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世忌花娘 【完結済.全58話・約125000文字】  作者: 仲渡 温紀


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ふたつの故郷

聡明な美純は、

母方の親戚達とも仲が良かった。

母の実家は四国の山中にあり、

都会とは違い大変に自然豊かで、

見渡す限り木々や田畑に、そして向こうの山が見えるばかり。

どの季節にも、

蝶や蜻蛉や飛蝗や蟷螂など様々な昆虫がおり、

どの季節でも、

いろんな色や形の木の実や花が、たわわに咲いて実っており、

何度訪れても、飽きる事がなかった。

自然豊かで災害も少なく、

そして情報の行き渡りにくい地域柄からなのか、

田舎特有の奇妙な風習やしがらみもなく、

住民は皆一様に、のんびりとしていて朴訥であった。

ただただ日本らしい、

古き良き自然崇拝があるのみであった。

美純は、そんな母の故郷をとても気に入っていた。

そして、

聡明かつ公正明大で、

器量の良い少女だった美純は、

祖父母やおじ・おばから大変可愛がられ、

いとこ達とも大変仲良くなった。

大人達からは、

田植えや稲刈り、

果樹の栽培や収穫の仕方、

それから山地特有の自然現象や、

土地神様について教わった。

子供達とは、

駆けっこや鬼ごっこ、かくれんぼをして、

年相応にはしゃいで遊んだ。

草や木を使った遊びや、飾りづくりをしたり、

そうして遊び疲れて皆で家に帰ると、

季節の果物や焼き芋を、祖母がもてなしてくれた。

遊びつかれた口に入るそれらは、

涙が零れるほどに美味しく、


「エデンの園がこの世にあるとしたら、きっと此処に違いないわ!」


などと、

幼い美純は、大袈裟にも思ったのだ。

寛も、

妻の実家が気に入ったそうで、

祖父母やおじ・おばとも直ぐに打ち解け、

美純や子供達と一緒になって、子供のように遊んだ。

しかし美純がもっとも吃驚したのは、伝恵のはしゃぎようである。

故郷への帰郷がそんなにも嬉しいのか、

戸惑うおじ・おばや大人達まで誘って、

駆けっこや鬼ごっこやかくれんぼの時は、

子供達よりもはしゃぎまわり、

かき氷を食べるときなど、

勢い余って年甲斐もなく頭痛をさせて、

祖父母から呆れられる始末であった。

普段のおっとりした姿からは想像もつかない、

アグレッシブな伝恵の姿。

美純と寛は呆気に取られていたが、

妻が、母が、

こんなにも故郷を愛しているのだと、

そして、はしゃぐ程に楽しんでいるのだと思うと、

寛と美純は、我が事のように嬉しかった。

ふたりが覚束ない手つきで、

田植えや稲刈り、果樹の収穫をしている中、

手慣れた手つきで苗を植え、

鍬でするりと稲を刈り、

実をサッともいでは、ポイっと籠に放り投げるのを見たときには、

寛も美純も、思わず尊敬してしまった。

そんな二人を傍目に、したり顔をする母。

美純は、それが嬉しくてたまらなかった。

その横で寛は、

「こんなに幸せな故郷があるなんて、伝恵は幸せ者だな。」

と、優しく愛おしげに、そう呟いた。

しかしその声には、

優しさの中にも、

どこか、

切なげな色があった。

そしてその目は、

手の届かぬものを見ているかのような、

遠くを見ていた…。


そして美純は、

寛の、父方の親戚は嫌いだった。

魂が穢れているとすら、感じていた。


都会の一等地に、

西洋風の大きな屋敷を構え、

庭は一面、薔薇、薔薇、薔薇。


「ローズガーデン」なるものがイギリス庭園にはあるからして、

それそのものがナンセンスとまで言うつもりはないが、

せめて薔薇で統一するのであれば、アーチやオベリスクや壁面等を利用し、

クライミングローズで立体感を出すだとか、株元にささやかな草花を植えるだとか、

そういう工夫があれば感動のひとつもするが、

庭にあるのは四季咲き性のハイブリット・ティーばかりで、

流行りの品種の大株を、考えもなしに育苗商から高額で取引し、

業者か召使に植え付けさせたのであろう。

そして事もあろうに、

来客があるというのに、

業者か召使にさせているのか知らないが、

これ見よがしに自動噴霧器なぞ使って農薬を散布している。

化学薬品が悪とは言わぬが、鼻を貫く薬剤の臭いに、

美純は眉をしかめ鼻をつまんだ。

「だれかが喘息でも患っていたら大事になるかもしれないことを、

この屋敷のあるじは想像も出来なかったのかしら。

造園センスだけではなく、デリカシーすら欠けているのね!嫌な感じだわ!」

と、心の中で毒付いた。

よほど声に出して言ってやりたかったが父の手前、内心にとどめておいた。

そして美純の「嫌な感じ」は、見事に当たっていた。


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