面に印を刻むと、更に岩山にも印を刻もうと短剣を突き立てる。

 ガキィィン!

 「!?」

 卯月がどんなに短剣を突き立ても、この岩山にはキズ一つ付けることが出来なかった。

 「この岩は何なのだ!?」

 神に祝福されし神器である短剣をまじまじと眺める卯月だったが、すぐに気を取り直して地面に印を刻む。

 「皆の者はこの結界から外には出るでない……水晶を持て」

 「はっ」

 桜が卯月の前に進み跪くと、両手で水晶を高く掲げる。

 卯月は短刀を鞘に納めるとそのまま左手で持ち、右手は勾玉を握ったまま人差し指と中指を伸ばし、空中に七芒星を描き始めた。

 ──早い!

 義光は思わず心の中で叫んだ。

 七芒星を歪む事無く正確に空中に描くだけでも難しいのだが、それをこれほど早く描ける巫女は、おそらく卯月以外にはいないだろう。

 卯月の頭上に七芒星が輝き、その7つの頂点から光が一斉に放たれると、桜が掲げる水晶に光が集約される。

 そのタイミングで上空に翼が生えた動物の影が現れた。

 逆光で良くわからないが、そのシルエットは間違いなく5色騎士団が操るヒポグリフに相違なかった。

 卯月はそのヒポグリフに向かって指を向けると、水晶が光り輝いて強烈な光線が発射された。

 その場にいた誰もが卯月の勝利を確信した。

 だが………。

 光はヒポグリフの左側面を掠めるように外れ、青い空へ吸い込まれて行った。

 「バカな!?神の光が外れただと!?」

 義光はつい叫んでしまった。

 「くっ!」

 卯月は更にヒポグリフを指で追い、光の方向を修正しようとする。

 しかし、ヒポグリフは完全にランダムで移動しており、卯月の指さしが追いつかず、遂には木々の影に隠れてしまった。

 「神の光を避けるなど、そんなことが可能なのか……!?」

 義光は驚きのあまり、口が開いたままであった。

 「ちっ!全員周囲を警戒せよ!」

 卯月は舌打ちしてそう言うと、その場でガクリと膝が折れ地面に両手をついた。

 「巫女様!」

 御付き衆が卯月を助け起こそうと集まるが、それを卯月が一喝する。

 「静まれ!あたしの事は気にするな!全員、周囲に気を配れ!気を乱すな!」

 卯月は再びヨロヨロと立ち上がると、精神を集中する。

 普通の巫女であれば、退魔の術を一度使えば、しばらくは動けないほど消耗する。これは、一度発動した術は途中で止める事ができず、巫女が持つ全身全霊をもって術を行使するためである。

 しかし、卯月は敵の姿が見えなくなった瞬間に、左手に持っていた短刀で自らの手を自傷する事で強制的に意識を切り離し、術を中断することに成功し、全ての力を使うことを防いだのだ。

 少なからず巫女に選ばれた女子には『天賦の才』が備わっているのだが、卯月の才能は他の巫女の能力を超えていた。まさに天才とは卯月の事を言うのだろう。

 

 そんな天才の攻撃を見事に避けて見せた、もう一人の天才であるコスメールは、大きな木の下で大の字でひっくり返っていた。

 コスメールはヒポグリフを神業(魔族なので魔業?)で操った挙句、最終的には森に墜落したのだが、運よく木の枝がクッションとなり掠り傷程度で済んでいた。

 「キュルルル」

 少し離れた場所からヒポグリフの鳴き声が聞こえてくる。コスメールの安否を気にかけているのだ。

 コスメールは目を開けると、ビッシリ生えた枝葉に自分が落下してきた場所だけが丸く穴が開いており、そこから青い空が覗いているのが見えた。

 「どっこいしょ……」

 という掛け声と共に体を起こすと、素早く自分の体をチェックして、無事であることを確認する。更に両方の腰に吊り下げている二本の剣があることも確認すると、ヒポグリフの声がする方に歩いて行く。

 だが、どこにもその姿が見えない。

 「キュルルル」

 コスメールはハッとして見上げると、大きな羽が見事に木の枝に引っかかり、宙吊りとなっているヒポグリフを発見した。

 「今助けてあげるから、落下に備えて」

 コスメールはそう言うと、腰に吊り下げている双剣を抜刀しクロスさせて構えた。そして、軽く息を止めてから、予備動作も無く両方の剣を上空に向かって一気に払った。

 風切音と共に、上に向かって木の枝が次々と切断されて行き、最終的には大木の片面の枝葉が綺麗に薙ぎ払われ、支えを失ったヒポグリフは地上に落下したが、事前に備えるように言ってあったので、翼を羽ばたかせて地上に激突する直前で浮遊することに成功し、草を巻き上げながらフワリと着地した。

