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マホンの土魔法が解けると、プリシカ王国の国王が住む、いつもの王城が目の前に在った。
朝焼けが城壁を美しく照らし、門番達の目を刺激していたが、土から現れた六人の方が、彼らの目を覚まさせるに役立った。
「オール様!!聖女様に…聖人様達!?」
一人は叫ぶとすぐに城内に走り、王に知らせを送った。
残りの一人はブランに担がれているアスールに驚き、治療をと勧めようとした。
しかし、オールに無言で制止され、ちらりと視線を聖女に向けた。
同行している聖女が治癒魔法を施していない事に疑問を持ちながらも、何も言わずに頭を垂れ城内へ歩みを進める六人を見送った。
王の部屋に六人が入る訳にもいかず、ましてボロボロの罪人も居る。
オールは聖女にセピアを頼み、ブランとマホンにはアスールを頼むと、ロホを伴って王の部屋に向う事にした。
「私が、王に…いや父に、伯父上とノワールの話を前だってして置く。皆は身支度を整えろ」
「セピアを部屋に送ったら、私は合流するわ」
「聖女様…私も…」
「セピア嬢は…今日は休め。…マホン。聖女と共にセピア嬢の部屋へ…彼女の…護衛を頼む」
「分かりました」
マホンがセピアの方へ移動し、三人の背をオールは見送った。
「すみません」
ロホがオールへ言うと、許可を得る間もなくセピアの元へ走った。
そして、もう一度セピアを抱きしめると「お帰りなさい」と囁いた。
セピアの「ただいま」と言う声が、オールの耳にも届く。
本来ならば、セピアを抱きしめ、慰め、生きて帰って来てくれて良かった。と、彼女の耳元で囁くのはオールがするべき事だった。
婚約者なのだから。
「ブラン。兵を一人付けよう」
「私は大丈夫です。彼はこの通り、動ける状態ではありませんから」
オールはちらとアスールを見た。
アスールはその視線に応じる様に、瞼を閉じた。
「そうか」
では、行け。とブランに言うと、ロホがオールの横へ付いた。
「勝手を…いたしました」
ロホが片膝を付く。
「いや、良い…」
オールが背を向け、城内に入っていくのを、ロホは半歩後ろで付いて行った。
「セピア?」
聖女は足を止めた。
オールとロホのやり取りを見るセピアの、足が止まったからだ。
それに伴ってマホンも止まる。
「どうかした?」
「ううん。なんでも…無いです」
セピアは聖女に、首を横に振り答えた。
聖女の左手がセピアの背に触れ、先を促す。
「顔色があまりよろしくない様で…」
マホンが木の椅子を出そうとする。
それで、セピアを運ぶ気だった。
「大丈夫です。マホンさん。貴女も…疲れているでしょう?」
ノワールからプリシカへの移動魔法は、そう安易な物では無い。
しかも、オールや聖女達をノワールまで運んだ後でもある。
往復にかかる魔力の消費量は、途轍もないはずだった。
「私ですか?私は大丈夫です。穴を掘って土を流して動かしただけですから」
「セピア、貴女は…」
聖女の声が遠のいて行く。
そして、視界がぐらりと揺れた後、セピアは背中に草の感触を感じていた。
(あぁ…、限界なのは…私…ね)
聖女の顔とマホンの顔が、覗き込んでいるのが分かった。
(…オール様は…助けに来てくれたけど…)
オンブル伯爵と対峙し、剣を彼に向ける背中を思い出した。
セピアはその背を逞しく思ったし、嬉しく思っていた。
(怒っていたなぁ…)
聖女と共に。
アスールと共に。
オンブル伯爵へ。
(だけど…)
セピアは目を閉じた。
暗い穴の中へ落ちる様に、意識がすうっと薄れていく。
『大丈夫か。セピア嬢』
移動中の土の中、オールが声をかけてくれたのもセピアは聞こえていた。
あの時、頷くのが精いっぱいだった。
(嬉しかった…のに)
セピアは花の香りを感じた。
そして、ぎゅっと何かを握った。
『セピア。お前は…』
(…そう)
『怖かったんだな』
(…えぇ。…そう)
「セピア!しっかりして。マホン!急ぐわよ!」
「セピア嬢をこれに」
「落とさないで。飛ぶわよ!!」
身体が浮かぶ。
聖女とマホンが、気を失ったセピアを木の籠の中へ寝かせ、飛翔魔法で飛び立った。
(…あぁ。私…)
止まった筈の涙がまた、溢れ出す心の中の恐怖と共に流れ始めた。




