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セピアとアスールを奪還し、王への報告をオールがしている時。
セピアが気を失い聖女が付き添っていると聞いたオールは、そのまま自分の報告を続け、彼女からの報告をアスールに肩代わりさせる事でセピアの休息を確保していた。
アスールが囚われた後の事は、彼女の意識が戻った明日以降でいいだろうと、王も承諾した。
話が終わり一段落ついたと安堵した時、息を吐く暇もなくアロガンに向かわせている軍の指揮官から、隣国を通じて緊急の知らせが来た。
『アロガンの兵が引いた』と。
不穏に思った指揮官は、一隊をスパイとして送り込んだ。
そこで、アルガン軍と合流するノワールの魔法使いと兵士を見た。
「指揮官は前線に復帰するモノだと考えたらしいが…それはアロガンに向かわず、転移魔法を使ったと言う」
「…こちらに向かっていると?」
聖女が腕を組む。
去り際のオンブル伯爵が『異母兄弟達が会いに行く』と言っていたのを思い出す。
「おそらく。アスールが言うには一瞬で飛ぶには距離が遠すぎる為、拠点拠点が作られており、それを飛んで近付いて来るとの事だ。相手は闇だ。夜の進行は速いが昼は混血の魔法使いの力だけになる為に遅れるだろう」
「…一気に来る人数でも変わるけれど…速ければ…」
「後二日くらいで我が国へ辿り着くだろう」
「会いに行くとか言っていたけど、こんなに早くとはね」
聖女は呆れたようにため息を吐いた。
アロガンに居る軍を戻すには時間がかかり、間に合わないだろう。
国民を批難させるのは、隣国や支配国の力を借りれば即完了する。
「でも、兵力ね」
「そうだ。…同盟国からは力を借りられるだろうが…」
「支配国から借りれば…それが敵の一部になるかもね」
グリ王が即位してから、急激な速さで領土をプリシカは広げた。
その為、敗戦国では未だにプリシカ王国へ憎しみを抱いている者は多い。
何十年経った所で憎しみは続くのだ、数年の恨みは色濃く在る。
「何にせよ、兵力は王がどうにかするだろう。…それで、お前が言っていた書物の件は、教会に使いを出し翻訳本を使いが持ってきた。あれが本当であれば女王の恨みは根深いモノだろう…」
オールの視線が目の前の聖女の髪ひと房に向く。
邪神の存在がある黒髪。
「しかし、女王を殺した王子の思惑は何だ?母親に殺すよう仕向けられたから、殺して女性を虐げるのは?」
「女を虐げるだけじゃないわ。男もよ。…女には復讐…男には…さぁ…分からないわ。だけど…多分それも復讐なのよ」
「…虐げられている男を助けなかった男も…か」
「そんな所でしょう」
聖女は肩を上下させ、呆れた顔をした。
「王子は私を母親から出し、自分の物にしようとしたのだ」
聖女の口から、低いとも高いとも言えない声がした。
銀髪が黒髪に変化している。
「邪神か」
「しかし、私を本当の意味では自分の物に出来なかった。王子は老いた後、力を持つ若者に破れた。…そしてそれが伝統になり法律になって行く。歴代の王は私を探していた様だが、血筋に目を付けた者が王子の子を攫い、王子の子は逃げた。逃げた先で生きながらえた血は長い時の間薄まっていったが、私は血に眠り続け女王の魂を探した」
「それがセピア嬢なのは分かった」
「だからオンブルと言う者はセピアを狙っている」
皆の視線がベッド上のセピアへ向くと、セピアはシーツのかかった両膝を抱えた。
「オンブルと言う奴は…彼女を捕まえたら…」
「殺しはしない。私が聖女の中に居るのを知って居る」
「では」
「それでも彼女を欲するだろう」
「聖女ではダメなのか?」
オールは自分でも少し酷い事を言っている気がした。
『セピアの代わりに聖女が狙われれば』そう言っているのと同じなのだ。
「駄目だ。聖女は創造主を宿している。だから私を吸う力があった」
邪神は「しかし…」とオールの目と目を合わせる。
「お前達普通の人間に私は移らない。私は瑠理香と契約したのだ。それが破られ、血脈に封印したのはあの時の『聖女』だ。神を宿した聖女が動かさない限り、私は動かない」
「…聖女の子に宿ると言う事は?」
「オンブルと言うやつが言っていたな。セピアとの子を作る。と」
「セピアとの子」の言葉に、オールの拳に力が入る。
「もしかすれば…聖女が何らかで死にセピアが子を産めば、私はそちらに移動するかもは知れない。そんな経験はないから断言はできない」
「移動方法を聞いていなかったが…聖女はどうやって邪神を吸ったんだ?」
「それは…」
聖女の黒髪が銀髪へ戻る。
「秘密よ」
聖女に戻った彼女は、人差し指を口元に当てセピアにも口を閉ざすように示した。