 コスメールはヒポグリフに近づくと差し出された頭を優しく撫でた。

 「さて、どうするかな……」

 コスメールは困っていた。

 先ほどは何とか光の攻撃を避ける事ができたが、同じ芸当が何度も成功するとは限らない。今空に飛び立てば、今度こそ狙い撃ちされるのがオチだ。

 今更ながらボッシュの忠告を聞いていれば良かったと思ったが、後悔先に立たずだ。

 攻撃をしてきた東方人らがいた場所は火口のほぼ中央、小高い岩山の傍だった。

 コスメールは敵への接近を決意するが、空を飛べない以上、足元も悪く草木が生い茂るこの場所は、ヒポグリフを連れて行くと足手まといになる。

 そこで、ヒポグリフにはこの場で待機し、合図と同時に全力で空から迎えに来るように指示を出した。

 「最終的にはお前が頼りになるはずだ……よろしく頼むよ」

 コスメールはヒポグリフの顔を優しく撫でて微笑むと、破れたマントを翻して草木の中に駆けだした。

 小柄で身体能力が高く、使う武器も小ぶりの双剣という事で、コスメールにとってはこのような狭い場所は相性が良い。まるで平地を走るようなスピードで中央の岩山に向かっていた。

 しばらく進むと、突然視界から草木の姿が消え、代わりに黒い岩山が現れた。

 コスメールは火口の中央に到着したことを悟ると、岩山の上に登ろうと岩肌に手を掛けたが、そこでピタリと動きを止めた。

 「……!?」

 岩山の周囲は、一方に向かって気が流れている事に気付く。

 「岩山の反対側にいるのか……?」

 これだけ『ここにいます』と言わんばかりに待ち構えられると、嫌でもその存在に気付いてしまう。

 コスメールは岩から手を離すと、反対側の大木に移動して木に登り始めた。

 「巫女の攻撃は狭くて遮蔽物が多い場所では使えないはず……となると、ある程度周囲が開けているここで網を張っているはずなんだけど……」

 そう言いながら木の上から辺りを見渡すが人影は見えなかった。

 コスメールは木から木へ飛び移りながら、岩山付近を中心に卯月らを捜索しつつ回り込むように移動する。

 

 「来た」

 卯月は気の僅かな乱れを察知して右後方に視線を移す。

 「森の中を回り込むように近づいて来る……鏡を」

 卯月は御付き衆から銀製の鏡を受け取ると、全神経を集中して敵の居場所を探す。

 森の中は太陽光が草木で遮られ、こちらからは暗くて森の中がよく見えないが、敵からはこちらが丸見えの状態だ。

 義光はゴクリを喉を鳴らして生唾を飲み込むと、いつでも腰の太刀を抜けるように低い体勢で右手を構えていた。

 「そこだ!」

 卯月は太陽光を反射させて森の中の一本の木を照射した。

 「!!」

 コスメールは驚いた。

 この大木に飛び移り、木の影から顔を出そうとした瞬間に光を照射されたからだ。

 慌てて大木の幹の影に隠れる。

 「今だ!この鏡を持ってこのままあの木を照らし続けよ。多少の時間稼ぎにはなるはず……水晶を持て!」

 卯月の指示で御付き衆の一人が鏡を持ち、更に桜がひざまずいて両手で水晶を掲げた。

 その間にも卯月は頭上に素早く七芒星を描く。

 すると、光で照らしている木とは別の草むらから、弾丸のような勢いでコスメールが飛び出してきた。両手には双剣が握られ、地を這うように低い体勢で一直線に向かってくる。

 義光は動けなかった。

 『剣聖』と呼ばれるほどの剣の達人が、コスメールの爆発的な突進に反応できなかったのだ。

 卯月は慌てずコスメールを右手で指さすと、光り輝く水晶から眩い光線が発射された。

 その直前、コスメールは素早く左側……卯月から見れば右側に回り込んだ。

 卯月の指もそれに追従するが、光線はコスメールのショルダーアーマーを軽く掠めて後方に流れて行った。

 一般的には、右手で射撃を行う者に対しては、射撃者の右側に移動する事で、体を開かせることが出来るため照準がぶれ易く、逆に左側に移動すると照準を絞る事になるので命中し易いのだ。コスメールは瞬時にそれを実践し、ギリギリのところで避ける事が出来たのだ。

