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裏切られた黒川瑠理香は女王として君臨し、女性による女性の為の国を作った。
今のノワールの逆だ。
男が虐げられ、奴隷になった。
女の好みに合わせ顔を作り替えられ、好みに合わぬ者は殺されていく。
筋肉の有った身体はやせ細り、男達は見目を競い合う。
女を喜ばせる手管に、女を喜ばせる言葉。
歯向かえば、女王による死が刃を揺らして待ち構えている。
処刑台の血は川に流れ、豊かだった土地は枯れた。
眩く照らされた灯りも、陰鬱な暗さに変わり、空気も汚れる。
皆が歪み始めていた。
女達は男の子供を産むと、全て殺し、その幼き血を飲む事で美貌や若さを手に入れた気になっていた。
母親ですら、男児に愛情を持たなくなっていた。
それでも、一定の働き手が要る。
近隣のファシスやアグリナから、労働者は手に入れた。
女王の腹は、虐げられた男達の憎悪と共に日に日に大きくなっていく。
出産は命を賭けたものだった。
女王の命も危ぶまれた時、赤子の声が城内に響き渡った。
侍女達は喜びの声を上げて良いのかと、躊躇われた。
生まれたのが男児だったからだ。
『瑠理香はもう、民達同様狂っていた』
黒川瑠理香は産んだ男児を自らの手で殺そうとした。
短剣を持ち、産後の血もまだ流れている時に、自身の血を纏った赤子に刃を突き立てた。
しかし、それは未遂に終わった。
奴隷の一人が身を挺して庇い、赤子の代わりに死んだのだ。
しばし、彼女は絶命した奴隷に抱かれている息子の様子を眺めた。
女王の血と奴隷の血。
その中で、紅い顔をして泣き叫ぶ赤子。
『この…奴隷の名前は?』
瑠理香は側に控え、奴隷にも赤子にも触れない侍女に声をかけた。
『…ヴェンジェンスと…言う者です』
『そう…』
瑠理香はふふっと笑った。
『この子をヴェンジェンス・ノワールと名付け、この国の王子とします』
男児は殺される筈だった。
しかし、それ以上に女王の言葉は絶対だ。
女王の言う通り、男児はノワールの王子として育てられる。
『私の血と…奴隷の血にまみれた王子』
女王はそう呟くと、盛大に大声で笑い声をあげた。
目を見開き声高々に笑う女王に、侍女達は恐怖に慄き身を寄せ合った。
誰も、泣いたままの赤子を抱こうとはしない。
『可哀想に…可哀想に…』
魔法で男児を浮かび上がらせると、奴隷の体が床に落ちた。
『可哀想に…可哀想に…』
奴隷の体は拉げて丸まり、一つの塊になると朽ちた。
女王の体に封印された邪神が食べたのだ。
『可哀想に…』
女王は自分の目前で、赤子をクルクルと回した。
浮遊呪文は胎児の周りの血液も浮かせ、回していた。
どの血が女王の血で、奴隷の血か、分からないまでに混ざり揺れ、回る。
誰にも聞こえない声で、女王は呟いた。
『いつか、お前は私を殺すだろう』と。
(…それは…予言だったの?)
セピアは女王の言った通り、息子に彼女は殺された事を思い浮かべた。
『予言なんかでは無い』
(でも、その通りになったわ)
『瑠理香はそう仕向けたのだ』
彼女は自分を殺させる為に、殺す様に仕向けた。
憎しみを与え、絶望を与え、力を与えた。
『私を開放し、世界を滅ぼす為に』
だが、それも失敗に終わる。
首を切られた女王は死に、邪神は解き放たれた。
『私が自由になった瞬間、目の前に聖女と名乗る女が現れた』
相手は邪神とは反対の聖なる力を使う。
聖女は邪神を、女王の血縁であるヴェンジェンスに封じた。
疲弊していた邪神は、女王の時の様にお互いの意思を感じる事も、外に出る事も出来ず、血の中で深い眠りにつく。
『聖女はヴェンジェンスを殺さなかった。何故かは私には分からない。だが…そのおかげで』
声の主の想いがセピアに流れて来た。
『私は逢いたいと…想いを抱え…長い年月を過ごし、ここへ辿り着いた』
セピアは何かが自分を包んだような気がした。
『そしてお前に逢えた。それだけは…あの聖女に感謝する…』




