その赦しは無慈悲の慈悲
優一は、実家へと帰った。
表向きは、「家から通学している」という事になった。
誠生は、
会社の名誉と優一の今後を憂慮して、
大学に多額の金を贈り、『大学卒業』の証書を買い取った。
そして、
優一の精神状況の脆さを危惧し、
あまり屋敷に閉じ込めているのも心に良くないだろうと思い、
自身の事業の手伝いをするように頼んだ。
優一としても、
悲しい過去の染みついた屋敷にずっといるのは辛かったため、それを快諾した。
誠生は、優一と和解した。
誠生は、優一に『自分を責めるな』と言った。
優一は、許された…
いや、
『責められる権利』を、奪われた。
『責められる権利すら、僕は失ってしまった。
もう、この世界で、僕を裁いてくれる人なんて、どこにもいないんだ。
もう、一生、僕の願いを叶えてくれる人は、この世界のどこにも、いないんだ。
そう、これが罰なんだ。責められるべき人間が責められず、誉めそやされる。
黒いものが、白へと塗りつぶされる。殺人鬼が、『御曹司』として、讃えられる。
この世界の冷酷な真実を、何度も何度も耳に叩きつけられることが、
周りの期待に応え、褒められ、そして、その度に孤独にさいなまれることが、
僕に与えられた、『罰』なんだ。それこそが、神が僕に与えたもうた、罰なんだ。」
………
そして僕は、
世間に気に入って貰えるよう振舞った。
友達を沢山つくり、
女を沢山抱いて、
酒を飲み、
煙草を吹かし、豪華なスポーツカーに乗って、
ブランド物と貴金属に身を包み、
時には父のパーティーに参加したり、
父とスポーツをしたり、
父と『野草の庭』をつくったり、全ての人の期待に応えようとした。。
『迎合』、それが僕の本質であり、『償い』なのだろう。
だから、世の中が思うであろう、『御曹司である僕』を、精一杯演じた。
世間の反応は、僕の思った通りだった。
『金持ちなのに気取ったところが一つもない。』
『少々金遣いは荒いが、下品なところが一つもない。』
『酒を呑んでも飲まれることはない。』
『機知の富んだユーモアやジョークを、
蓄音機のように甘いテノールで響かせる。』
『ホステスやキャバレーの女は、彼があまりに献身的なので、
彼の来客を待ち望みにしている。』
『ゆきずりの女も、女を悦ばせるテクニックと、
去り際の礼儀の美しさから、誰も彼の事を悪く言う者がいない。』
『頭脳明晰で明朗快活。おまけに踊りや舞い、声楽にも造詣がある。』
『長身のスポーツマン体系に、コーカソイド風の男前。』
『大手印刷会社の御曹司。』
『すべてに恵まれ、神に愛された男。』
『あれほど幸せな人は、この世に誰一人としていないだろう』




