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「あっ…あのっ」
メイド達が部屋のテーブルに、簡単にお茶と菓子の用意をして下がると、勇がセピアに声をかけた。
「…?」
扉を閉め、立ったままブランの上着を握りしめている勇に、セピアは近付く。
(何はともあれ、まずは…)
「名前を言っていなかったわね。私はセピア。セピア・ソレイユよ」
ぎこちないが顔に笑みを浮かべ、スカートを持ち、礼をする。
「あ…私…」
「立花勇さん。…どう呼べば良いかしら?私の事はセピアで」
セピアがそう告げると、俯き加減だった彼女が顔を上げた。
「あの…セピアさんって…日本の方ですよね?」
聞きなれない国の言葉に、セピアは驚く。
(日本…日本って何)
そう思いながらも、よく読む隣国の小説を思い出す。
そして、異世界の国名なのだろう。と、考えに至る。
「貴女が…居た世界の国ね?」
「え、えぇ…はい。…違うのですか?」
「そうね。私はこの国、プリシカ王国のソレイユ侯爵の娘よ」
セピアの答えに、勇は目に見えてしょ気る。
「同じ日本人が居ると…思ったのに」
勇はあの場に居た中で、唯一セピアを自国の者として誤認していた。
鏡に映る二人は、他の者達より近い見た目をしている。
セピアの黒髪と勇の焦げ茶色の髪。
セピアの黒目と勇の黒に近いがこげ茶の目。
そして、丸顔。
「誤解させた様でごめんなさい」
セピアは眉を下げる。
「あ、いえ!こっちこそ…ごめんなさい。でも…」
似た雰囲気を持つセピアに、勇は安心を覚えていた。
外見に寄る親近感。
そう二人は思った。
「私が勇者なんて…」
立ち話も何だからと、テーブルに着くと勇は肩を落とした。
セピアにとっても、邪神の話も勇者の話も初めて聞く事で、何も知らない為彼女への言葉が見つからない。
「私…元の世界に戻れないのかな…」
セピアの胸がチクッと痛む。
物語では大抵、召喚された人間は戻れない。
目の前の子は死んでここへ来た転生者なのか、ただの転移者なのか、分からないが大抵は『そう』なのだ。
「貴女は…」
「あ、勇と呼んでください」
「勇さんは…ここに来る前の事を覚えてる?」
んーと。と、勇は思い出そうとした。
その時、部屋のドアがノックされる。
開けてみるとロホが「ハァイ」と手を挙げて、笑って居た。
「お邪魔しても良いかしら?」
そう言うと、するりと部屋に入って来る。
オールに言われて、二人の様子を見に来たと言う。
「オール様の護衛は?」
「大丈夫。監視にはマホンを付けて来たわ」
ロホは笑ってウィンクすると、勇に向かって笑いかけ、名を名乗ると握手を求めた。
(絶対、異世界から来たから興味が湧いたんだ…)
セピアは、白んだ眼をロホに向ける。
「そっ…そんな顔、しないでセピア…」
聖人とは言え、王の命である護衛を勝手に離れる事は出来ない。
だから、ロホの言う事は事実なのだろうが、それにウキウキでノリ、二人の元へ来た事が痛いほど分かる。
「はぁ…」
目を丸くしている勇と笑ってすまそうとしているロホの前で、セピアは大きなため息を吐いた。
ロホが同じテーブルに着くと、先程の話の続きを促した。
「ここへ来る前の事ですよね…多分、私の居た所は夜で…自分の部屋に居たと思います」
ロホが増えた事で気後れしたり、怯えたりするかと懸念したが、勇は落ち着いている様だった。
セピアとロホのやり取りの気楽さが、彼女の緊張を少し和らげたらしい。
「それで…光がいきなり周りを包んで…気が付いたら…机の上に…」
勇はテーブルに乗っていた事を、恥ずかしく思うのか顔を赤らめた。
「そう。今何か痛い所とか気分が悪いとかは無い?」
セピアが、勇の顔から肩辺りを見ながら聞いた。
見た所、血が出ていると言う事はなさそうだが…と心配になる。
「大丈夫です、ケガとかは無いです」
答える勇の腹が「ぐううぅっ」と鳴る。
「あ…」
更に彼女の顔が赤くなり、ボブカットの左右の髪が彼女の顔を隠す。
「ふふふ」
セピアとロホが思わず笑うと、勇はてへっと可愛らしい顔をした。
「お菓子をどうぞ」
テーブルにあるクッキーやチョコレート、甘いパンを勧めると、勇はお礼を言って手に取った。
「夕飯前だったんです…多分」
そう言って、美味しそうに菓子を食むった。




