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世忌花娘 【完結済.全58話・約125000文字】  作者: 仲渡 温紀


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魔女に捧げられた贄

そして、北条真の娘へと黒電話を渡す。

「パパへかければいいのね!?自首しなさい!って言えばいいのよね!?」

美純は、場に不釣り合いなほど柔和な笑みを浮かべ、少女へと頷いた。

爛々とした目で黒電話に小指をとおし、受話器を耳にあてる少女。

その瞳は明らかに精神錯乱していた。金属音が鳴り、止まり、そして…


北条真の、声。


「パパ、お願い!私、知っているの!パパが、美純さんのお父様、

北条寛さんを毒殺してしまったことを!私、罪悪感に耐えられそうにないの!

もし自首してくれなかったら、私、自殺しちゃうわ!…嘘じゃないわ!

だってパパが殺人犯だってわかっていて何もしないのは、

それくらい辛い事なのだもの!だからね、パパ?自首しましょう?

私、パパの事大好きだから、パパが出所するまで待っているわ!

ね、自首ましょ!?自首しよ自首しよ自首しよ自首しよ…」


美純が受話器を引っ手繰ったくる。


「あなたが真犯人である証拠?ないわよ。ただ、留置所にいる母が私に、

『北条真が、ゴディバのチョコレートを執拗に勧めた』と言った、それだけ。

だけど、当たっていたみたいね。

…あなたのせいで、私の父は死んだ。

誰よりも優しくて強くて高潔なお父様が殺された!

私とお母様の人生も、滅茶苦茶にされた!…

よろしいこと?たかが死刑で済むと思ったら大間違いよ?

一瞬で楽になれると思ったら大間違いよ?

だって私は、あなたが許せなくて許せなくて、仕方がないの!

この世のありとあらゆる苦しみを、あなたに与えたいの!

父の仇を討つために!

私の世界から、美しさが損なわれないためにも!

美しさを、私の世界から守るためにも!

そのためにはあなたのような醜い人間の苦しみが必要なの。

だって美しいものが苦しみながら死んで、

美しい者の愛するものが苦しみながら生きているというのに、

人殺しに手を染め、魂を穢し、

人間を冒涜したあなただけが一瞬で死ぬだなんて、おかしいじゃない、

だから私は、私を苦しめたあらゆる敵に、地獄の苦しみを味わってほしいの!

この世界にある美しいもの、美しい人達を守るために!

そのためにも、醜い者達への業苦が、苦界が必要なの!

美しさのために、穢れた血を贄にする必要があるの!

だから私はあなたを、いいえ、あなただけではない、すべての醜い存在を呪う!

くれぐれも気を付ける事ね!

あなたがどれだけ苦しみから逃れようとしても、その苦しみは全て、

あなたの大事な娘が背負うことになるのよ!

もし警察を呼びでもしたら、

私がお前の娘を拷問して、

死すら生ぬるい苦しみを、お前の娘に与えてやる!」


悪霊に乗っ取られたかの如く悍ましい、

子供の出す声とは思えないほど、ドスの利いた声。

鈴を転がすような美純の声色とは違う、別の「存在」の声。

そしてその悪霊が口から全て放られた時、美純はうなだれた。

小さな体の、

その五臓六腑にまで、

怒り、憎しみを浸透させ、

臓器ごと吐き出したかのような、

虚無感。


『もう、疲れてしまった…』


近くにいる少女達の声が、

遠くから聞こえてくる。

二人は恐怖しているが、

ひとりはなんだか楽しそうだ。


「ねえねえ逃げようよ!今なら大丈夫だよ!」

「ダメよ!私達は罪を償わなきゃいけないの!」

「もういや…もういや!これ以上いや…!」

「私達は弱音を吐いちゃいけないの!罪を償わなきゃいけないの!

きっと、あなたも私のように指を切れば、楽になれるわ!」

「い、いや!やめて!」

「もういや!」


そして部屋は刃傷沙汰になり、

一人の少女が正気を失って気絶し、

一人の少女が楽しそうに刀を振り回し、

そして二人の少女が、

その刃に斬られ、命を落とした。

シャンデリアの下には、

ロココ調の調度品に、

愛らしいビスクドールの数々。

メルヘンチックな部屋を彩る、

赤い花びらのような、

血痕の数々。


『惨劇。』


この場を定義する言葉として、これよりも相応しい言葉はないだろう。


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