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聖女に愛された侯爵令嬢は愛を貫く決意をする  作者: 樋口 涼
聖女の愛

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2

「セピア…どうか…私を見て欲しい」


部屋の照明を背にした黒い影は、セピアににじり寄って来た。


「やっと…逢えたのだ…」


邪神は手を伸ばし、セピアの頬に触れる。

セピアは小さく首を振った。


「聖女…様は…」

「今は中に…」

「貴方…は…、名前は…」

「名はない…」

「…どうして…聖女様に…?」

「聖女が吸い込んだからだ」


(え…吸い込んだ?)


「私が昔、瑠理香に付けた跡が、生まれ変わりである君に付いていた…」


(…お腹の…あれ…?)


「それに彼女が…口付けをしてしまった」


(あ…あの時の…)


「間接的な…モノだろうか。私は聖女に吸い取られ…」

「そんな…聖女様は…どうなるの?」


セピアの目尻に涙が浮かんだ。


「大丈夫よ」


セピアの目の前で、今度は黒い部分が銀色に反転する。


「押さえ込めば私は私に戻れるから」

「聖女様!!」


セピアは目の前の聖女に抱き着いた。

銀色の髪に金貨色の瞳、そして花の香。


「良かった…せいじょ…さ…ま?」


ホッとしたのも束の間、セピアの腕の中には邪神が居た。

セピアは離れようとしたが、グッと抱きしめられて逃げる事が出来ない。


「はな…して…」

「怯えないでくれ…」


悲痛な声がセピアの耳に響いた。

触れあう胸から、心臓の鼓動が伝わって来る。


「こうすれば…私の黒が…見えないだろう…?」


セピアは邪神の抱きしめる手が、震えている気がした。

ただ…そう言われると、黒髪は見えるのだが、セピアは頭を少し動かした。

細い華奢な肩しか見えない。


「ふふふ」


邪神がセピアの気遣いに気が付いたのか、笑った。


「君は…優しいな」

「私は…タドミール女王では…ありませんよ」


黒髪を見ない様にした所為か、セピアは落ち着きを取り戻していた。


(ちゃんと話を…した方が良いのね…)


セピアの中で対話する覚悟が出来た。

トラウマになっている黒髪さえ見えなければ、夢の中と何も変わりはない。

それに、聖女の花の香りが、セピアに安らぎを与えてくれた。


「分かっているよ。彼女とは違う事を。しかし、恋焦がれてしまう…」

「違う人間なのに…ですか?」

「魂の匂い…だろうか。…やはり君は彼女の生まれ変わりなのだと、私には分かってしまう。そしてその匂いで魅かれ、求めてしまう」


邪神はふっと軽く笑った。


「聖女の言う通り…私も馬鹿なんだ」


キュッと邪神の腕に力が入る。

セピアは力強さを感じながらも、痛くなかった。


「君に逢いたくて…君を自分の物にしたくて…たまらない」


触れたかった。と、邪神の声が切なく漏れた。


「それでも…私は…オール様の…婚約者です」


セピアは自信のないまま、今の自分は『オールのモノ』だと答えた。

俄かに邪神の纏う空気が変わった。


「…人間の決めた…それに…意味はあるのか?」


苛立ちを含んでいた。


「…人間同士の…約束です」

「約束…か。…瑠理香も…約束をしていたのに…裏切られた。人間同士の約束など…軽く、破られるものだ」


セピアは首を振った。


「容易く破られるものもあるでしょう。しかし、私は破れません。彼が破棄を言わない限り」


セピア邪神から少し体を離し、顔を見て宣言した。


「ふふ…君らしい…」


金貨色の目が細くなる。

その瞳が、聖女の笑った時と同じだった。


ズキッ


セピアは胸が痛んだ。


(邪神…が笑っているだけなのに…)


「しかし、人間は変わる…誠実で優しかった彼女が…変わった様に」


邪神はそう言うとまた、悲しげに笑った。


「もう良いでしょう?」


聖女の声と共に黒髪がひと房に戻る。


「ごめんなさい、セピア」


邪神の想いが強すぎて制御しきれない時がたまにある。と、聖女はセピアに説明した。


「それでも、聖装なら押さえ続けられるから…着ていたのよ。力も使えるままだし…」

「聖女様」


説明を続けようとする聖女に、セピアはベッドに正座し強めの声を出した。


「な…何?」


セピアの様子に、聖女が姿勢を正した。

二人共ベッドの上で正座し、向き合う。

セピアの眉間に少し、皺が寄っていた。


「どうやって…と言うか、どうして邪神を吸ったりしたのですか。何故…聖女様の中に…」


セピアの顔が悲しいのか怒って居るのか、複雑な面持ちを浮き上がらせていた。


「それは…」

「制御って…何ですか…危険はないのですか…?」

「…」


セピアの顔を見る聖女は、困った顔をした。


「危険性は…有るかどうか分からないわ」

「ならどうして」

「…邪神の存在を知った時から…そうしようと…思っていたのよ」

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