ハンムラビ法典
「…だれその子?汚らしいわね?」
「まあいいわ。今日は何して遊ぶの?」
少女は、先ほどの惨劇が嘘であるかのように、
年頃の娘らしい明るさを取り繕い、二人を『遊び』へといざなった。
「今日はね、ヨーロッパで流行っている、面白い遊びをしたいと思うの!」
「え!?なになに!?なにそれ!?」
「さっそくやりましょうよ!で、どうするの?」
「えーとね、じゃあ、手を後ろに組んでくれるかしら?」
「…こう?」
「そうそう!じゃあ、ちょっと…」
後ろに組まれた手を、ガムテープで括る少女。
その眼差しは異様に爛々としており、常軌を逸していた。
少女が、二人の両手にガムテープを張り終わるのを見て、
美純は嗤った。それを見て、少女も笑った。
美純はギョロリと目をひんむき、二人のうち片方の首筋に刀を向ける。
そうして美純は二人に向かってこう言った。
「昔のヨーロッパではね、『ギロチン』、っていう遊びが流行っていたんですって!
それを今から、あなた達の首でやってみたいと思うの!」
傲慢な娘達の顔が、恐怖に染まった。
そこで指切りの娘が、
「騒いだら殺すわよ!
もし騒いだら、この私のペーパーナイフで、あなた達の指を切っちゃうんだから!」
「な、なにをするの!?」
「うるさい!騒ぐな!」
指切の彼女が、ペーパーナイフを握った手で少女の頬を殴る。
精神を壊した彼女の力は凄まじく、
指切の彼女の手は「ボン」、という低くくぐもった音を立ててグニャリと曲がり、
殴られた少女の頬は「ゴッ」という音を立てて、たちまち紫色へと腫れた
ニヤリと美純は微笑んで、彼女達にこう言った。
「今のは軽い見せしめよ。私達の言う事を聞かなければ、
これよりもっと酷い目に合うのよ、おわかり?
そのうえで、あなた達二人にやって欲しい事があるの。
まずはあなた達のお父様方に電話して、
『北条寛毒殺の真犯人は北条真であると、警察に連絡してほしい』と言いなさい。
それだけしてくれたらいいわ。
もし途中で助けを呼びでもしたら、その時は『ギロチン』ですからね!」
「ひぃ…!」
「じゃあ電話なさい。」
片方の少女が、縛られた手をぐるりと動かしながら黒電話に指をかけ、
電話をならした。
美純が受話器を少女の耳に当てる。
「…もしもし?パパ…?あのね、聞いてほしいの。
『北条寛を毒殺した真犯人は、北条真だ。』って、警察に連絡してほしいの…
え?いや、それは…」
そこで美純が受話器をひったくった。
「用件は、あなたの娘が言った通りよ。…事件の真相を何故知ったかって?
それはどうだっていい事でしょう?…そう、あなたの仰る通り、私は北条美純です。
真犯人を突き止めたので、あなた方にも協力してほしいの。
協力頂けないなら、娘の命はないものと思いなさい。
そして、北条真を警察に訴えてくれれば、それ以上の要求は致しません。
お嬢様も無事に返しますわ。
ええ…話が早くて助かります。念のために申しておきますが、
彼が自首する前に警察の気配がしましたら、
あなたは娘の生首と再会することになりますから、そのおつもりで。」
そしてもう片方の少女に黒電話を渡し、番号を回させる。
受話器を少女の耳にあてると、少女の父親の声が聞こえた。
「…もしもし?パパ、『北条寛を毒殺した真犯人は、北条真!』
『北条寛を毒殺した真犯人は、北条真!』ねえ、警察にそう言って、
お願い!警察に言って!」
受話器をもぎ取る美純。
「こんにちは。悪い事は言わないから、娘の言うとおりにしなさい。
でなければ、あなたの娘の首を斬り落とします。
…ええ、私は北条美純ですが、それがどうしたのです?
…何故そんな酷い事をするのかって?それは、あなたが一番よく知っているはずよ。
わたくし、願いを果たす為なら人を殺したって構わないと思っておりますの。
十人でも二十人でも、百人でもね!
…ええ、仰る通り。あなたのお嬢様に罪はありませんわ。
だけどこのような事になったのは、あなたの責任です。
そしてその責任のツケが、あなたの娘に回ってしまった。
つまり、あなたがあなたのお嬢さんを苦しめているのです。
あなた方の不実が、私の父のみならず、母や私を苦しめたように。
あなた方が私達を虫けらのように扱うのなら、
私もあなた方をそのように扱うまで。
そんなに理不尽だと思うのなら、警察に相談しても構わなくてよ?
この不細工な娘を殺せば多少の憂さ晴らしにはなりますし、
それであなたが自責の念に苛まれ生き地獄を送るのであれば、
それはそれで本望ですもの、おほほほ…!
娘と無事に再開したいのなら、娘の言う通りにしてあげる事ね!」




