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宣戦布告の書に、顔色も変えずグリ王はオール達と対峙している男に目を向けた。
「貴公がノワール国のオンブル伯爵かね?」
男の顔は、自国の聖人であるアスールにそっくりだ。
「なるほど」と、王はゆっくりと瞼を一回閉じた。
「貴公の国は、宣戦布告の際、城を襲撃し国民を殺すのが流儀の様だ」
王はゆっくりと大臣を横に避け、オール達に近付く。
王の後ろにマホンの姿があった。
臨戦態勢だったオールも聖女も、王の道を阻む事はしない。
道を開け、オンブル伯爵の前に王が立つ。
見下すような視線を、王はオンブル伯爵に向けた。
伯爵はそれを真正面から受け止めると、軽く笑った。
「ご無礼をお許しください」
軽く頭を下げたオンブル伯爵の目は、悪びれていない。
今度はグリ王が軽く笑う。
「ふんっ、書簡を持って来るのであれば正式に使者として持って来い」
王はそう言うとオンブル伯爵の頭上に手を翳した。
「バレていましたか」
「バレないとでも?」
「…いいえ、…しかし、貴方様の所業もこちらは知っておりますよ」
「アロガンの事であるなら、兵を引く方が悪いと、そうは思わないかね?」
「王の采配なれば、わたくしは物申す事など出来ません」
頭を下げた姿勢のまま、王へ視線だけを向ける伯爵は、滑稽さをわざと装うピエロの様に不遜だった。
「ではそちらの王に『承った』と伝えろ」
グリ王がそう言うと、掲げた手の下にいたオンブル伯爵が返事の為に口を開こうとした。
しかし、伯爵の姿はぐにゃりと揺れ、返事をする前に時空の歪みの様な風貌を一瞬だけ残し、消えてしまった。
その場に居た王以外の全ての人間が、呆気に取られた。
「父上…今のはいったい…」
「お前達は周りが見えていない」
驚愕の顔を隠せないオールに、王は冷たい視線を向けた。
「実体に限りなく近いが、本物のオンブルと言う者ではない。…あれはただの幻影だ」
「幻影…ですか…」
「あぁ。本物はこちらに来ていない。周りの者もただの一般兵だろう。先程城内で捕まえた者達もただの兵だ」
「しかし…」と庭の血と、兵が連行するブランの後ろ姿に王は目をやる。
「水の聖人に…風の聖人もあの状態とは…」
プリシカ王国にとって、二人の聖人が倒れた今の状態は、痛手ではあった。
「アスールはもう…死んだ。と言う事になるのか」
王は少し声を落とした。
「その事ですが…」
セピアはおずおずと二人の会話に割って入った。
「セピア嬢…君は無事かね?」
「はい」
「では、話の前に城内へ入ろうか」
爆発による瓦礫も、血の跡も負傷者の手当ても、全て終えた訳では無いが。と、王は衣を翻し城への道を先導し始めた。
「ご報告です!!」
遠くから兵が一人と教会の信者が走って来た。
「前聖女様が!!…聖女シャイン様のご聖体が!!」
息を切らし、途切れ途切れに叫ぶ信者の声に、セピア達は嫌な予感がした。
「奪われました!!」
「何ですと!!」
大臣の声が庭に響き渡る。
「こちらは…陽動か」
ぎりっと歯を食いしばる音が、聞こえた。
「皆、私の部屋へ来るのだ」
オールと聖女、そしてセピアとマホンが付いて歩く。
息を切らせた教会の信者は、息を整える間も惜しむかのように、その後に続いた。
ふと、セピアはロホが居ない事に気が付いた。
「どうしたの?セピア」
足を止めたセピアに、聖女が声をかけた。
「ロホは…?」
「ロホ?」
「えぇ」
「そう言えば…いつの間にか居ないわね」
聖女とセピアは顔を見合わせた。
「まさか…」
二人共、ブランの様に操られているのではないかと、不安に駆られる。
「ロホは今、私の命令で動いている…」
王が二人に声をかけ、付いて来る様に先を促す。
「お前の母親の体の事も…手は打ってある」
ちらっと聖女を見た王の目には、姪を見つめる叔父の優しさが宿っていた。




