僕は愛のために産まれたのだ
会社からの帰り道、
ふと寄り道をすると、
とある落ちぶれ華族の屋敷を目の当たりにした。
北条家。
父を毒殺され、
一族に免罪をかけられ、
そして、
一族全員を呪い殺したとされる女が住んでいるらしい、魔の御屋敷。
『あの屋敷の娘に睨まれると、
呪いによって、みな、気が狂って自害する』
と噂され、
誰も通り過ぎたがらない、呪いの屋敷。
優一の頭に、幼き頃の、美純の姿が思い浮かぶ。
誰もが称賛する僕を、
軽蔑していたであろう、あの少女。
そして彼女は間違いなく、今の僕の姿も軽蔑するであろう。
僕は思わず、彼女に会いたくなった。
古今東西様々な花が咲き誇るその庭は、
落ちぶれても尚、
いや、
落ちぶれているからこそ、その美しさを露わにしているように見えた。
その天国のような美しさは、
この世の穢れの一切を拒むかのようであった。
僕は、
その時ばかりは苦しみも忘れ、花に見とれた。
僕の認識の及ばない世界が、こんなに近くにあったなんて。
そして、縁側に佇む噂の美女。
呪いの女、北条美純。
なんて怖ろしい、しかし魅力的な瞳だろう。
そして何より、目元を除けば、彼女の姿は母さんによく似ている。
まるで生き写しだ。
そんな、母によく似た美しい女性が、
あろうことか、僕の事を罰するように、
目をぎょろりと見開いて、僕の事を見ているぞ!
これは、運命だ。
僕の『空洞』を見抜き、僕を罰してくれる人がようやく現れた!
ずっと僕を睨んで欲しい、見ていて欲しい!
『優ちゃん、なんてことをしてくれたの!』
と、母さんが蘇って、僕を叱ってくれているみたいだ…
ああ…母さん、許してください。
彼女に睨まれたことで、
僕は母さんへの罪悪感を、忘れてしまいそうです。
僕は、
あの女性を、
北条美純を、
一目見ただけにも関わらず、
深く愛してしまいました。
かつて、
女に欲情することはあっても、
『恋心』を抱いたことはありませんでした。
だけど今僕は、
まさに彼女に恋している、愛している…!
きっときっと、僕は、彼女と一緒になります。
トゥーランドットの、カラフ王子のように!
………
一度も訪れた事のなかった、母の墓。
母の骨が眠っている、西郷家の墓石。
幼いころは、母の死を実感する事が怖くて行かなかった。
罪悪感に苛まれるのが怖くて行かなかった。
だけど今は違う。
母の死を、ようやく真っ直ぐに受け止められる。
僕の本性を見抜いてくれる女性を、ようやく見つけることができた。
僕はもう、贖罪のためなんかに生きない。
母は、
僕を愛しているが故に僕をかばって死んだ。
僕は、
母を愛しているがゆえに自分を呪った。
全ては『愛』だ。
愛がそうさせたのだ、呪いなんかじゃない。
そして、
美純への巨大な愛が、それを僕に教えてくれたのだ。
自分を呪う必要はないのだと。
僕は彼女への愛のために、命すら捨てられる。
そしてそれは、
母が僕を庇って死んだ事と、全く同じことなんだ
。
僕は、母に「ありがとう」を伝えにきたのだ。
「母さん、ありがとう。僕を産んでくれて。
これが、『愛』なんだね。
母さんのお陰で、今僕は生きて、
そして、大きな恋をしています。
母さん、僕を守ってくれてありがとう…。」




