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トクン…トクン…トクン…。
トクン…トクン…トクン…。
トクン…トクン…トクン…。
(これは…誰かの心臓の音)
トクン…トクン…トクン…。
トクン…トクン…トクン…。
トクン…トクン…トクン…。
(お母様…なのかしら。いいえ、侯爵家の母は…母ではない)
トクン…トクン…トクン…。
トクン…トクン…トクン…。
トクン…トクン…トクン…。
(でも…安心する)
『公爵家の子供が女だと!?殺せ!』
『いいえ、この子は産みます!』
『許さぬ。王の血筋である私に、そんな不名誉な事が起こって良い訳がない』
『やっと授かった一子ですよ!?』
男女の争う声がする。
『一子目だからこそ、男でなくては!』
『いいえ。この子は』
バシッ…
叩く音がくぐもって聞こえた。
『奥様!!』
『旦那様。落ち着きを』
側で男女の声が上がった。
二人共、口論をしている男女より歳をとっている声だ。
『私に指図するのか?』
『いえ…出過ぎた真似を致しました』
『医者を呼べ。子供を下ろすのだ』
ドクン…ドクン…ドクン…。
ドクン…ドクン…ドクン…。
ドクン…ドクン…ドクン…。
(不安が…広がっていく音だわ…)
『公爵様。もう下ろせる時期ではありません』
カチャカチャと金属音を立てている男が、公爵様と呼ばれる男に言った。
『では、殺せ』
冷たい声に、心拍が速くなる。
ドクン…ドクン…ドクン…。
ドクン…ドクン…ドクン…。
ドクン…ドクン…ドクン…。
(私の音かしら…それとも…)
『胎児を殺す事が、奥様を殺す事になっても…ですか?』
『女など変わりは居る』
『いいえ、奥様は他の女とは違います…それを知って居て娶られたのでは?』
『…どう言う事だ』
男は初耳だという声を出す。
『初代女王の息子…邪神大戦後に即位した女王を討ち、現在のノワールの秩序…『力こそ全て』を作りし王の、消えたかの様に思われていた血筋でございますれば、現王の血筋である貴方様との釣り合いが取れましょう。他では…』
『それは…本当か?』
『はい。彼女はタドミール女王ともう一人の勇者の子であったヴェンジェンス・ノワール王の子孫です』
(女王と…勇者の…子供…)
トクン…トクン…トクン…。
ドクン…ドクン…ドクン…。
トクン…トクン…トクン…。
ドクン…ドクン…ドクン…。
『この子をセピアと名付けます』
『…』
『反対しないのですか?』
『産むのを許そう』
『本当に?』
『あぁ。…だが』
ドクン…ドクン…ドクン…。
ドクン…ドクン…ドクン…。
ドクン…ドクン…ドクン…。
『もしも、黒髪で黒色の目をして居なければ…その時は、命はない』
『そんな!』
『怯える必要はないはずだ。我々の子供であれば…黒色を持って生まれる』
『まだ…疑ってらっしゃるのですね』
『…』
『あの人は…貴方が殺したではありませんか…』
『奴隷の分際でお前を狙った男の事なら…』
『アズはただ…私を気遣ってくれただけなのに…』
『アイツの名を呼ぶでない』
(アズ…?)
『…アイツの名は呼ぶな…いや、ハッキリ言っておこう。あいつは自分の妹を犠牲に生き延びた』
『何ですって?』
『アイツの双子の妹、ピュアレを覚えているだろう?』
『彼女に…何をしたの』
『オンブル伯爵の元へやった』
『なんて事を…彼は…』
『聖女を取り逃がしてから、特に水の魔法使いに恨みを抱いている。…どんな目に遭っているかは…想像に容易かろう』
『そんな…』
女の泣き声が聞こえる。
男は逆に薄く笑っていた。
『自分の子供が水の色を持って生まれたのも原因だろうが…皮肉だよな。兄は火の属性、自分は闇で継げたと思えば、後継者が…よりによって…水とは』
(その子供は…アスールさん…なのね)
『いいえ、いいえ…』
女は泣いて首を振る。
何を否定して居るのか、男には分からない様だった。
『まあ、黒を持って生まれる事を祈っておく事だ』
男はそう言うと、ドアから出て行った。
一人きりになったというのに、女の心音は激しく打っていた。
『オンブル伯爵…は…愛していたのよ…』
女は独り言を苦しそうに吐く。
『一度…奴隷として捕まった…ピュアレを…』




