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聖女に愛された侯爵令嬢は愛を貫く決意をする  作者: 樋口 涼
襲撃

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5

「ノワールの目的はセピア嬢だけでなく、おそらくシャイン様の聖体も狙っているだろう」

「王と貴方は一度に軍隊は来ないと踏んでいるのね」

「一気に侵略に動く可能性もない訳では無い。…王は兵力をかき集めるが、最後の手段を使う事も考えておられる」


ロホとマホンが「まさか」とオールに振り向いた。


「聖人達の眠りを妨げる様な事はしたくない。だが…」

「待ってください!」


オールの話にロホが割って入った。


「師匠達を目覚めさせると言う事は、一時的にこの国の魔法供給を止めると言う事ですよ!」

「そうだ」

「国民達の…魔法が使えない民の魔法道具が使えなくなると言う事ですよ!それは民にとって…死か…」

「仕方がないだろう!」


魔法道具は国民の生活に食い込んでいる。

それを断つと言事は死活問題だとロホは言いかけたが、オールは声を上げて言わせない。


「お前が言いたい事も分かる。しかし…侵略に遭えば国民にも死者が出る。そもそも命にかかわるのだ」

「ですが…師匠達は…」


三人は複雑な顔をした。

眠りについた穏やかな死を迎えるはずの前聖人達。

それを、戦争の為に起こすという事は、彼らに『穏やかな死』は訪れない事を意味する。


「最後の…手段だ。襲撃してくるノワールの…こちらの兵力との戦力差があればの話だ」

「…オール様」


ブランがゆっくりと歩き出す。


「なんだ」

「…落ち着く為に、少し…お時間をください」

「分かった」


ブランは頷くと、音もなく静かに部屋を出て行った。


「ロホ…マホン。お前達も…」


オールは二人にも声をかけた。

しかし、二人は首を横に振り部屋に居ると答えた。


「そうか…本来ならばそんな事はしたくない。だが、状況によっては…覚悟しておいてくれ」


オールの言葉に二人は頷いた。


「私は…」

「セピア嬢は参戦するかどうかは、まだ決まっていない」


セピアが自分も参戦するのか。と、問うたのだと思ったオールは瞬時に答える。

王は参戦を希望しているが、オールとしては参戦して欲しくなかった。


「君は…しなくて…」

「いいえ、オール様。私は…前線に出たいのです」

「何を言い出すんだ」


セピアの言葉に驚いたのはオールだけではない。


「何を言うのセピア。私とロホ達と兵達が居ればノワールなんて…」

「そうよ、私達が何とかすれば師匠達も貴女も出る事はないわ」


聖女とロホが口々にセピアを止めようとする。


「でも、私の魔力は多くて…邪神が食べた分の魔法もあるのです」


邪神が食べたアスールの魔法も、ロホの魔法も、ブランの魔法も…邪神が聖女へ移った後も使えた。

それは邪神が食べたモノは、セピアの身体に残り続けると言う事を意味している。


「ノワールの…人達の魔法は食べてないかも知れませんが…私の中に在った間に食べた魔法は私の中に在るはずです。それに…相手は闇です。日が暮れては不利になります…その点私も闇なので…」

「それでも危険だ」


オールもエピアへ説得を試みた。

何とか前線に立たせない手はないかと、あれやこれやと王を説得していた時の様に。

だが、決め手はない。


「私はセピア嬢を戦場に送りたくはない!!」


食い下がるセピアにオールは机を叩き、声を上げた。


「何故分かってくれない!俺は君を失いたくない!」

「しかし、その為の婚約者でしょう!?」

「俺はそんな考えで君を婚約者にした訳じゃない!」

「王は!私の力が貴方の役に立つと!」

「嫌だ!俺は嫌だ!」


駄々っ子の様に成り始めた王息に、セピアは呆気に取られ始めた。

合理的に考えればセピアを戦場に立たせる事は、防衛に…勝利を得る為にも利は有る。

だが、オールはもう理路整然とした戦略を捨て、感情だけを露わにセピアを説得しようとしている。


そんな二人に口を挟めなくなった聖女は二人を見守るしかなく、マホンは部屋の扉の横から眺め、ロホは窓の外を見た。


「…オール様」

「なんだ!ロホ!」


言い争うままにロホへ返事をしたオールは、ロホの指さす窓の外へ視線を向けた。

王城の庭が眼下に広がる。


「庭がどうした」

「あそこに…」


ロホの指さす先には、白い人影が揺れていた。

灰色に近い長い髪を揺らし、庭の地面に何かを描いている。


「あれは…ブランか?」


セピアもベッドから降り、窓辺へ向かう。


「魔法陣…?」


セピアが呟いた時、部屋のドア付近から物音がした。

四人が振り返るとマホンが膝を付き、苦しそうにしていた。


「マホン!」


セピアがマホンに駆け寄ろうとしたが、マホンは近付くなと制した。


「来ないでください…」

「でも」


セピアをオールが両腕を掴み止めた。


「…マホン」

「オール様…庭が…穢されました…」


窓の外で黒い光が立ち上った。

セピア達が庭を見ると、そこには黒いフードを纏う人間が十数人立っていた。

その中の一人がフードを取る。


「やぁ。待たせたね」

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