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いつもと違う聖女の様子に、セピアは違和感を覚えた。
だが『邪神ではなくセピア自身に魅かれているのだ』と言っても、それは口だけで、本心では聖女も影響を受けているのを知って居るからなのだとセピアは思う。
聖女の腕が緩み、セピアは聖女と目が合った。
金貨色の目は少し潤み、今にも涙が零れそうに溜まっている。
「聖女様…?」
コンコン。
セピアの声はノックの音に止められた。
丁度良いタイミングだったと言う様に、聖女はセピアからスッと離れ、ドアを開けた。
「大丈夫か」
オールの声が小さく聞こえた。
「えぇ。もう…落ち着いたわ…」
「そうか」
少しの間が聖女とオールの間に流れる。
オールの後ろに控えるのは、いつものメンバーだ。
しかし、皆、部屋の様子を見回す事も無く、深刻な表情を浮かべながら真っすぐ前を向いている。
誰一人として、緩んだ雰囲気を持っていない。
ロホですら、セピアの元へ行こうとせず、聖女とオールの側に控えていた。
「何か…あったの?」
皆の様子に聖女は訝しんだ。
部屋前に立つ護衛からすれば、部屋の惨事や先程までの通路にまで及んだ暴走の方がコトなのだが、王息と聖女のやり取りを、固唾を飲んで見ていた。
「まずは…部屋に入ろう」
オールは周りに居る護衛や、騒ぎを聞きつけ集まって来たメイド達に散らかった物を片付ける様に指示し、聖女を室内へ押しやった。
そのアールの背に、ロホとマホン、ブランに続いて手枷と足枷が付いたアスールが続く。
「オール様」
護衛の一人が声をかけた。
だが、オールはその声を、右手を上げ制止する。
護衛はアスールを警戒していた。
「彼は…もう抵抗できない」
オールはアスールに目を向ける。
首には魔法制御の装置が何重にも付けられていた。
「…隣国にも…ウルネスの商人が出入りしているとは…な」
忌々しいノワールの、魔法使いの犠牲の上に作り上げられた制御装置。
そんな物が流通し、頼る事になるとは…。とオールは苦々しく思う。
その上、ウルネスの商人は隣国や近隣国だけではなく、プリシカ王国にも出入りしている。
その事を、オールは今回の事で初めて知った。
オールは己の危機感の無さや、情弱さに嫌気が差す。
父である国王がノワールの所業を知りながら、ノワールではなくアロガンに進軍した事にも、王息として理由を求めなかった事も、自分の不甲斐なさを恥じる要因になっていた。
オールの視線にアスールは、申し訳ない様に視線を下に向け、顔を逸らした。
アスールには、もう反抗する気は無かった。
が、勇者を殺し血の海の部屋からセピアを攫った罪は重く、敵国側の人間だ。
信用に値しない。
それに、オールからすれば自分の婚約者の唇を奪った男だ、余計に憎しみが向かう。
手枷と足枷、何重もの制御装置が仰々しさを漂わせているが、これでも軽く済んだ方だった。
魔法を使えなくさせる、身体能力を下げる。
その為には、手足を切り落とされても文句は言えない。
それでも、オールはそれをしなかった。
話し合いの場に四肢を切り落とされた罪人を、同席させるのに懸念や倫理的批判があった訳では無い。
父王も聖人達も、厭わないだろう。
だが、その場にはセピアが居る。
邪神を身に持ち、闇魔法の使い手。
聖人達同様…それ以上の魔力を持っている彼女を、ただの婚約者だと話し合いの席から遠ざけるのは、王息の意思であっても難しい。
彼女自身が拒否すれば良いが、恐らくセピアは話し合いの席に着くだろう。
その、セピアの前に四肢の無い男。
以前までは親しくしていた者が、そんな状態で彼女の前に現れるのは、オールとしても避けたかった。
牢獄内のアスールに向き合った時。
「彼女は…優しい」と、自分の湧き上がる憎しみや嫉妬をセピアを想う事で、どうにか抑え付けた。
首に制御装置を付ける際「痛みや苦しみも受ければ良いのに」と、考えもした。
犠牲になった魔法使いの、痛みや苦しみが装置の中に入って居れば…。と。
「はぁ…」
室内に入ったオールは深く息を吐いた。
ベッドの上のセピアと目が合い、彼女の目が赤くなっている事やその頬に残る涙の跡を見て、悲しみや悔しさ、憤りがオールの体を巡ったが、王息である以上その感情を抑えなければならない。
オールはぎゅっと拳を握った。
「で、何があったの?」
聖女がセピアの側に在るテーブルの椅子に座る。
オールは、失礼する。と一言セピアに告げると、聖女の前に座った。
聖人達はオールの背後に起立する。
「ノワールが…襲撃してくる」




