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聖女に愛された侯爵令嬢は愛を貫く決意をする  作者: 樋口 涼
異世界から来た少女

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9/25

4

「あっ…あのっ」


メイド達が部屋のテーブルに、簡単にお茶と菓子の用意をして下がると、勇がセピアに声をかけた。


「…?」


扉を閉め、立ったままブランの上着を握りしめている勇に、セピアは近付く。


(何はともあれ、まずは…)


「名前を言っていなかったわね。私はセピア。セピア・ソレイユよ」


ぎこちないが顔に笑みを浮かべ、スカートを持ち、礼をする。


「あ…私…」

「立花勇さん。…どう呼べば良いかしら?私の事はセピアで」


セピアがそう告げると、俯き加減だった彼女が顔を上げた。


「あの…セピアさんって…日本の方ですよね?」


聞きなれない国の言葉に、セピアは驚く。


(日本…日本って何)


そう思いながらも、よく読む隣国の小説を思い出す。

そして、異世界の国名なのだろう。と、考えに至る。


「貴女が…居た世界の国ね?」

「え、えぇ…はい。…違うのですか?」

「そうね。私はこの国、プリシカ王国のソレイユ侯爵の娘よ」


セピアの答えに、勇は目に見えてしょ気る。


「同じ日本人が居ると…思ったのに」


勇はあの場に居た中で、唯一セピアを自国の者として誤認していた。

鏡に映る二人は、他の者達より近い見た目をしている。


セピアの黒髪と勇の焦げ茶色の髪。

セピアの黒目と勇の黒に近いがこげ茶の目。

そして、丸顔。


「誤解させた様でごめんなさい」


セピアは眉を下げる。


「あ、いえ!こっちこそ…ごめんなさい。でも…」


似た雰囲気を持つセピアに、勇は安心を覚えていた。

外見に寄る親近感。

そう二人は思った。


「私が勇者なんて…」


立ち話も何だからと、テーブルに着くと勇は肩を落とした。

セピアにとっても、邪神の話も勇者の話も初めて聞く事で、何も知らない為彼女への言葉が見つからない。


「私…元の世界に戻れないのかな…」


セピアの胸がチクッと痛む。

物語では大抵、召喚された人間は戻れない。

目の前の子は死んでここへ来た転生者なのか、ただの転移者なのか、分からないが大抵は『そう』なのだ。


「貴女は…」

「あ、勇と呼んでください」

「勇さんは…ここに来る前の事を覚えてる?」


んーと。と、勇は思い出そうとした。

その時、部屋のドアがノックされる。

開けてみるとロホが「ハァイ」と手を挙げて、笑って居た。


「お邪魔しても良いかしら?」


そう言うと、するりと部屋に入って来る。

オールに言われて、二人の様子を見に来たと言う。


「オール様の護衛は?」

「大丈夫。監視にはマホンを付けて来たわ」


ロホは笑ってウィンクすると、勇に向かって笑いかけ、名を名乗ると握手を求めた。


(絶対、異世界から来たから興味が湧いたんだ…)


セピアは、白んだ眼をロホに向ける。


「そっ…そんな顔、しないでセピア…」


聖人とは言え、王の命である護衛を勝手に離れる事は出来ない。

だから、ロホの言う事は事実なのだろうが、それにウキウキでノリ、二人の元へ来た事が痛いほど分かる。


「はぁ…」


目を丸くしている勇と笑ってすまそうとしているロホの前で、セピアは大きなため息を吐いた。

ロホが同じテーブルに着くと、先程の話の続きを促した。


「ここへ来る前の事ですよね…多分、私の居た所は夜で…自分の部屋に居たと思います」


ロホが増えた事で気後れしたり、怯えたりするかと懸念したが、勇は落ち着いている様だった。

セピアとロホのやり取りの気楽さが、彼女の緊張を少し和らげたらしい。


「それで…光がいきなり周りを包んで…気が付いたら…机の上に…」


勇はテーブルに乗っていた事を、恥ずかしく思うのか顔を赤らめた。


「そう。今何か痛い所とか気分が悪いとかは無い?」


セピアが、勇の顔から肩辺りを見ながら聞いた。

見た所、血が出ていると言う事はなさそうだが…と心配になる。


「大丈夫です、ケガとかは無いです」


答える勇の腹が「ぐううぅっ」と鳴る。


「あ…」


更に彼女の顔が赤くなり、ボブカットの左右の髪が彼女の顔を隠す。


「ふふふ」


セピアとロホが思わず笑うと、勇はてへっと可愛らしい顔をした。


「お菓子をどうぞ」


テーブルにあるクッキーやチョコレート、甘いパンを勧めると、勇はお礼を言って手に取った。


「夕飯前だったんです…多分」


そう言って、美味しそうに菓子を食むった。

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