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四人が逃れた先は、暗い洞窟の中だった。
奥から漏れ出る灯りが、セピアには遠く感じた。
「しっかりして、セピア」
耳元で聖女の声がした。
暖かい風が四人を包み、浮遊させると、巻き込む様に引き寄せる。
いつもの花の香りがセピアの鼻孔に広がり、柔らかな銀髪が瞼をくすぐった。
「もう、大丈夫。大丈夫だから」
セピアを抱える聖女の右手が頭を撫で、左手が背中を強く支えた。
ぎゅっとセピアは聖女の腰に抱き着いた。
その力に応える様に、聖女もセピアを抱きしめ返すと、セピアの我慢しきれない泣き声が漏れ始めた。
「大丈夫」
聖女の声に、セピアは頷いた。
何度も何度も、確かめる様に頷き続けた。
自分の震えも、微かに感じる彼女の震えも、地獄から解放された安堵に変わる。
ふわりと浮遊感が起きた時、体は灯りに照らされた開けた場所で止まっていた。
聖女の体から手を緩め、振り返った目の前にブランとマホンが立っていた。
彼女らの姿を確認した矢先に、ぼふっと視界が暗くなる。
聖女ごとセピアはロホに抱きしめられていた。
「痛いわよ貴女」
聖女が少し苛ついた声で言うが、仕方ない。と、半ば諦めも含んでいた。
「セピアぁぁシェピアぁ…」
ロホは大粒の涙を零し、聖女の悪態を物ともしない。
セピアの頭にぐりぐりと頬ずりをし、ぎゅうぎゅうと二人を抱きしめた。
「痛い!痛いわよ!!セピアも痛がるわ!!」
セピアからロホの頭を離そうと、聖女がロホの顔を掌でグッと押し退けようとする。
しかし、首が在らぬ方向へ押し向けられようが、ロホは手を離さなかった。
「ロホ…大丈夫だから…」
涙の跡には雫がまだ、流れている。
それを見たロホが、また、ボロボロと涙を零した。
「その辺にして、こちらへ」
見かねたブランが声をかける。
「まずはここから飛びますよ」
そう告げるマホンが大掛かりな魔法陣を、地面に描いていた。
「いつ、追手が来るか分かりませんから…。相手は闇です。どこからでも追ってきますし、今も一歩先は闇です」
例えマホンの土魔法の中であったとしても。と、ブランはセピア達が通った入り口の先を指さした。
「もうすぐで描き終わりますので、準備を」
マホンの言葉に、聖女はセピアを立たせた。
縋りついたまま離れないロホを無視して、セピアへ回復魔法をかける。
だが、治せるのは体の傷だけで、心の傷は治せない。
「セピア」
聖女はセピアの両手を、自分の手で包んだ。
冷たくなっているセピアの手は、ずっと震えている。
「痛い所は無い?」
聖女の問いにセピアは頷く。
顎をくっ付けたままのロホの顔が、セピアの頭と一緒に動く。
聖女はちょっと、ロホにイラっとした。
だが、言及はしなかった。
聖女の代わりにブランがセピアからロホを離し、自分のローブをセピアの肩にかけた。
「君達は気が利かない」
ブランはそう言いながらロホはもちろん、アスールを抱えたままのオールに対しても、チラリと視線を投げた。
オールが少し言い訳をしたがっていたが、自分の周りを見渡すと近くに有った椅子へ、アスールを座らせた。
アスールは身に着けていたボロボロの布を、手に取ったが「それは要らないです」とブランに制止される。
しょんぼりとしたアスールが、申し訳なさそうな顔をオールに向けるのを、セピアは見た。
「ふふふ…」
セピアが笑った。
一気に洞窟内の空気が和らぎ、聖女の花の香りが優しく広がり、つられてオールも笑う。
「本当に…良かった」
そう言って笑う彼の目には、薄っすらと涙が溜まっていた。




