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聖女は何から話せば良いのか悩んでいる様に、少し右斜め上に視線を上げた。
彼女の視界には、ベッドを包む天蓋の紺色と、金色の刺繍で縁取られた短いカーテン。
そして、左下にはじっと見つめる黒い目の持ち主であるセピア。
「あの…勇さんが召喚された時から…ですか?」
セピアは勇の名を口にした時、胸の奥が痛んだ。
「違うわ」
聖女は首を振る。
あの時、セピアの中に邪神が存在している事を口にした者はいない。
皆、邪神の存在すら王とブランしか知らなかったはずだった。
(知っていたアスールさんは…彼は召喚魔法を試していた事に驚いていた…)
「では、聖女様はそれ以前に邪神の存在を知って居た…と言う事ですか?」
「正直に話すとそうね。あの時に勇が邪神を倒す勇者で、貴女が邪神を持っているのも…知って居たわ」
「どうして…」
聖女の膝の上にある手に力が入り、ぎゅっとスカートを握りしめた。
「ブランが言っていた、新しく発見された書物…アレを既に読んでいるからよ」
「解読が必要なのでは?」
「あれは教会の…教皇しか教えられない文字で書かれているわ。私は書物を見た時、彼がいつも持っている本の文字に似ていると思って…勝手に借りたのよ」
教皇が一日中抱えている本は、創造神への愛が綴られた聖書ではなく、勇者の王女との子が書き残したプリシカ国の言語と勇者の国の言語との翻訳本だった。
教皇からすれば、一番に守らねばならなかった本でもある。
それを、聖女は隙をみて勝手に拝借した。
「偽物を作って表紙を変えたら、結構な期間バレなかったわ」
聖女が少し得意げな表情をした。
「そして、あの本を呼んだ。中はノワール国の女王と邪神の事が書かれていたわ。誰かの手記の様でね…女王が裏切られた苦しみに、日に日に狂っていくのが…詳細に書かれていた」
本の内容が明らかになれば、女王の様に誰かが邪神を持っている。
そう、推測されるのは時間の問題だった。
聖女は、誰にも邪神の存在の追及をされたくなかった。
『そんなの、ただの御伽噺じゃないの?』
そんな、何も知らないロホの言葉に便乗し、その場を流したのだった。
「それで邪神の存在を知ったとしても、私の中に存在していると…何故分かったのですか?」
聖女は大きく息を吸った。
そして、セピアをじっと見る。
「オールの…婚約者候補が集められた日…貴女を見たわ」
「私も覚えています」
「そこで、誰よりも…貴女は光って見えた」
聖女の頬が少し赤くなる。
聞き方によっては、気障なセリフだ。
聖女は、熱くなった頬に手を当てる。
自身の冷たい手が、冷やすのに丁度良かった。
「でも、たった一度…見ただけ…で?」
探る様な視線のセピアが、聖女の目を覗き込む。
「…私が…貴女の中に邪神を見つけられたのは…私の中にある神の力が反応したからよ」
聖女の言葉が濁して発せられたモノだと、セピアは分かった。
『神の力が反応した』
それは恐らく、陰と陽真逆の存在であっても、神は神なのだ。
だから…反応した。
その反応は…聖女にセピアへの想いを植え付けたのかも知れない。
「あっ…」
セピアは思い当たってしまった考えに動揺した。
首筋から冷たい汗が噴き出て、背へ流れる。
(聖女様は…だから…私を…)
頭の中でも言い切りたくはなかった。
聖女が『聖女の中の神が邪神に反応したから、セピアへ愛を説いていた』などと。
「誤解しないでセピア」
懇願する様に、聖女がセピアの手を握った。
言い辛さの原因を、聖女も分かっていた。
「私は…貴女に邪神が居なくても、貴女が好きなのよ…」
聖女は、セピアが己の想いを『神の反応によって作られた物だ』と思ってしまわないか。と不安だった。
予感は的中したのだと、目の前のセピアを見て思う。
二人の間に重苦しい沈黙が流れた。
感情が嘘なのか、本当なのか。
確かめたくないが、このままでも落ちつかない。
セピアは胸に大きな石を抱えた様な気がした。




