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聖女に愛された侯爵令嬢は愛を貫く決意をする  作者: 樋口 涼
襲撃

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4

マホンが土を媒体にノワールの洞窟からプリシカ王国へ転移した様に、オンブル伯爵は影を媒体にノワールからプリシカ王国へ転移してきたのだ。と、誰もが考えた。


マホンの大掛かりな魔法陣も、オンブル伯爵にとっては難ではない事を、セピアは知って居た。


(あの人と…アスールさんは血が繋がっている)


オンブル伯爵は、血と言う媒体を使わなくとも転移魔法を使う。

ならば血を使えば、距離が在ろうが簡単に飛べるのだ。

自分の血を使わなくとも。


(自分の…子供を…しかも愛した人の…たった一人残った子を…)


暗闇の中身動きが取れないセピアは、自分の膝さえも見えない。

だが、自分の膝も腕も震えている。


(でも、しっかりしなきゃ…)


震える両手を合わせた。

焦る気持ちも、恐怖も封じ込める様にぎゅっと手を握りしめた。


「闇は…私の魔法の…基…私が…一番力が使えるのよ…」


皆がどんな目に遭うか分からないと、思えば思う程、自分の震えは気にならなくなった。

祈る様に目を瞑り、唱えた。


「闇を掃いたまえ」


一瞬にして闇は室内から消え、オールと聖女、そして三人の聖人の姿が現れた。

全員、暗闇に包まれる前と同じ位置に立ち、呆気に取られた様にぽかんと口を開けていた。


「今の…掃ったのは君か?」


オールが驚きながらセピアを見る。

その声にセピアは頷いた。


「そうか…凄いな…」


オールのしみじみとした声が、セピアの耳をくすぐった。


「オール様」


ロホがアスールの立っていた場所を指さす。

アスールは居なかった。


その代わりに、血溜まりがじゅわりと広がっている。

一人分の血溜まりにしては少ない。


しかし、手枷と足枷、そして幾つもの制御装置が着ていた服と共に血に浸かっている。

隣に居たブランの裾には、物が落ちた時に跳ねた様な血飛沫が飛んでいた。


「これは…アスールは…逃げたのか…それとも」


オールは広がっていく血を遠巻きに見た。


「おそらく…死亡したか…と」


ブランが血をよけながらオールに答え、居た堪れないと、苦痛を露わにロホが一歩窓際へ寄ると顔を背けた。


「兵が言っていたアーテル子爵も、この様な状態だったのでしょう」


マホンはカーテンを一枚外すと、セピアの目に触れぬ様にと血の上にかけようとした。

だが、それを制したブランが風によって血を集め、持っていた収納魔法が掛かった指輪へ納めた。


「これで…」


綺麗になった。と、ブランは言いたかった。


「部屋は…変えましょう」


マホンが部屋から出ると、部屋の前に居た者に声をかけ、指示をした。


重苦しい空気が部屋には残る。

呆気ないアスールの死に、皆何も言えなくなっていた。


「こんな時に…何だが…」


オールの声が沈黙を破った。

無言で聖女はオールの顔を見る。

残っている話は聖女の母、シャインの事だ。


「お母様の事ね?」


聖女の言葉に、オールが頷く。


「シャイン様の聖体を…暴かせて頂いた」


本来ならば冒涜もいい所だ。


「丁重に葬られていたはずの…シャイン様の聖体は…やはり頭部が無かった」

「…」

「だから…あの時見た物は…」

「お母様ご自身の…って事ね」


聖女が深い落胆のため息を吐いた。


「ふんっ…初めてお母様の顔を見たのが…アレだなんて…胸糞悪いったらありはしないわ」


苦々しく眉間に皺を寄せた。

顔を皆から背け、やや下を向く彼女の足元の床にぽつっと落ちた雫を、オールは見ないフリをした。

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