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聖女に愛された侯爵令嬢は愛を貫く決意をする  作者: 樋口 涼
想いの所在

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84/100

4

四人が逃れた先は、暗い洞窟の中だった。

奥から漏れ出る灯りが、セピアには遠く感じた。


「しっかりして、セピア」


耳元で聖女の声がした。

暖かい風が四人を包み、浮遊させると、巻き込む様に引き寄せる。

いつもの花の香りがセピアの鼻孔に広がり、柔らかな銀髪が瞼をくすぐった。


「もう、大丈夫。大丈夫だから」


セピアを抱える聖女の右手が頭を撫で、左手が背中を強く支えた。

ぎゅっとセピアは聖女の腰に抱き着いた。

その力に応える様に、聖女もセピアを抱きしめ返すと、セピアの我慢しきれない泣き声が漏れ始めた。


「大丈夫」


聖女の声に、セピアは頷いた。

何度も何度も、確かめる様に頷き続けた。

自分の震えも、微かに感じる彼女の震えも、地獄から解放された安堵に変わる。


ふわりと浮遊感が起きた時、体は灯りに照らされた開けた場所で止まっていた。

聖女の体から手を緩め、振り返った目の前にブランとマホンが立っていた。


彼女らの姿を確認した矢先に、ぼふっと視界が暗くなる。

聖女ごとセピアはロホに抱きしめられていた。


「痛いわよ貴女」


聖女が少し苛ついた声で言うが、仕方ない。と、半ば諦めも含んでいた。


「セピアぁぁシェピアぁ…」


ロホは大粒の涙を零し、聖女の悪態を物ともしない。

セピアの頭にぐりぐりと頬ずりをし、ぎゅうぎゅうと二人を抱きしめた。


「痛い!痛いわよ!!セピアも痛がるわ!!」


セピアからロホの頭を離そうと、聖女がロホの顔を掌でグッと押し退けようとする。

しかし、首が在らぬ方向へ押し向けられようが、ロホは手を離さなかった。


「ロホ…大丈夫だから…」


涙の跡には雫がまだ、流れている。

それを見たロホが、また、ボロボロと涙を零した。


「その辺にして、こちらへ」


見かねたブランが声をかける。


「まずはここから飛びますよ」


そう告げるマホンが大掛かりな魔法陣を、地面に描いていた。


「いつ、追手が来るか分かりませんから…。相手は闇です。どこからでも追ってきますし、今も一歩先は闇です」


例えマホンの土魔法の中であったとしても。と、ブランはセピア達が通った入り口の先を指さした。


「もうすぐで描き終わりますので、準備を」


マホンの言葉に、聖女はセピアを立たせた。

縋りついたまま離れないロホを無視して、セピアへ回復魔法をかける。

だが、治せるのは体の傷だけで、心の傷は治せない。


「セピア」


聖女はセピアの両手を、自分の手で包んだ。

冷たくなっているセピアの手は、ずっと震えている。


「痛い所は無い?」


聖女の問いにセピアは頷く。

顎をくっ付けたままのロホの顔が、セピアの頭と一緒に動く。


聖女はちょっと、ロホにイラっとした。

だが、言及はしなかった。

聖女の代わりにブランがセピアからロホを離し、自分のローブをセピアの肩にかけた。


「君達は気が利かない」


ブランはそう言いながらロホはもちろん、アスールを抱えたままのオールに対しても、チラリと視線を投げた。

オールが少し言い訳をしたがっていたが、自分の周りを見渡すと近くに有った椅子へ、アスールを座らせた。


アスールは身に着けていたボロボロの布を、手に取ったが「それは要らないです」とブランに制止される。

しょんぼりとしたアスールが、申し訳なさそうな顔をオールに向けるのを、セピアは見た。


「ふふふ…」


セピアが笑った。

一気に洞窟内の空気が和らぎ、聖女の花の香りが優しく広がり、つられてオールも笑う。


「本当に…良かった」


そう言って笑う彼の目には、薄っすらと涙が溜まっていた。

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