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「ノワールの目的はセピア嬢だけでなく、おそらくシャイン様の聖体も狙っているだろう」
「王と貴方は一度に軍隊は来ないと踏んでいるのね」
「一気に侵略に動く可能性もない訳では無い。…王は兵力をかき集めるが、最後の手段を使う事も考えておられる」
ロホとマホンが「まさか」とオールに振り向いた。
「聖人達の眠りを妨げる様な事はしたくない。だが…」
「待ってください!」
オールの話にロホが割って入った。
「師匠達を目覚めさせると言う事は、一時的にこの国の魔法供給を止めると言う事ですよ!」
「そうだ」
「国民達の…魔法が使えない民の魔法道具が使えなくなると言う事ですよ!それは民にとって…死か…」
「仕方がないだろう!」
魔法道具は国民の生活に食い込んでいる。
それを断つと言事は死活問題だとロホは言いかけたが、オールは声を上げて言わせない。
「お前が言いたい事も分かる。しかし…侵略に遭えば国民にも死者が出る。そもそも命にかかわるのだ」
「ですが…師匠達は…」
三人は複雑な顔をした。
眠りについた穏やかな死を迎えるはずの前聖人達。
それを、戦争の為に起こすという事は、彼らに『穏やかな死』は訪れない事を意味する。
「最後の…手段だ。襲撃してくるノワールの…こちらの兵力との戦力差があればの話だ」
「…オール様」
ブランがゆっくりと歩き出す。
「なんだ」
「…落ち着く為に、少し…お時間をください」
「分かった」
ブランは頷くと、音もなく静かに部屋を出て行った。
「ロホ…マホン。お前達も…」
オールは二人にも声をかけた。
しかし、二人は首を横に振り部屋に居ると答えた。
「そうか…本来ならばそんな事はしたくない。だが、状況によっては…覚悟しておいてくれ」
オールの言葉に二人は頷いた。
「私は…」
「セピア嬢は参戦するかどうかは、まだ決まっていない」
セピアが自分も参戦するのか。と、問うたのだと思ったオールは瞬時に答える。
王は参戦を希望しているが、オールとしては参戦して欲しくなかった。
「君は…しなくて…」
「いいえ、オール様。私は…前線に出たいのです」
「何を言い出すんだ」
セピアの言葉に驚いたのはオールだけではない。
「何を言うのセピア。私とロホ達と兵達が居ればノワールなんて…」
「そうよ、私達が何とかすれば師匠達も貴女も出る事はないわ」
聖女とロホが口々にセピアを止めようとする。
「でも、私の魔力は多くて…邪神が食べた分の魔法もあるのです」
邪神が食べたアスールの魔法も、ロホの魔法も、ブランの魔法も…邪神が聖女へ移った後も使えた。
それは邪神が食べたモノは、セピアの身体に残り続けると言う事を意味している。
「ノワールの…人達の魔法は食べてないかも知れませんが…私の中に在った間に食べた魔法は私の中に在るはずです。それに…相手は闇です。日が暮れては不利になります…その点私も闇なので…」
「それでも危険だ」
オールもエピアへ説得を試みた。
何とか前線に立たせない手はないかと、あれやこれやと王を説得していた時の様に。
だが、決め手はない。
「私はセピア嬢を戦場に送りたくはない!!」
食い下がるセピアにオールは机を叩き、声を上げた。
「何故分かってくれない!俺は君を失いたくない!」
「しかし、その為の婚約者でしょう!?」
「俺はそんな考えで君を婚約者にした訳じゃない!」
「王は!私の力が貴方の役に立つと!」
「嫌だ!俺は嫌だ!」
駄々っ子の様に成り始めた王息に、セピアは呆気に取られ始めた。
合理的に考えればセピアを戦場に立たせる事は、防衛に…勝利を得る為にも利は有る。
だが、オールはもう理路整然とした戦略を捨て、感情だけを露わにセピアを説得しようとしている。
そんな二人に口を挟めなくなった聖女は二人を見守るしかなく、マホンは部屋の扉の横から眺め、ロホは窓の外を見た。
「…オール様」
「なんだ!ロホ!」
言い争うままにロホへ返事をしたオールは、ロホの指さす窓の外へ視線を向けた。
王城の庭が眼下に広がる。
「庭がどうした」
「あそこに…」
ロホの指さす先には、白い人影が揺れていた。
灰色に近い長い髪を揺らし、庭の地面に何かを描いている。
「あれは…ブランか?」
セピアもベッドから降り、窓辺へ向かう。
「魔法陣…?」
セピアが呟いた時、部屋のドア付近から物音がした。
四人が振り返るとマホンが膝を付き、苦しそうにしていた。
「マホン!」
セピアがマホンに駆け寄ろうとしたが、マホンは近付くなと制した。
「来ないでください…」
「でも」
セピアをオールが両腕を掴み止めた。
「…マホン」
「オール様…庭が…穢されました…」
窓の外で黒い光が立ち上った。
セピア達が庭を見ると、そこには黒いフードを纏う人間が十数人立っていた。
その中の一人がフードを取る。
「やぁ。待たせたね」




