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聖女に愛された侯爵令嬢は愛を貫く決意をする  作者: 樋口 涼
聖女の愛

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4

「聖女の想いのどこからが神の影響で、どこからが本人の意思かは分からないが…どうする。話を続けるか、それともそれを突き詰めたいか?」


セピアの耳に邪神の声が聞こえた。


「…」


目を合わせると、金貨色の目が悲し気に揺れている。


「…話を…続けましょう」

「セピア…」


聖女は、自分が邪神に変わっていた事に気が付いていなかった。


(聖女様も邪神も…不安定…なのね)


セピアは、聖女の体が邪神に乗っ取られる危険性を感じ、万が一にでもそうなったら…と考えると背筋が冷えた。


「そうね…そう、話を続けましょう…」


聖女が姿勢を戻した。


「王も…貴女が邪神を持っている事に気が付いていたわ」

「王様も?」

「えぇ。だから…オールの…」

「オール様の婚約者にしたのですね…」

「えぇ」


セピアは力が抜けた。


(そっか…だから…魔法が使えなくても…)


ふっとセピアは諦めの様な渇いた笑いが、口から零れた。


「王が何から知ったのか、いつから知って居たのかは分からない…」


(そっか。皆…私を必要としてくれていたのではなくて…)


「王様は…それで…?」

「この間、王とお父様の話をした後、聞いた時にも『王息妃はセピアでなければならない』と頑なに言っていたわ」

「私を使って…アロガンと…アロガンとの戦争を勝ちたい。のですか…ね?」


(オール様の婚約者として選ばれた理由…それが邪神で、アスールさんに連れ去られたのも、ノワールのオンブル伯爵も、王様も…私じゃなくて邪神が欲しいのね。…いいえ、当たり前だわ。ただの魔法が使えない侯爵令嬢だった私だもの。そんな何もない私は役に立たなかった…役に…。国の為に。国民の為に。両親の為に…オール様の為に…ずっと誰かの為に…私は…戦争の為に…)


次々に怒りが湧き出て来た。

ノワールではあんなにも、救いを求めた人達の顔が、醜く崩れていくようだった。


「セピア!セピア!」


(その上…聖女様からの愛は…想いは…)


セピアは考えたくもなかった。


「セピア!」


聖女が吹き荒ぶ風の中、セピアの名前を呼んだ。

聖女や邪神が不安定の中、セピアもまた不安定なのだ。

暴走する力を制御出来ていない。


部屋に渦巻く魔法で窓が鳴り、全てのカーテンがはためく。

布の叩きつけられる音が、部屋中で響いた。


「どうした!」


部屋の外までセピアの魔法は届いている。

慌てふためく兵士の声や、メイド達の声が聞こえた。

大勢が走って来る靴の音が、部屋の前で止まった。


「セピア、落ち着いて!」

「聖女様…」

「貴女はいきなり大きな力を持ったわ。いいえ、本当はずっと持っていたのを色々な環境や思惑で封印されてしまった」


聖女は風の中、セピアに届く様に大声を張り上げた。


「そんな中、邪神まで目覚めてしまった」

「…」

「貴女が混乱するのも分かるわ」


自分を弱いと思い、必死になってやって来た。

しかし、自分は思っていた以上に強かった。

ただ、封印されていただけだった。

『自分』を利用したい人間の思惑で。


セピアには、黒い感情が自分を取り巻いている様に思えた。

奴隷商街以上のどす黒く、どろどろとした醜いモノが、明るく綺麗だと思っていたプリシカにも。


(オンブル伯爵に言われた通りだった)


「でも!誰も私を…私が必要なんじゃない!!」

「私はお前が必要だ」


邪神の声でセピアを求めた。


「貴方は…女王の面影を見ているだけよ!」


(人の事を不安定だなんて…私もこんな…駄々をこねた子供みたいに…)


セピアは膝を寄せ、両手で抱きしめた。

この混乱を自分でも、どうしていいのか分からないでいた。

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