 しかし、光線は照射され続けており、すぐに卯月は軌道を修正しながら追従してくるので、尚も左に回り込むと、その射線上には義光が固まったまま立っていた。

 コスメールは義光の影に隠れる形となりながらそのまま前進したが、卯月は何の躊躇もなく光線を義光へ向ける。

 光は義光に直撃し、その後ろには長い影が出来た。

 コスメールはその影に入る形で身を隠した。

 「仲間を平気で撃つのか!?」

 コスメールは驚きながらも左腕を目の前にかざして光から目を守る。

 光線が直撃した義光はスッと向き直りコスメールと正対する。

 「ま、まさか……!」

 コスメールが呟くや否や、義光は電光石火で抜刀しそのまま水平に薙ぎ払うと、返す刀で切り上げた。

 空気を切り裂く音が鳴り響き、振った太刀は目視出来ないほど疾かったが、コスメールは光線の射線から体が出ないようにその連撃を双剣で受け流すと、瞬時に義光の懐に飛び込んで首元にピタリと双剣をあてがった。

 「攻撃を止めろ。こいつを殺すぞ?」

 コスメールが卯月の巫女に忠告したが、光線は止む事が無かった。

 ──少人数で行動しているからには、この男は選び抜かれた腹心のはず。まさか、本当に死んでも良いと考えているのか?それとも……!?

 嫌な予感がして咄嗟に上を見上げたコスメールの頭上に、謎の文様が輝いていた。

 ──これは……?何だ!?

 コスメールの頭上高くに逆五芒星が輝いていたのだ。

 逆五芒星は不浄な者……いわゆるアンデッドを浄化させる時の術に使われるのだが、コスメールはそれを初めて目にしたため、真上から攻撃されるものと判断した。

 コスメールはその場で軽くジャンプすると、義光を正面から両足で思いっきり蹴った。呻き声と共に義光は吹き飛んだが、コスメールもまた、その力を利用して後方に跳んで距離を取って双剣を構えた。

 義光は3メートルほど吹き飛ばされ、水晶を持っていた桜に激突して七芒星からの光を遮断したため、退魔の術が解けてしまった。

 コスメールはこの機を逃さず、気合と共に双剣を前方に突き出した。

 すると爆音と共に地面をえぐりながら衝撃波が卯月目がけて飛んで行くが、何故か衝撃波は卯月らの横を通過して、奥の森を貫通して火口の壁にぶつかり煙が立ち上った。

 「外した!?」

 コスメールは驚きの声を上げた。

 衝撃波が飛んだ後には地面がえぐれ、森には穴が開いていたので、その軌道を見る限り、真っ直ぐに飛んでいるように見える。

 納得できないコスメールは、更に水平に双剣を薙ぎ払ってみる。

 するとそれは卯月らの上に外れて行った。

 コスメールはすぐに卯月らの周囲に目を向けると、あちこちに謎の印が地面に刻んである事に気が付く。

 「なるほど……これも何かの術の一種か……」

 そう呟くと、弾かれるようにダッシュして一気に卯月との距離を詰める。

 「この印の外側から攻撃しても当たらないと察した。では、この距離ではどうかな!?」

 コスメールは一瞬にして卯月のすぐ目の前に達し、双剣をクロスさせて今にも振り払おうとしていた。。

 だが、突然視界が真っ白になり、何とも言えない感覚に囚われた。

 ──先ほどの五芒星の術!?

