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オンブルの奴隷に戻ったピュアレの一生は、そこからは地獄だった。
ただ一つ、救いだったのは、それがたった数年と言う短い間だった事だけだ。
オンブルは手元に戻った彼女に、一切手を触れる事は無かった。
彼女の「分かりました」と言う一言を聞いた後、一言も言葉を交わさず、従者へ一言二言指示をした。
それが、二人が会った最後だった。
ピュアレはセピアが見た女達と同様、兵士の慰み者になり、屈辱を与えられ、切り刻まれて『魔法の基』になった。
どれ程救いを求めても、その声は男の劣情を煽るだけで、聞き入れられはしない。
指先から削られ肉が骨に変わろうが、美しかった髪の代わりに削がれた傷が頭を覆うとも、男達はそれを嘲り、笑い、楽しんだ。
ピュアレは幾人か、アスールの異父兄弟を産んだ。
だが、手厚い処置など無い彼女は最後の子を産むと、静かに精霊の元へ還った。
奇しくも、今のアスールと同じ歳だった。
彼女の残された子供は、プリシカ王国に潜入していたアスールを残して、全て『魔法の基』になった。
オンブルの叶わなかった愛や、ピュアレの最期。
そして、異父兄弟達の犠牲。
それはアスールには届かない真実だった。
(…これは…誰の記憶なの…)
『君の記憶だ』
(私は…知らない…生まれてないもの…)
『君が母親の胎内で、見た記憶だ』
(…検知魔法…?)
『あの頃、君の魔力は封印されておらず、身の回りの全てを見ていた』
母親がピュアレの結末を知り、あの屋敷を逃げた時も。
プリシカへ逃れた時も、母親が死に侯爵家の二人に拾われ、アズとコネクの力で封印されるまで。
セピアはそこに在る者として、見聞きしていた。
『赤子が理解するには速過ぎただろうが、現在の君には周りの人間が何を話し、何をしていたか分かるだろう。封印と共に閉ざされていた記憶が解かれ、蘇ったのだ』
(要らない…記憶だわ…)
セピアはぎゅっと布を掴んだ。
『いいや、必要な筈だ』
(何故?)
『君は素性を知るべきだ』
(公爵の…娘だと?)
セピアに応える声は、首を振った様に感じた。
『全ての因果と女王と勇者の子孫だと言う事を』
(何故?)
『私を受け入れる為に』
(貴方を?)
『そうだ』
声の持ち主は、低いような高いような、不思議な声色をしていた。
性別の無い、大人でも子供でもない…しかし、知性のある話し方から、セピアは子供ではないと思った。
それに同意するかの様な感情が、セピアへ流れて来た。
『私は、瑠理香を捨てた、あの裏切り者を許さない』
流れて来る感情に、憤怒の色が見えた。
その中に僅かな悲しみもあった。
(瑠理香…女王ね?)
『そうだ。だから、私と共に世界を滅ぼしてはくれないか?』
(いきなり何を言うの)
『勇者は子を成しながら、彼女を捨てた。古の国の甘言に乗って彼女を裏切った』
憎しみが黒い波の様に押し寄せた。
『彼女は私を、自らの体内に封印した』
(子供の肉体に貴方は宿ったの?)
『違う。その時はまだ孕んでいない。私は彼女の体に封印されたのだ』
(封印されたのは…恨んでないの?)
セピアの言葉に、声の主は戸惑いの色を出した。
『…初めは…暴れた。抵抗したのだ。この世に生まれ出でたのだから自由が欲しかった。殺戮も楽しかった。私が私で生まれた意味を満喫したかった』
だが…と声の主は言う。
『戦争の所為で生まれた私を、瑠理香は受け入れてくれた』
声の持ち主は悲し気だった。
誰かの思念か、そこに居た者達全ての邪念か。
混じりに混じった負の感情が形を作り、人を襲う。
戦場の真ん中に生まれたソレを、彼らは共通の敵として討とうとした。
古の国が召喚魔法で異世界人を呼び、生き残ったのがその二人だった。
『瑠理香は聖女と呼ばれ、ヤツは勇者と呼ばれた…』
勇者と言う言葉に一層憎しみが灯った。
『聖女を祀った国が建ち、彼女に子が出来た…祝福の時を以て私は消滅できたはずだった』
なのに。
勇者は消えた。
子を孕んだ瑠理香と子供を置いて、自分を召喚した古の国の王女と共に。
『…勇者はこの世界に来た事を心底喜んでいたからな』
黒髪の16歳頃の少年が、両手を上げて叫んでいた。
『俺がチート能力で覇者になる!!女も世界も俺の物だ!!』
(…え…何この人…)
『チート能力なんてヤツには無かったがな。…むしろ無能だった』
(こんなのが…)
ショックを受けるセピアに、声の主は追い打ちをかける一言を放つ。
『瑠理香の後ろに逃げて、生き延びただけの男だった』
(…あぁ…)
『だが…瑠理香はヤツを…』
愛していた。




