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「貴方…アスールさんを操っていたのね…いつからかは分からないけど」
セピアは風の魔法で、自分とブランの周りに防護壁を作った。
「アスールさんが…アスールさんの様に行動する様に…」
オンブル伯爵の部屋で側付の男にかけた様に。とセピアは思う。
「君が殺した男の様に…かい?」
セピアは唇を噛んだ。
(研究施設に連れて来られた時には…もう)
「そうだね。考えている通りだ。誤って殺してしまったらしくてね…」
セピアに命は助けると約束した手前、回復薬を飲ませたが効かなかったらしい。と、オンブル伯爵は笑いながら弁解した。
「嘘つき」
「本当さ。まぁ、いつかは殺そうと思っていたがね」
自分の子供を。と、セピアはオンブル伯爵を責めたくなったが、目の前の男に通じないのは目に見えていた。
(どうせ愛なんて…って言うのよね。ピュアレ…アスールさんの母親を愛していた癖に…)
セピアはオンブル伯爵を睨んだ。
「あの闇は…目くらましね?…風の魔法と水の魔法は…相性が良いものね…だから、ブランさんを選んだのでしょう?」
「ちょうど隣に立っていたからね」
「…それで?アスールさんの血が足りなくなったから、ブランさんの血で続きを描こうとしていたの?」
「あははは」
オンブル伯爵は笑うと攻撃魔法を引っ込め、両手で拍手した。
「そうだ。よく分かったね」
「…どれだけ相性が良くても…違う属性を混ぜての発動は危険なのよ?」
アスールの血とブランの血が混じった魔法陣は、発動した瞬間大爆発を起こす危険性があった。
「ここも爆発するけれど、貴方も巻き込まれるわ」
「城内の魔法陣がその作用で爆発した事も、君には分かって居るのか」
オンブル伯爵はわざとらしい驚きの表情を浮かべる。
セピアの後ろでぼんやりと座り込むブランの腕から、鮮血が流れていた。
「ブランさんを戻して」
「無理なのを君は理解しているだろう?」
「何か解く方法は有るのでしょう?」
「さぁ」
オンブル伯爵が嘲る様に、両手を軽く上げる。
「君のお願いを叶える気は無いね」
オンブル伯爵の周りに居た黒いフードを被った者達が、セピアを取り囲む。
ジリジリと黒いフードの者達が迫り、セピアに触れようとした瞬間、閃光が走った。
「セピアに触らないで」
一瞬にしてオンブル伯爵の部下は、閃光に撃たれ黒い灰になる。
「貴方の上にも落とした気だったのだけど?」
聖女はセピアの横に降り立った。
「私には通じないさ」
オンブル伯爵は余裕を仄めかす。
そして、聖女が飛んだ窓を見た。
「君達二人は…なかなかお転婆な様だな」
オンブル伯爵はセピアの周りに倒れている黒い塊を、踏みつけ蹴散らしながら近付いた。
「セピア嬢…?聖女…?」
やっとたどり着いたオールは、面食らった様子だ。
オールの後ろに騎士団の一群も見える。
「これ程呆気ないとは…思っていなかったな」
オンブル伯爵はオールと騎士団の方を見て、進めていた足を止めた。
靴底ではオンブル伯爵の部下だった塊がハラハラと崩れ、風に飛んでいる。
「…オール様。ブランさんを拘束しておいてください…彼は操られています」
オールはセピアの言葉に「分かった」と返事をして、騎士の一人に指示を与え、拘束具の使用を許可した。
騎士は聖人に気後れしながら拘束具をかけた。
警戒しながらセピアの側へ移動するオールを、オンブル伯爵は目で追っている。
左右から猫が五匹オールの元へやって来ると、にゃあにゃあと何かを伝えた。
「オンブル伯爵。貴方の部下達は騎士団と兵達に拘束された。手駒は無くなったぞ」
「それで?こちらが不利になると?そちらは城を破壊され警備も手薄になったろう?」
「こちらの被害も城を一部破壊されたくらいだ…人的被害はそちらよりもない」
オールはオンブル伯爵の足元に視線を向ける。
「これか?これは戦力と言うモノでもないよ」
オンブル伯爵は薄ら笑いを浮かべながら、黒い塊の頭を踏みつぶす。
「貴様!自分の部下だろう!」
オールはオンブル伯爵の行動に激怒した。
「部下は部下だが…代わりはいくらでもいる」
「何だと!」
「オール王子。君の部下もそうだろう?」
「そんな訳がないだろ!」
「前線で『使い捨て』しているじゃないか」
「何を!」
オールは攻撃の構えを、オンブル伯爵へ向けた。
「オール」
オールを諫める声が庭に響いた。
重厚なその声は、騎士団長率いる兵のその後ろから聞こえた。
揃う足音が止まり、騎士達が二手に分かれる。
その中央に姿を現したのは、オールの父であるグリ王だった。
「初めまして。グリ王」
オンブル伯爵は招待された正式な使者の様に、王へ深々と礼をした。
「無礼な来訪になりましたこと、お詫び申し上げます」
オンブル伯爵は顔を上げ、懐に手を差し入れた。
「我が国、ノワールの王からプリシカ王国のグリ王へ」
差し出した物は一つの書簡だった。
騎士の末端がオンブル伯爵から受け取ると、掛かっている魔法の有無を調べ、危険性が無いかを確かめた。
そして、王の後ろに付いていた大臣へ手渡す。
大臣は恐る恐る開封した。
「陛下…これは、宣戦布告の書簡でございます…」