 コスメールは咄嗟にそう判断し、メッセージでヒポグリフを呼んだ。

 「グワァアアア!!」

 ヒポグリフの咆哮と共に、突如風の流れが急変した。

 卯月も驚いて後ろをみると、先ほどコスメールの衝撃波が開けた森の穴を通って、ヒポグリフが凄まじい速度でこちらに突っ込んできた。

 「伏せろ!」

 卯月はそう叫ぶと、自身もその場に腹ばいとなって衝撃に備えた。

 ヒポグリフは卯月らのすぐ上を通過すると、光によって視界を奪われているコスメールを前足でキャッチすると、そのまま上昇して岩山の上に降ろした。

 ヒポグリフが通過した衝撃波で卯月らは吹き飛ばされはしたが、全員命に別状は無かった。

 だが、卯月は度重なる術の行使によって、体を起こす力も残されていなかった。

 「巫女様!」

 義光がすぐに土埃まみれの卯月を抱き起すと、卯月は僅かに目を開いた。

 「……あ、あたしの……全力を持ってしても……勝てぬ……のか……」

 「巫女様!」

 桜も水晶を胸に抱きながら卯月の元に駆けつける。

 「……さく……ら……神器は……無事………か……?」

 「はい、すべてご無事でございます!」

 「……そうか……よかっ……た……」

 そう言うと卯月は意識を失った。

 「ああ、巫女様……!……ううっ……」

 桜はその場に泣き崩れた。

 その時、岩山の上から大きな声が響き渡った。

 「どうやら勝負あったようだな!?東方人よ!」

 コスメールはまだ目がかすんでいたが、卯月らを見下ろしながら更に続けた。

 「私は5色騎士団の一人、青の騎士コスメール。お前たちを殺す前に一つ尋ねる。ここで一体何をしていた!?」

 義光は卯月を桜に託すと、立ち上がって岩山の上を見上げた。

 「我が巫女は気を失われた。ゆえに私が代わりに答えよう……」

 「承知した。では、答えよ。ここで何をしていた!?」

 コスメールは再び質問した。

 義光は悲痛な表情で口を閉ざしていたが、意を決して話し始めた。

 「悪魔が大陸を支配し、大陸で生きる種族のほとんどは魔族に堕ちてしまった。我々は神に代わってそれを正すべく立ち上がったが、悲しいかな……我らはあまりにも無知だった。そのため、こうしてお前たち魔族によって私達は討たれようとしている。だが、単に指を咥えてこれに甘んじる気は毛頭ない!」

 この義光の発言にコスメールの眉がピクリと跳ね上がった。

 「それは……つまり、私の質問には答えたくない、と受け取って良いか!?」

 「どうせ殺すのだろう!?であれば話すことなど何もない!」

 義光ははっきりと言い放った。

 コスメールは薄笑みを浮かべると静かに言った。

 「なるほど、お前たちはこれまでに出会った東方人らとは違って、少しは気概があるようだな……しかし、残念ながら私は容赦はしない。何故なら、それが魔族だからだ!」

 そう言うと同時に双剣を目の前でクロスさせて身構える。

 「では、最後まで抗ってもらおうか!?東方人!」

 コスメールは一気に両手の双剣を払うと、耳を劈くほどの衝撃波が卯月らを襲った。

 だが、突然岩が壁のように立ち塞がり、衝撃波を受け止めた。

 「な!?」

 驚いたのはもう何度目だろう?

 コスメールの衝撃波は突然動き出した岩山にぶつかったが、その岩にはキズ一つ入っていなかった。

 岩山はなおも動き続け、地響きと共にその姿が変貌して行った。

 コスメールは危険を察知してヒポグリフに飛び乗ると、岩山から上空に飛び出した。

 尚も岩山は激しく土煙を上げつつ盛り上がって行く。

 義光らも卯月を連れて森の方へ退避しようとするが、激しい揺れで思うように動けなかった。

 上空から全貌を見ることができるコスメールは言葉が出なかった。

 「こ、これは……ただの岩山ではない……これは……!」

 岩山はすでに変形を終えてその姿を晒していた。

 「アースドラゴン!!」

 『グワアアアァァァ!』

 地竜の凄まじい咆哮が火口に響き渡り、大気が激しく震え、ヒポグリフはとても飛んでいる事はできず、旋回するように墜落した。

 コスメールは地面に叩きつけられ、アースドラゴンの目の前に転がった。

 アースドラゴンを一言で表すのなら、岩石で出来た巨大な『サイ』という表現が一番しっくりするだろう。

 「我が眠りを妨げるのは貴様か?青き人間よ!」

 アースドラゴンはそう言うと、コスメールを踏み潰そうとする。

 地面に叩きつけられた衝撃で動くことが出来ないコスメールは、観念したかのように目を閉じる。

 ───すると。

 

 『待たれよ!!地竜!!!』

 

 大きな声が辺りに響き渡り、アースドラゴンは動きを止めて上空に首を向けた。

 そこには真紅のヒポグリフに跨ったボッシュが、漆黒のマールシェを伴って日の光を背に受けながら上空から舞い降りてきた。

 ボッシュはゆっくりとヒポグリフを降下させると、地竜の目の前でホバリングさせ空中で停止した。

 その隙にマールシェはすぐにコスメールを拾い上げ、アースドラゴンから少し距離を取った場所に降ろして容体を確信する。

 コスメールの安全を横目で確認したボッシュは、改めて目の前のアースドラゴンに対して口を開いた。

 「私は魔族の騎士ボッシュ。先ずは落ち着かれよ。偉大なる古き竜よ」

 堂々と目の前に現れた赤き騎士を見た地竜は、勢いよく鼻を鳴らすとその場にゆっくりと4本の足を折って座った。

 ボッシュもゆっくりとヒポグリフを着陸させると、すぐに飛び降りて自分の足で地に立った。

 「ボッシュ殿!」

 義光はつい敵である事を忘れてボッシュの名前を呼んでいた。

 「あなたは……!」

 ボッシュは義光に続き、気を失っている卯月を見て状況をある程度把握した。

 「なるほど……マールシェが発見した巫女とは、やはり卯月殿であったか」

 「ボッシュ。その術師を知っているのか!?」

 マールシェがコスメールを抱き上げながらボッシュに訊いた。

 「ああ、前に会ったことがある………だが、それよりも今は地竜の方だ」

 ボッシュはそう言うと巨大な地竜を見上げた。

 地竜もまたボッシュへ視線を向けている。

 お互いが納得できる説明を求めていた……。




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