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「オンブル伯爵…」
セピアの呟く声と同時に、爆発音が響いた。
黒い煙が窓の横から流れて来る。
「城の中にも…」
オールはすぐさま通路に出た。
部屋の前から続く通路の先で、壁の崩れた箇所が見えた。
「何が…」
聖女も通路へ出ようとするが、オールはそれを制する。
「部屋に居ろ。見える範囲だけでも三カ所壁が崩れている」
「同時に来たって事?」
「あぁ…俺はオンブルの所へ行く。マホンは王の所へ。聖女はセピア嬢とここに居てくれ」
マホンは早急に走り去り、聖女は頷いたが、セピアは首を横に振った。
「一緒に行きます」
「駄目だ」
「でも」
「今ここで言い争っている暇は無い!」
オールは声を荒げた。
先程までの困った様な、優しさの含まれた声では無かった。
王息としての、半ば命令に似た口調だ。
「お前達の一人はここに、お前は騎士団へ。恐らく騎士達もこちらへ向かって居るだろう。合流しノワールの襲撃だと伝えろ。4チームに分かれ各箇所へ。お前は一つと共に、他に爆発があった場所がないか、異変がないか探せ」
部屋の前に居た護衛兵にそう指示をする。
「詰め所や訓練所には私が通達する」
「はいっ!!」
護衛兵の走る姿を見送ると、オールは指笛を拭いた。
何処からか、猫達が走り寄って来る。
廊下に並んだ猫達は皆、オールの紋章が付いた首輪をしていた。
セピアはオールの操る猫の数を知らなかった。
目の前に10数匹はいる。
(可愛い…)
緊迫した状況の中、不謹慎だと首を振ってみるが、オールに向かって一点集中、顔を向け座る猫の可愛さに顔が緩むのを止められなかった。
城に居る紋章付きの首輪の猫達は、全てオールの伝令役だ。
リボンの色が緊急性を物語る。
通常は白であるが、今は紅い。
「よし」
オールが猫達に魔法をかけると、部屋の前から放たれた猫は離散し、各々、猫達は走り去る。
何匹かの猫は「ノワールの襲撃!敵来襲!直ちに厳重体勢!」と叫びながら遠のいて行った。
その声はオールの物だ。
「私はオンブルの元へ行く。聖女は…セピア嬢を任せた」
共も付けずに単身、オンブルの元へオールは走り始めた。
「待って!」
セピアはその背中を大声で呼び止めたが、オールには届かない。
「…セピア…ここは大人しく…ここに居て。王城に居る騎士団と兵士で対応は可能よ」
「爆破が少なくても三カ所…そして庭にオンブル伯爵ですよ?」
「それでも、この城に居る者達は魔法が使えるし、強いわ」
聖女はセピアを部屋の中に引き込み、ドアを閉めた。
セピアは腑に落ちない顔をしながら、窓辺へ向かう。
聖女はカーテンを閉めた。
「貴女がここに居るのも気付かれているわ。部屋を変えましょう。アスールの血が回収され、無くなっているとは言え、気分もよくないでしょう?」
聖女は移動に必要な物があるかと聞きながら、室内を歩いた。
セピアはカーテンの隙間からオンブルを見た。
その傍らに立つブランは、オンブルから何かを言われると、指輪からアスールの血を出し、また魔法陣を描き始めた。
「聖女様…そんなにゆっくりして居られ無いようです」
ブランの風の魔法で描かれていく。
魔法陣の完成は速い。
庭に早々に描かれ始めた魔法陣が、同じものだとセピアは気が付いた。
「最初の魔法陣も…ブランさんがアスールさんの血を使ったのでしょう…恐らく城内の爆発にも…」
ブランの指輪から出ていた血が、途切れ始める。
「このままでは…オール様があそこに着く前に…ブランさんが危ないです!」
「セピア!?」
聖女がセピアの方を振り向くと、セピアはもう窓から飛んでいた。
「セピア!!」
聖女が窓に駆け寄ると、セピアが飛翔魔法でブランの元へ一直線に飛んでいた。
いや、飛んでいると言うより落下している様な速度で、突進している。
「セピア!!!」
ドンと言う衝撃音と共に、土煙が上がる。
そして風が一吹きした後に現れたのは、ブランとオンブル伯爵の間に立ち塞がり、オンブル伯爵が出したブランへの攻撃を受け止めているセピアだった。
「殺させたり…しないわ」
「元気かね?セピア嬢」
オンブル伯爵がにこやかに笑う。
怪我も治してきたのだろう、傷一つ無い顔は本当にアスールにそっくりだ。




