3
アズの妹であるピュアレは、奴隷として捕まった大勢の魔法使いの中に居た。
数いる水属性の魔法使いの中、一際美しい青い髪を持ち、容姿の整った女性だった。
オンブル伯爵は色分けをしている時にふと、彼女と目が合った。
その頃、全ての奴隷の権限は子爵である彼に無く、他の貴族預かりになっている為、それを奪う事は出来なかった。
しかし、一度見たピュアレをオンブルは忘れられずにいた。
いつかは伯爵になれるだろうと思っていた彼だが、その道は険しい。
強さと功績がなければ、門は閉ざされたままだ。
ノワールの人間と他の魔法使いでは、子が生まれ難い事が分かっていた。
属性による拒否反応が強いのか、ファシスやアグリナの様に根本的な遺伝子の原因か。
長年研究をしていたが、成果はそれほどなく、ウルネスの女は、ノワールからすれば外見的要因で論外だった所為で、ノワール人同士かアロガンの人間との交配でしか、子が出来なかった。
しかし、それは遺伝子の多様性を無くしていく。
それを打開するために、プリシカから攫った魔法使いの遺伝子を調べ始めたのが、オンブル子爵だった。
深く考えていない他貴族には無駄だと笑われもした。
しかし、あわよくばピュアレを『実験台』と称して自分の物にしたかった。
そしてそれは、成功した。
ピュアレを我が物とし、彼女は子を孕んだ。
例が無かった訳では無いが、これは正に奇跡に近い確率の誕生だった。
水属性の青い目。
そして、母親に似た特に美しい青い髪。
オンブルの黒など一ミリも混ざっていない様に見えた。
だが、顔はオンブルにそっくりだった。
彼は満足だった。
ピュアレから自分は愛されていない。という事に無自覚だった事だけが不幸だった。
彼女を抱く度に腕の中で泣く彼女を、理解できなかった。
生まれた赤子を愛せないと、乳をやる事もせず、世話をしない事も、何故だか分からなかった。
オンブルは多くの奴隷が、奇跡の子を自身の子として愛しむのを見て来た。
だから、ピュアレもそうなると思っていた。
だが、彼女は容易くアスールを置いて逃げた。
自分が実験用に攫って来た金髪の男が連れていた、プリシカの聖女と共に。
陞爵し伯爵になろうという時にだ。
これは、彼にとって屈辱の汚泥だった。
オンブルの息子は母親の顔も覚えていない。
奴隷の女に逃げられたオンブル。
そして、子供は不名誉にも後継者になり得ない色を持っていた。
実験が成功した末の、奇跡の子供であっても、黒以外は後継者になれない。
それでも、遺伝子実験の必要性や実用性を買った王は、彼に伯爵の位を授けた。
伯爵になったオンブルは、実験にますます力を入れた。
妹を探しに来たアズが、何を間違えたのか、公爵家の奴隷の中に紛れたのも運が良かった。
すぐに公爵から目を付けられ、寄越された。
オンブルは、アズの探す妹がピュアレだとは思っても見なかった。
アズとピュアレは、双子だったが似ていない。
それに、兄妹を探す奴隷など、掃いて捨てる程いるのだ。
ただ、微かにピュアレの面影が見える男に、つらく当たっていた。
嫉妬だった。
その姿は凄まじく、公爵家の執事にも噂話として流れる程で、口を縫われたメイド達ですら、食事用の穴から呻くほど酷い物だった。
奴隷からは恐れられ、他貴族からは称賛の声が上がる。
『オンブルは狂ったと思っていたが、思い違いだった』
ノワールの貴族達は、女々しくもオンブルが奴隷を愛したと思っていたが、それは間違いだったと声を揃えて言った。
『ノワールに愛など必要ない』
男達は口々に謳った。
しかし、公爵夫人だけは違う。
彼女だけは、オンブルが愛ゆえに狂い、ピュアレへの憎しみを吊り上げたのだと理解していた。
アスールを産んだ直後の彼女の部屋。
彼女の意識の無い中で、オンブルが一人彼女の髪を撫で、ひと房にキスをし、涙を流した瞬間を、たまたま通りかかった彼女は見ていたのだから。
しかし、伯爵になった彼は以前の彼ではない。
入れ違いでノワールに自ら捕まった兄の事を知ったピュアレが、公爵に連れられ戻って来ると今度は逃げられない様に交換条件を突きつけた。
『兄の身代わりになれ』
ピュアレはそれを受け入れた。
また、以前の奴隷生活が始まるだけだと、彼女は思い込んでいた。




