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「セピア!」
聖女もどうする事も出来ない。
彼女は魔法を使って、セピアを止める事はしたくなかった。
通路のざわつく気配からオールやブラン、ロホやマホンが部屋に来るのが分かった。
彼ら達が王に報告に行ったのは昨日の事。
部屋に届けたセピアが気絶した事で、ずっと報告に行かず聖女は付きっ切りだった。
彼らもまた、セピアを心配している。
それが今の聖女には痛い程分かった。
それは、セピアが見つかる前の自分と同じだったから。
空でセピアとアスールを見つけたブランの召喚に応じて、聖女とオールが飛んだあの時。
辿り着いた先で見たのはセピアの姿ではなく、落ちた鳥と乗り物の残骸だった。
近くに居るかも知れないと捜索を続け、見つけたのは小さな島の残った焚火のカス。
ロホが手を掴めなかったあの炎の先だった。
そして、二人の行く先は分からない様に巧詐されていた。
足元に寄せては返す波。
アスールの領域である海を、心底憎んだ。
それでも、自分の中にあるセピアへの想いが自分の背を蹴り、心臓の音が口から出そうな程脈打った。
彼女の無事が知りたい。
彼女の息を確かめて、体温を感じたい。
彼女の指先やつま先で良い、触れたかった。
それが自分の気持ちか、邪神の気持ちか、考える余裕もなく、ただひたすらセピアを求めた。
隣にいたオールさえも、王息らしからぬ言動や行動を見せていた。
それが『セピアの中に居た邪神』に魅かれての事とは、どうしても思えなかった。
「私も…オールも…貴女が必要なの!居て欲しいのよ!」
セピアに声が届いているか、分からなかった。
「貴女の祈りの様な言葉が微かに聞こえ始めた時、どれだけ嬉しかったか!」
聖女は風に煽られながら、ほんの少し離れているセピアに手を伸ばした。
しかし、彼女の魔法が強過ぎて飛んでいくカーテンや、シャンデリアの破片で思う様に進めず、触れない。
煽られた聖女は体勢を崩し、ベッドの下まで転げ落ちた。
マットの端を両手で掴む。
「ねえ!呼んでくれていたでしょう!?」
聖女はどうにか、ベッドの上へ這いずり上がった。
「聞こえていたのよ!私とオールには!」
ノワールに攫われ、何度も何度もプリシカの皆を頭に浮かべ、助けを求めていたセピアのあの声は聖女とオールに届いて居た。
邪神を持つ聖女と、全ての属性を増幅しサポートが出来るオールのコンビは、遠いながらでも救いを求めるセピアの声を拾うに打って付けだった。
聖女の声に、抱えた両膝に埋めていた顔をセピアが上げた。
その眼からは涙が溢れている。
「ずっと泣かせて…」
聖女はそう呟くと、出来る限りの笑顔をセピアに向けた。
「セピア!本には邪神を持つ者には邪神が口付けをした跡がある。と書かれていたの。だから…貴女の体にもあるはずだって思ったわ。見つけたら、貴女の代わりに私がそれを持つって…決めたの」
セピアは聖女が光に包まれている様に見えた。
闇の中の、一筋の光の様に眩しかった。
「私、セピアを愛しているわ」
セピアの見間違いではなく、本当に聖女の体は光を放っていた。
布を頭から被った女性の様な形の光は、セピアの出す風を緩めると、部屋を一周回り聖女の背後に守護者の様に降り立つ。
聖女はそっとセピアの頭に頬を乗せ、肩を抱きしめた。
「もう泣かないで、セピア。あの日…見つけた時、貴女に内緒で口付けをしたの…は、それを狙う奴が触れるのが嫌だった…それに…王が言う戦場に行かせたくなかった…」
二人はお互いを見つめ合った。
聖女はセピアの涙を拭い、セピアは聖女の頬に流れる一筋の雫を拭った。
「それは愛しているからよ…」
自分よりも、どこの誰よりも。セピアを愛している。そう、聖女はセピアの耳元で囁いた。
その時、セピアは聖女にキスをされると思った。
しかし、彼女はもう一度セピアを強く抱きしめた。
名残惜しい様に、最後の抱擁を確かめる様に柔らかく、大切な宝物を抱きしめる様にぎゅっと。




