だから私はこうなった
北条真は自首をした。
酷く怯えた様子で体を震わし、
悲痛な顔して涙を流しながら、
警察へと連絡したそうだ。
「自首しなければ、娘を殺すと脅されたんだ!北条寛の娘、北条美純に…!
私の娘はどこだ、どこだ?どこなんだ、どこなんだ?
私の娘を、娘を探してくれ!」
警察複数人を伴った北条真は、駆け足で娘のいる部屋へと向かった。
そしてその部屋の惨劇を目の当たりにして、。真は、悪い夢でも見ているかと錯覚した。
娘が恍惚とした表情で、
少女と思しきふたつの肉塊を、
原型を留めないほどに、
ブチュ、ブチュ、と、
何度も刀で突き刺している。
「あー、パパだァ。あのねェ、私が全部やったのォ!真理愛ちゃんも姫華ちゃんも、
私が殺したんだァ、アハハ!
ふたりのパパをキョーハクしたのも私、
パパに自首するように頼んだのもぜーんぶぜーんぶ、私がやったんだあ!
あはは、あはは、あはは!」
「や、やめなさい、やめなさい!桃恵!」
「あはは、あはは、あはは……美純ちゃん、ごめんねぇ…。
私のパパが、全部悪いんだァ…。」
「私のパパは人殺し!」
娘の言葉が、頭の中で木霊する。
『私のパパは人殺し!』
頭蓋を鈍器で殴られたように、ずきずきと木霊する。
北条真は顔面蒼白になり、放心した。
警察ですら、事態の凄惨さに唖然として、しばらく放心していた。
精神に異常をきたした少女は、見た目からは想像できないほどに強く激しく、
警察達はなんとか少女の身柄を抑えたものの、全員が重症を負った。
余談だが、この警察は、美純や伝恵を尋問した男達であった。
彼らは、刃傷が元で破傷風に掛かり、命を落とした。
そして、北条桃恵に惨殺された娘達の父親は、
遺体の惨さにショックを受け頭が狂い、妻と無理心中をした。
遺書には、
『私達一族は、北条真が真犯人だと知っていたにも関わらず、
遺産欲しさのために彼の罪を匿い、北条伝恵に濡れ衣を着せようとした。
こんな事になるのなら、通報するべきだった」
と、書かれていた。
『喪に伏し悲しみに暮れている二人の母娘に、
免罪を着せようとした汚らわしい一族。』
北条一族の悪評は、忽ち世に広まった。
彼らの事業や仕事は悉く失敗し、破綻した。
皆一様に、無理心中をして、命を失った。
そして北条真は獄中にて何度も、
「寛の断末魔が、頭から離れないんだ、涙を流して悲しい顔をして、
暗い目で俺の事を見てくるんだあああああ!」
と狂ったように叫び、そして首吊りをした。
彼の娘「北条桃恵」は母を刺し殺した後、自刃した。
そして祖父母もまた、
世間からの蔑視に耐えきれず、農薬を飲んで自殺した。
そして北条一族のうち、美純と伝恵だけが、生き残った。
そして北条一族のうち、美純と伝恵だけが、生き残った。
真犯人が解明された当初こそ、
世間は、美純と伝恵について同情的に考えたものの、
彼女らを除く北条一族が、揃いも揃って無理心中をしたこと。
彼女らを尋問した警官や刑事が、悉く病死を遂げた事。
そしてなにより、
北条美純の、
まだ十歳とかそれぐらいの年頃とは思えぬほどの、敵意に満ちた瞳。
この世の全てを呪っているかのような、おどろおどろしい瞳。
その瞳に怯えた人々が、
『北条美純が一族へと呪いをかけ、心中させたのだ!』
と迷信し、美純と伝恵に怯えるようになったのだ。
そして、
彼女の家の花や木を踏み荒らした者、
彼女の家にゴミを投げ捨てた者、
彼女の家の外構に落書きをした者、
彼女に石を投げた子供達、
彼女の目の前でこれ見よがしにヒソヒソ話をした大人、
彼女に不当な値段で食料を売った人々、
彼女や彼女の母に纏わる噂話を嬉々として語った者は、
皆一様に、
発作を起こすか、
病に倒れるか、
気が狂うか、
仕事や事業や店が上手くいかず破産するか、
酷い場合だと、自殺するか…
そんな事が街中で起こるので、
世間はすっかり、美純を怖れるようになった。
『勝手に呪いをでっちあげ、その呪いに自ら掛かり、
そしてそれに怯え恐怖する。くだらない。
物を壊し、石を投げ、罵詈雑言を浴びせかけ、
それで正義を執行した気になっているようだが、
それが『呪い』だとか実害のあるものとなると、
ただただ我が身可愛さに、臆病にも震えているだけ。実にくだらない。
己の行いを顧みず、我が身に降りかかる不幸を『呪い』のせいにし、
何が何でも己を正当化したがる魂の汚らわしさ。まさに愚の骨頂。
まあ良い。
そんな下らない豚共は、自分の呪いで勝手に滅びたらいい。
もはやそんな事は、私には関係の無いことだ。
私は勝利した。
母を救った、
父の仇を取った、
醜悪な豚どもを駆逐できた!
静寂を勝ち取ることができた!
もはや、私を脅かすものは何もない!
何もないのだ!」
十歳かそこらの、まだ幼い美純。
彼女は敵を失い怒りを失い、
すべてが馬鹿らしくなってしまった。
その代わりに芽生えたもの。
それは、世界への「拒絶。」
それが、彼女の人格を形成した。




